デモニック・ジョン -JUMBLE!-
天野維人
Single Short Story
#0/Hungry Anet
私の隣人――アネットは人間ではない。幽霊や精霊といった類のものだ。
しかし人間だった頃の名残なのか、彼女は食文化に強い興味関心を抱いている。
そして今日も食事に勤しんでいるわけだが、そんな彼女に私はとある疑問を抱いていた。
今日はその答えを探りたいと思う。
「……前から思っていたんだけどさ、アネット」
『むぉ? なんだ
「お前、どうやって飯食ってるんだ?」
可愛らしい小型のジュークボックスを乗せた銀色のテーブルを挟んで向かい側、小柄な両手で鷲掴みにしている『ジョニーのロケッツ・バーガー』を無心で頬張っていたアネットにそう訊ねると、彼女は「意味不明」という表情をこちらに向けた。
聞き方が多少雑だったかもしれないが、そんな顔を向けられるのは心外だ。
『どうやって、とは異なことを聞く。背の君は食事をする時、口以外のなにを以ってして食べ物を胃に送り込むというのだ? 掌か?』
「そんなわけないだろ。ハンドモンスターじゃあるまいし」
『イゴローナクの方かもしれんぞ?』
「やめろ! いや、そうじゃなくてだな……お前霊体だろ? 守護霊みたいなものだろ? 食べたものはどこに行くんだ?」
『厳密に言えば全く違うものだが、その例えが適当だろうな。原理は簡単だ、体内に入れた瞬間全て魔力に変換される。というわけで次のバーガーを注文するのだ!』
「……質量保存の法則って知ってるか?」
『背の君こそ、その法則は相対性理論によって自然の基本法則ではなくなったことを知っているか?』
渾身の一撃を放ったはずなのに、ドヤ顔で打ち返された。美少女の姿と言えど、そのしてやったり顔を向けられると正直むかっ腹が立つ。
このまま負けを認めて素直に従うのはつまらないので、どうにか仕返しを図る。
「自然界の法則じゃ当てはまらないってことは、お前の胃袋は宇宙空間か? なるほど、食い意地が張っているのはそれが原因か。道理で食欲が止まらないわけだな」
『おお、漸く気付いたのか。その通り、実は吾の胃袋は一つの銀河系を成している。というわけで次だ、背の君』
「……ちょっと待て。なぜメニューの端から端までを指差している?」
『食べたいからだが?』
そう言ってアネットはにやりと口を歪め、子供の様で悪魔の様な笑みを浮かべた。麗しき我が隣人は今日も腹ペコの様だ。
口ではとても敵いそうにない。
#0/Hungry Anet Fin.
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