第4話 街を発見した。男爵領だってさ。
ーーーって、いつまで掴んでるんだ、この人は?! イヤじゃないけど、ちょっと男として困ると言うか何というか。
先程から動き出した馬車に揺られる中、アミエルはずっと快斗の左腕を握ったままでいる為、快斗は内心の焦りを加速していた。
ーーーや、やばい、ってか、女性の手ってこんな柔らかいのか?! いやそもそもこんないい匂いがするし、ふぇ、フェロモンってやつか? あああ!! 手汗出たらどうしよう!!!!!
「どうされましたか? カイト様。御気分でも優れませんか? 」
「い、嫌なんでもない。ただちょっと疲れてな」
快斗の様子を不思議に思ったアミエルが首を傾げて伺ってくるが、快斗は内心の焦りを悟らせないよう落ち着いて返す。
ーーーそうだ、アミエル達のステータスでも見て気を紛らわすか。もともといつかはするつもりだったしね。兵別に選んでる系統が違うだろうし。
高鳴る鼓動を抑えるように、右手で空をスライドして、メニューバーから快斗のステータスに並ぶアミエル達のステータスを見る。
②名前:アミエル・ローヴェン
性別:女
種族:人間族(軍曹)Lv.150
HP:7550/7550
MP:7550/7550
STR:514
VIT:354
DEX:243
AGI:361
INT:226
MAD:210
スキル:スラッシュ、斬撃付与、緊急防壁、無音歩行、気配遮断、1次ブースト、二次ブースト、三次ブースト、筋力増加…
下にずらっと並ぶようにスキル群が続いている。
ーーーやっぱりこんなもんか。系統は見る限り戦闘系か? スラッシュに斬撃付与、それにブーストも3段階も取ってるのか。それにSTRも高いゴリゴリの前衛っぽいなぁ。
本来のプレイヤーであれば、この上に装備に付いた特殊パラメータが合わさりもう少しパラメータが上がるはずだが、こう言った兵士が持っている装備はNPCが持つような一般的な武器のため、そう言ったことはない。
この世界の平均レベルは?
そもそもここは『世界の果てには』の世界なのかわからない。
もし『世界の果てには』であれば、150レベルは心許なすぎる。
初心者プレイヤーがいる大陸中央部であれば比較的モンスターのレベルは低い。
高くても50前後であるので何とかなるが、大陸外部であれば、一般モンスターでさえ130前後になってくる。
ーーー今は祈るしかないか…。あ、じゃぁゲームではできなかったけど、今なら装備を変えさせることができるんじゃないか?
快斗は先ほど見たアイテム群を思い出す。
記憶によれば最低レベル100の装備がいくつかあり、その上特殊効果がふんだんに付与されたものである為、これを与えれば今よりはマシになるはずだと考える。
「カイト様、先程からどうされたのでしょうか? 指を動かしているようですが…」
「ん、あぁ、ステータスを見てるんだ」
「何と、計測器無しでステータスが分かるのですか?!」
「そ、そうだ」
「何と素晴らしい! では我々のも分かるのですか?!」
ここでもプレイヤーとNPCであったアミエルとの認識の差が生まれる。
ーーーそうか、ステータスを確認出来るのはメニューバーが出せるプレイヤーだけか。NPCはそう言った機能がなかったのか。
握った手を胸元に寄せ、深紅の瞳をより大きく見開いて驚くアミエル。
まさか、そんな超常的なことが出来ると思っておらず、快斗に向ける尊敬の念が一層募っていく。
「見れるな。今ちょうどアミエルのを見ていたところだ」
「私のですか。 どうですか? カイト様を守り得るステータスでしょうか?」
「あぁ勿論だ。それに一等兵達、他の者達のステータスもいい」
「有難うございます!我々は粉骨砕身の思いでお守りいたします!」
ステータスを見られ、もし快斗のお眼鏡にかからなかったらという不安を少し抱くアミエルだが、それを顔から感じた快斗は褒めることにする。
