第2話 拳王ジーグヴァルド

「なんで月が2個あるんだよ……!!」


俺が転生する前、月は間違いなく1つだった。考えられる可能性は…………。だめだ、確心に至るには情報が少なすぎる。


 やはり情報が必要だ。俺は今の世界を余りにも知らなすぎる。こうして転生した以上、俺はこの世界で生きていかなければならない。先ずは街もしくは村の様な人がいる場所に行かなければならない。


「闇雲に歩き回っても遭難しそうだなぁ。さぁて、どうしたものか……ッ!!!」


 上空にとてつもない大きさの魔力反応を感知し、空を見上げるとそこには灰色の龍がいた。龍はその首をおもむろに逸らすと口の辺りに莫大な魔力が集めた。これは…息吹ブレスだ!


対龍兵装起動・絶空コードアンチドラグマ・シグルド!!!」


 上空の龍を迎撃すべく起動したのは龍に対して絶大な効力を発揮する兵装。俺の体をその鎧が包み込んで……………………。あれっ?


「起動しない!?何故!?不味い、これは非常に不味いぞ!!!」


 そんなこちらの事情を龍が汲んでくれるわけもなく、非情にも息吹ブレスが放たれる。このままでは死…んでたまるか!!


「防御術式起動!!」


ドォォォォン!!!


 俺が作り出した魔術の盾に龍の息吹が炸裂する。だがやはり龍の息吹がこんなもので止められるわけがない。今にも盾には亀裂が入りミシミシと音を立てている。これならば破られるのも時間の問題だろう。


(くっ、このままでは不味い…だったら!!)


「守りの力を。我が敵を阻む力を此処に」


「ならば召喚せしは盾。万象を阻む神話の盾よ」


「我が身に宿り、魔力を喰らいて顕現せよ」


神羊の革盾アイギス!!」


 爆発的に魔力を消費して新たな盾を、この龍の息吹を防ぐに足る最強の盾を召喚する。


 神羊の革盾は魔力に対して絶大な効力を持つ俺が召喚出来る中で最も堅い盾だ。だが、龍はさらなる追撃を仕掛けてくる。


―ジャキンッッッッ!!!!


 辛くも息吹を防ぎきった俺はさらなる追撃を受けていた。なんと今度は龍自らがその爪を突き立ててきたのだ。


『ガァァァァァァァァ!!!』


 遂に盾が破られた。龍爪が自分へと迫ってくる。

ああ、これは死ぬな……。だが、このまま黙っては殺されてやらない。その右眼、貰っていくぞ…!!


 覚悟を決めて攻撃術式を起動しかけたその時、突然俺の視界に筋骨隆々の大男が入ってきたのだ。


「おいおい、何だってこんな子供が灰龍の縄張りにいるんだよ??なぁ??」

『グルァッ!?』

「しかも|息吹(ブレス)まで防ぐとはいやはや末恐ろしいこった。うん。」

『グルァァァァァァァァ!!!!』

「うるせーぞトカゲ。魔拳ぶっとべ!!」


 突如として現れた筋骨隆々の大男の全身からオーラが立ち込めた直後、凄まじい打撃音と共に全長10メートルほどの龍は上空に打ち上げられた。


 しかも驚くのはオーラを纏わない状態であの龍爪を、しかも片手で掴んでいたことだ。有り得ない。

今のようになにかを纏って自身を強化しているなら受け止めることもできるだろう。だがかれはその肉体の力のみでそれを行ったのだ。


「烈火の型・【爆炎】」


 落ちてきた龍に向かい跳躍した男はさらなる追撃のアッパーカットを叩き込んだ。その拳をもろに食らった龍はまるで体の内側・・・・から爆発したかのように弾け飛んだ。


(な、あれはリンファの技!?)


 男が音も立てずに地面に着地した。あの高さまで飛ぶのを常識外だがさらに着地まで。とても人間業では無い。

 

「あ、貴方は一体……??」

「あ?俺か?俺はジーグヴァルド。龍の森に武者修行しに来たらこの龍が見えてよ?ぶっ飛ばしに来たらお前がいたって訳だ。そりよりお前こそ何者だ?なんで龍の森にガキが独りでいやがる??」


 それがこの後俺の師となる男。世界最強の一角を担う拳王ジーグヴァルドととの最初の出会いだった。

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