愛する貴方へ
拝啓、お元気ですか?
経過報告、しますね。
僕の事なんて忘れろって言ったのに、って?
貴方の事は忘れないよ。 忘れてやるもんですか。忘れろなんて思った不届き者はそこに正座ね。
今私は人生という名の長い長い道を3人で歩いてます。
この前ね、産まれたばっかりの春を連れて貴方と一緒に歩いた海に来たよ。
いつか春が歩けるようになったらまた二人でこの思い出の海を歩けたらな、と。そんな夢ばかり膨らむの。
(そういえば近所のおばちゃんに、秋に産まれたのに『春』なんて変ね(笑)って言われたから、『
貴方と過ごした日々にはもう戻れないのね……貴方と離れてしまってから尚更そう思う。もうあの声も聞こえないし、二人で思い出の海沿いや、私が転んだ桜並木を歩くことももう出来ないのか……そう思うと胸が苦しい。
貴方が居なくなって静かになってしまうのかな……とも思ったけれど、思ってたより賑やかになりそう(春の夜泣きが激しくてもう既に倒れそうよー)。
貴方の手紙に書かれた沢山の溢れ出る
『愛してる』
これで私は頑張れるし、無敵になれる気がしてる。
私はそうして強い母親になって、守らなきゃいけない。
大事な、小さな春を胸に、春が折れちゃうんじゃないかってくらい毎日抱きしめるの。とっても表情豊かに笑う子でね、凄く可愛いよ。笑顔が貴方に似てる気がするわ。
そういえば、この前貴方の机をちょっと整理したんだけどね、なんであんな学生時代の恥ずかしい手紙なんてとっといてるのよ?! 私がどんな思いで書いたか知ってるんでしょう? 当時から皆にバレバレなくらいの貴方への想いを書こうとしてたのに、勉強してシャーペンで真っ黒になっちゃった手でそのまま書いちゃって……本当に後から後悔したの!
だからさっさとゴミ箱に捨ててって言ったのに……何律儀にファイルに入れて保管してるのよ。会社の書類はバラバラだったくせに。
ちなみにこの手紙も春と公園に行った後、砂利まみれの手で、相変わらずコップから水が溢れてしまうような、そんな貴方への愛を持って書いてるよ(笑)
わわわ! 寝かしてた春が起きちゃってそこからあやしてたらもう1時間経ってたよ……。怖いわー。
時間が経つのが速いといえば、貴方とサヨナラしてからもう一年も経つのね。時間の流れって残酷なくらい速くて嫌になっちゃう。これじゃすぐオバサンになっちゃうもんな……怖いなぁ……。すぐ春も大きくなって彼氏つくって家出てっちゃうんだろうなぁ……あ、貴方は家に居てよ?!
はぁ……また桜並木で貴方に『大好きだよ』って言われたいなぁ。ちょっと弱気になってるのかも。ちゃんと春を育てられてるのか心配で仕方ないの。だから貴方にもう一度言って欲しい、そうすればまた頑張れる気がするの。
……また生まれ変わったらあの思い出の桜並木で会おう、そこでまた貴方と並んで歩きたいの。ふたりでまたお花見行こうね。
ちょっと弱音吐かせて。
どれだけ一人で頑張っても天国に行ってしまった貴方には会えないの。貴方無しじゃ私はこんなに弱いんだと思い知らされてる。
私の中はずっと真冬のようで、夜には私の目から想いが溢れて頬を伝うの。
鬼のように突然貴方を奪い去っていった病気への怨みはいつまでも消えない。けどいつまでも怨み続ける訳にもいかないかな、と思ってる。だから、この気持ちは春にひらひらと舞うあの桜に託すことにしたよ。貴方と歩いたあの桜並木の桜にね。
あっ、また春が起きちゃいそうだからそろそろ手紙を締めようかな。
私はいつまでも貴方の事を忘れません。貴方は忘れて幸せになれなんて言ったけど、貴方を忘れてしまったら私は幸せになんてなれないよ。
私達は今とても困難な道に立たされているのでしょう。
でもどんなにつらくて遠回りな道だろうと貴方と一緒なら乗り越えられる。乗り越えてみせる。
あと半年もすれば第一次反抗期……魔の二歳児よ(笑)きっととても……今以上にうるさくなるね。でも私は楽しみよ。
時々心が折れそうになるけれど、貴方の手紙に書かれた愛に溢れた言葉に何度救われたことか。本当に私はあの手紙を読むだけで無敵な母親になれる気がするの。
無敵な私は貴方に伝え切れなかった愛も全部、春に精一杯伝えます。約束ね。
あとねー、ちょっとくらい不真面目じゃないと生きていけないんだなぁ、って最近凄く思うよ。ミルクって完全にサボりでしょ(笑)一人じゃやっぱり出来ることって限られちゃうからさ。
『真面目なだけじゃ生きてけない』、貴方の口癖。知ってた? 知らないでしょ(笑)
あー、やっぱりもっと貴方と一緒に居たかったな。貴方から学ぶことがありすぎた。
ねぇ、約束してよ。私がおばあちゃんになって、貴方の後を追って天国に辿り着いたらまた同じタイミングで生まれ変わってさ、あの桜並木で待ち合わせしようね。もう一回貴方に恋するから。
約束、一生のお願いね。
破ったら貴方の黒歴史を会社や大学にバラ撒くから(笑)
後世に残してやる。
あ、そうそう。近いうちにあの私が転んだ思い出の木のところに春を連れて行くから興味あったら来るといいよ。
じゃあまた来世で。
次もあの桜並木で会おうね。
敬具
葉菜より
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