実際にはプレイヤーに比べれば低いと言わざるを得ないが、NPCの基準で言えば、しっかり構成されたステータスであり全然合格点だ。
先程ちらっと他の女性兵士のステータスを確認したが、130レベルの中で最高に近いステ振り、スキル獲得をしている。
思わず運営のスキル構成力に尊敬の念を抱くほどだ。
ーーー流石神運営と言われただけのことはある。それに前衛のアミエルの他はバランスよく魔法系、治癒系、と揃っていたし。まぁ生産系は居なかったけど、俺の持ち物欄に基本的な必要なものは揃ってるし大丈夫だろう。
それよりも快斗が気になるのは武器の欄。
お世辞にも強いなんて言えないし、できれば早く自分の持ち物の中からいい武器を見繕って渡してやりたいという思いがあるが、流石にこんな外でやるのも無理がある為街に着くまで我慢することにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「アミエル隊長、 前方に馬車を発見しました! どう致しましょうか?」
草原を抜けて整備された公道を走るようになった快斗の乗る馬車。
その脇を護衛の形で囲いながら歩いている女性兵士達は、前方の道をゆっくりと進む馬車を発見した。
その中で後方の馬車に控えていた女性兵士は、この状況の対処の指示を受けるために馬車の扉をあけて伺いを立てる事にする。
「ふむ、どうしましょう、カイト様」
「そうだな、別にこちらから接触する必要もないし、出来れば面倒だからしたくない。少し間を開けて後ろに続こう。多分どこかの街に行くだろうし付いていけば街に着くだろう」
「だそうだ。じゃぁそのようにしてくれ」
端正な顔立ちの女性兵士が一瞬快斗とアミエルのどちらに聞こうか迷ったが、直ぐに上司であるアミエルに伺いを立てる。
アミエルの方は初めから快斗の意向に従うつもりあるため、直ぐに快斗に視線を向けるた。
ーーー無理に干渉する必要は無い。それにこれでとりあえずは街に行けるか。出来れば日が暮れる前につきたい。キャンプセットなんてないし、ましてやトイレとか風呂なんてない。
やっと安全圏に行けるという安堵と、野宿をせずに済むかどうかの不安を抱きながら答えると、女性兵士は直ぐに敬礼を返し馬車から降りていった。
伺いを立てた女性兵士であるキャンティ・モンティールは、馬車から出て前方の仲間に伝えることにした。
「ねーねー、前方の馬車とは間隔をあけて付いていけってー。多分街に行くだろうからーって」
「わざわざ干渉する必要も無いものね。でも、彼方はこのまま私たちを放って置く気がないみたいよ」
160ほどの身長に高校生になりたてのような幼い顔立ち。茶色のショートカットに、丸くクリッとした瞳がより幼さを強調している女性兵士。
すらっとした体でも、一等兵であり130レベル相当に力を有している彼女の名前はキャンティ・モンティール。
彼女が前を歩く仲間に話しかけると、少し困った表情をしながら返答を返された。
100メートルほど前を進んでいた馬車はゆっくりと止まり、中から数名の男達が降りてくる。
その中にきっちりとした服に身を包む、気弱そうな男を囲むように、武装した男達が彼を囲んでいる。
流石に目の前で止まられては仕方がないため、こちらも馬車を止めて、キャンティは直ぐ様馬車に戻って快斗に伺いを立てた。
真っ白なスレイプニルはヒヒィンと一鳴きすると、同時に足を止めた。
ーーー馬車が止まった? 何かあったのか?まさか襲撃?ってわけじゃないだろうけど。
中から外の様子が分からなかった快斗は不思議に思って立ち上がろうとするが、直ぐに隣から制止の声がかかる。
アミエルだ。
「お待ちください。カイト様は今レベルが下がった状態で、何かあった時に危険です。ここは私が様子を見てきましょう」
「そうか? わかった。 でも、持ち物は無事なんだ。何かあったら声をかけてくれ。助けに行こう」
ーーーまぁ、俺が出てもこの中で最弱だしアミエルに任せるしかないか。頼むっ! 襲撃とかじゃないことを祈るよぉ〜!!
