プロローグ

「ん?」

 私は見てしまった。


「龍野君。ポーカー勝負を受けてほしいの」


 何事だろうか。

 国王陛下の娘である、姫様がポーカーとは。しかも、その恋人と。

 私は一も二も無く、阻止を決断した。

「いけません、姫様!」

 姫様は、ゆっくりと私を見られた。

「あら、フィーベルス伯爵。何故なのです?」

 自覚していらっしゃるのか、いななのか。

 私はどうにか理由を説明しようと、口を開いた。

「国王陛下の娘である貴女が、賭け事など!」

「私は龍野君の戦況分析能力を鍛えようとしただけなのですが?」

 さらりと返す姫様。

 実際、ポーカーでは――ポーカーに限らず、ギャンブルなら何でもだが――状況分析が大事だった。勝機があれば勝負を仕掛け、無ければ撤退する。ギャンブルなどの、の基本だ。

「っ、それは……!」

 私は言いよどんでしまう。

 恋人――須王龍野――は「騎士」という身分かつ戦士である。だからこそ、一見暴論に見える姫様の言葉にも、ある程度の論理性はあった。

 そして貴族の教養として、ポーカーのルールや戦い方は知っている。反論など、そうは出来なかった。

「しかしながら、姫様! 賭博行為を行えば、貴女の信頼は地に落ちます!」

 そう。

 姫様の反論は見事であるが、それは「賭博」という行為をスルーした結果に過ぎなかった。

「そうなれば、ヴァレンティア王家への信頼は――」

「うふふ」

 姫様があやしげな笑みを浮かべる。

 そして私の言葉を遮り、を正面から突き付けた。


「確かに賭けはするわ。けれど、それは。現金や金品と引き換えにはしない。まず、この前提を踏まえてほしいですわ」

 私が黙ったのを確認すると、姫様は更に続けられた。

「そして、伯爵。貴女には、勝負の立会人けん適法行為であることの証人、そしてディーラーの三役を兼ねていただきますわ」


 姫様の好奇心と的確な解決策を受けた私は、頭を押さえながらもこう返させていただいた。

「かしこまりました、それならば認めましょう」

 その返答を受けた姫様は、笑顔で告げられた。

「決まりね。それじゃあ、勝負の場を用意しなくては。龍野君、伯爵。手伝ってくれるかしら?」

「ああ」

「かしこまりました」

 最早もはや、承諾する他無かった。


 こうして、騎士――須王龍野と、姫様のポーカー勝負が始まったのであった。

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