家出少女

@ak_akr

自由

13歳の誕生日に、おばあちゃんからヘッドホンを貰った。それが嬉しくて毎日音楽を聴いてた。ヘッドホンから流れる音は、その頃何もかもを投げやりにしてたあたしの心を突き刺して離さなかった、低音で脳がドロドロに溶ける感覚、高音で頭が真っ白になって、白目を剥くくらい気持ちのいい感覚。


世界でたった一つの、あたしの宝物。




7月、おばあちゃんが死んだ。父子家庭で虐待を受けてたあたしの唯一の救いが、消えてなくなった。

最後まで心配かけたくなくて、言えなかった。おばあちゃん、ごめんなさい。



「お父さん。あたし、家出るから」


勇気を出して口にした言葉、殴られる恐怖よりも早く逃げたい気持ちが勝ってて、あまりにも強い眼光で見つめてくる父親に怒りを抑えながら、淡々と続けた。


「最初から父子家庭なんて、お父さんには無理だったんだよ。分かれよ、そんくらい。」


自分でも驚くくらい言葉がちゃんと言えた。


スッと息を吸う瞬間。鈍い痛みをみぞおちに感じる。

気持ち悪い、その手があたしの身体をゆっくりとまさぐる。吐きそうになりながらも耐えると、唇に魚のような感触、気持ちのいいものじゃなく、ただひたすら、

臭くて、汚くて、怖くて、痛くて、苦しくて


早く殺してやろうと、何度思ったことか。

ただ、それも今日で終わり。おばあちゃんのいなくなったこの世界は、ただの抜け殻だ。

早く出よう。



父親の腹部を1発殴る。2発目は頭、3発目は鼻を。

父親が苦しみ悶えてる間、あたしはスマホと財布とくまのぬいぐるみと、あとヘッドホンだけ持って家を出ていった。



できるだけ遠くに、絶対見つからない場所へ

この世界で一番誰からも見えないところへ逃げようと思った。

気持ちは自由で、軽くて、何処へでも行けそうな気がして、そっとヘッドホンを撫でてみる。




夏の暑い夜に、私は人生で初めて自由になった。



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