誰もいない星

みふね

誰もいない星

 この星には誰もいない。


 少女は思った。


 少女はたった一人でここにいる。何年も何年も、それこそこの星が生まれた頃からここにいる。


 少女はいつも未来を見ていた。

 そうして、いつか生まれてくるであろう生命いのちを、一人楽しみに待ち望んでいた。

 渦巻く炎も凍てつく水も、音も香りも何もない、この世界で、たった一人で。


 大きな海が見える。

 海は空を産み、空はやがて海を育てた。

 果てしなく、どこまでも雲は流れて行く。


 何もない世界に心地よい風が吹き抜けた気がした。少女は、そこにほんのりとした潮の香りを感じた。そうして毎日飽きずに未来の景色に魅入っていた。


 母なる海は数多の生命を産み落とした。

 やがて生命は陸を這い、空を舞いだす。地に潜るものもいて、彼らは土を肥やした。

 青々とした木の葉は風に揺られ、無数の花が咲き誇る。


 瞳を閉じた。

 樹の囁きが聞こえるようだった。

 生命の聲が聞こえるようだった。

 鼻腔に甘い香りが広がった。

 少女の胸が高鳴った。

 何て楽しい世界なのだろう、と。

 そして、更なる未来に思いを馳せた。


 更なる未来。

 あらゆるものが命を燃やす。

 やがて炎は木の葉を燃やす。

 小さな笹舟は荒波に呑み込まれ、命は命を奪い合った。

 瞬く間に、全ての生命は絶滅した。


 いくら耳を澄ませども、何も聞こえない。

 かぐわしさなど、どこにもない。

 瞳を開けばただ何もない世界が、変わらずそこにはある。


 少女は未来を観測し続けた。やがて深い孤独に苛まれ、次第に生きる希望を失っていった。

 それでも少女は未来を見つめた。新たな生命の起こりを、ただひたすらに待ち続けた。例えその身が朽ち果てようとも…………。


 行き場の無い虚しさが心の関を溢れ、それは涙に変わり、留まることなく少女の頬を流れ続けた。慰めるものなどどこにもいない。

 ただいつまでも、いつまでも流れ続けた。  



 長い年月が経ち、大きな涙が星を覆った。

 それは海、青い星。いずれ地球と呼ばれるその星は、未だ静寂に包まれている。





 この星には誰もいない。










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誰もいない星 みふね @sarugamori39

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