快斗から了承を得たアミエルは、腰にある剣に手を添えて馬車から出ると近くにいるキャンティに話しかける。
「どうした? 何があった?」
「そ、それがー、目の前の馬車が止まってなんか人が出てきました」
「なに? 本当だな」
困った表情で見上げるキャンティに理由を聞いたアミエルは、少し移動して前方を眺めると、気弱な男を守るようにして立っていた男達の中から一人、こちらへ足を進めているのが見えた。
ーーーふむ、何やら警戒しているな。もしかして私達が野党にでも思われたか?
「私が出よう、キャンティは他の者に見てるように伝えてくれ」
「はっ!」
敬礼したキャンティを確認すると、アミエルはこちらへ向かってくる男に警戒しながら近づく。
近づくにつれて相手の男は少し困惑気味にアミエルをはじめ、キャンティ達女性兵士を眺める。
が、すぐさまその表情がアミエル達の身体をチラチラと眺め出して気の抜けたものに変わる。
ーーーこれだから、下賎な男は。視線が丸わかりだ。カイト様以外に見られるとは、大変不快だ。
男に身体を舐め回すように見られて不快感に顔を歪めるアミエル。
「や、やあ。俺は『翼なきドラゴン』のリーダーをしている、マグバルだ。今はあの馬車の護衛の任務を受けてるが、君たちは?」
2メートルほど距離を開けて互いに止まると、先の男、マグバルはアミエルが自分が向けていた視線を知っているとも知らずに爽やかな笑顔を向けて自己紹介をする。
ーーーふむ、弱いな。まるで強者オーラが感じられん。まさか隠してる? いや、そんな風にも見えんな。
2メートルまできて相手の力量を把握したアミエルは、安心して自分達も名乗る。
「我々も今護衛の任に付いている者達だ。私は隊長を務める軍曹、アミエル・ローヴェン。以下一等兵達部下だ」
「ぐ、軍曹? そ、そうか。行き先は決まっているのか?」
聞きなれない階級に戸惑うマグバルだが、直ぐに相手の情報収集に入る。
流石に名前だけ知っても意味がない。
護衛の任についているなら、せめて相手の行き先や所属先を知る必要がある。
「…この先の街であるが、貴殿らはどこへ?」
行き先などわかるはずもなく、道があることからこの先に街があると推測していたアミエルは、誤魔化すように言葉にして相手の情報を探る。
「俺たちも一緒だ。この先の男爵が治める街、トーテルまでの護衛でな。まぁ俺たち『翼なきドラゴン』が先頭を進むんだ、安全な旅を約束するぜ? それより、冒険者か? 見ない顔だが」
「我々は少し遠いところから来た者でな。知らないのもそのせいだろう」
この先に街がある情報を得られたアミエルは内心喜ぶ。
ーーー男爵か。ならまだ面倒ごとも起こらなそうだな。
アミエルは経験から男爵ならまだ対抗できると確信している。
アミエルは自分が美女と確信しており、兵士という縦社会とあってかそう言ったお偉いさんからの強引な接触が度々あった記憶がある。
まぁこれはゲームの設定だが。
それにより貴族であっても男爵くらいの爵位であれば、反撃しても後々の対処法はしっかり覚えていた。
「ふむ、そんなとこか。なぁ、それよりどうせ一緒の道なんだ。ちょっと話そうぜ? これから行く街についてはちょっと詳しいぜ?」
「いや結構だ。では、我々は貴殿らの後ろを安全についていく事にしよう」
鼻の下を伸ばして、明らかに下心丸出しに近づいてくるマグバルにアミエルは軽蔑に似た不快感を伴った眼差しを向けて、一刻も早く快斗の元へ戻るために早々に話を切り上げる。
マグバルは少しでもこのかなりの美女にいいところを見せようと自分の良いところを語ろうとするが、興味なさそうに一瞥された事に若干の苛立ちを覚える。
しかし、ここで一人で立っているわけにもいかず、前の馬車に戻る事にした。
ーーーくそ、女のくせに舐めやがって。上玉だからって良い気になってんじゃねぇよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます