バイト

鮫島

バイト


私が1番最初に勤めたときの話をしようと思う。

まだ高校生になりたてホヤホヤのぺーぺーの1番最初のバイト先は時給が1000円なのと内装の綺麗さに惹かれてなんとホテルのフランス料理屋さんだった。


「笑顔がいいね〜、採用」


この一言で私は調子に乗った。

3ヶ月後 自分の仕事のできなさに絶望した。


最初は料理とか運ばせてもらったり デザートワゴンをおすのを手伝わせてもらったりしていたけれど だんだん、だんだん

バックでおしぼり折の日々になっていった。


最初は頑張ろう おしぼりおるだけで4000円も貰えるんだもん と強気でいたが、1週間ぐらいおしぼりが続くとイヤになってくる


おしぼりを折るのがイヤになってくるんじゃなくて こんなことしかさせてもらえない こんなことしかしてないのに4000円もお店から払わせている こんなことをするためにお店のバックのスペースを取っている こんなことをするのに制服を借りている こんなことをするのに自分のロッカーまである ことがイヤになってくるのだ 多分今までで1番病んだと思う


ここにいて いいのかな


ぶつかっても 何も言われない

すみませんと言っても無視をされる


本当に自分はここにいるのだろうか もしかして昨日の帰り道本当は事故にあっていて それも分からずにおしぼりを折りに来ているのだろうか と思っていた


そんな時 私は決まってこれをしていた


おしぼりを折る時 水8洗剤2の割合の洗剤水につけてから折るので その洗剤水をでっかくてそこの深い洗面器に作らなきゃならなかった


その洗面器に水をためる


これをしていた


ドバドバドバドバドバドバ

洗面器に勢い良くたまっていく水

その時に絶対できるものは何か知っていますか?なんでしょうか、正解は 泡 です


私はその 泡 を指でつついて自分が今ここに居ることを自分で証明して安心していたのだ


私が今ここで 自分の指で 皮膚で 自分の意思で触れて 自分の筋肉で 血が流れている 指で つつくと 割れる、自分が自分自身が割った 自分は今ここにいる、ここにいるよ、いていいよ と言われている気がしたので その行為 味わえる感覚に4000円の価値があるんだと思い 働き続けた


でもある日 泡が勝手に割れた

自分が触る前に 勝手に泡同士でぶつかって割れた


私は まだ

触って いないのに


泡にも見放されたのか 泡ごときにもお前はここにいない いなくていいと言われたのか

正直 気が狂いそうだった


次の日 そこのバイト先をやめた



ということをその洗剤の匂いを鼻にするたびに思い出してしまう


苦いなあ

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バイト 鮫島 @ssamejiMa

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