20080424 23:45
真っ暗闇だった。
電気もつけずに倒れこんで、受け入れてくれるのがベッドだけなんて。
くたくたになった千円札は残り二枚。
これが残りのタイムスリップ回数だ。
「未来人の違法行為と俺のポカで、お前ら二人は未来を捻じ曲げられた。だから、気のすむまでやり直して、確定させろという上の意向で、回数無制限のタイムスリップカードを与えらえた」
ブラックカードみたいなものだろうか。
「そんなの、持ってない」
「今までの流れ思い出せよばーか。一旦お前は折れて、次に早瀬が一万回やったって言ったろ。お前が持ってた黒いカードは自分で死ぬことを選んだ時点でもうなくなっちまってんだよ」
「それは」
「そういう条件付きだったんだろうな。早瀬もカードを持ってただろうけど、自分で死ぬと決めたからカードはなくなってる」
「それとこの千円札とどんな関係が」
「持ち歩くんだよ、タイムマシンの鍵をその時代で不自然じゃない物体に変えて。その金は、旧式のタイムスリップのトリガーキーだ。暴発を防ぐために条件を達成して、キーワードをいうとタイムスリップできる。たぶん早瀬が都合付けたんだろう。一枚につき一回、使い切り」
ポケットの中の千円札は、数えても2枚存在していた。
「……それなら計算が合わない。早瀬が車に跳ねられて一回、刺されて一回、学校で階段から踏み外して一回」
「……一番最後、早瀬は死んだか?」
「いや、僕はみてない」
「最初と二回目、早瀬が死ぬ前に、なにかやったか」
「……自動販売機で飲み物を買った。飲んで、そのあと、振り返ればあのときヤれたかも、って言われた」
「タイムスリップ方法はそれで確定だ。その札を使ってなくても自動的に一枚消費される。車に跳ねられたときのタイムスリップは、たぶん早瀬が最後にお前を飛ばしたんだ。二回目は手持ちの札から一枚」
「じゃあ一番最後は」
即答とはならなかった。
誰かがコンビニから出て電子音が響いて消えた。
「誰かの、干渉、だな」
「……坂本の?」
「俺じゃない」
「じゃあ誰が」
「わからない」
「可能性は」
「お前らの未来を取り戻すのがいやな誰かがいるんだろうな。二回目の流れはものすごくよかった。あのまま続けば、理論上はハッピーエンドだった。それをぶっ壊す理由が俺にはない」
「そもそも坂本の目的はなんだ」
「言ったろ?自分で自分のケツをふくだけだって」
「抽象的すぎる」
「少なくとも俺は、お前らの未来が取り戻せて、もうタイムスリップしなくてもいいような状況を望んでる。間違っても回数制限でゲームオーバーのバッドエンドじゃない。そんなのは願い下げだ」
「……なんで俺たちを邪魔するやつがいるんだ」
「未来は過去によってなりたっているからだ。過去の改変で未来は変わる。お前らが繰り返してきたタイムスリップでそれなりに未来が変わってるんじゃないのか。俺以外に未来人が来て干渉してる可能性はゼロじゃない」
「ってか高いよね、むしろ」
「それは想像に任せる」
「適当!」
絶対ゼロなんかじゃないだろうに、軽薄さを取り戻した姿はいつも通りの坂本だった。
「まあ、そういうわけだ。使いどころはよく考えろよ」
話は終わったのだろう。
坂本は先に夜の闇へと消えていった。
早瀬が託したかったものはなんだろう。
僕らの繰り返しの終わりだろうか。
それともやり直して、今までは手に入れられなかった未来をつかみ取ることだろうか。
分からない。
分からないんだけど。
僕らは確かに、ここに生きてる。
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