火花を刹那散らせ
またたび
火花を刹那散らせ
『命は目に見えない』
でももしも見えたのなら、きっとそれは花火のような姿に違いない。美しく空を彩り、散る姿さえも愛おしいあの花火のような・・
「パチパチ」
「なんで声に出すんだよ」
「その方が楽しいじゃん」
「はあ?意味が分からん・・」
屋上で彼女と線香花火の最中。これから始まる大きな打ち上げ花火が見えるようにと屋上にこっそりと侵入した僕と彼女だが、待ちきれなかった彼女は線香花火をまず楽しむことにしたらしい。今はパチパチしている。
「ねえ、少し聞いてくれない?」
「何を」
「私の話を」
「別にいいけど」
「なら話すね・・私ね、最近死について考えてるんだけど」
普段から能天気な彼女にしては珍しいと、僕は心の中で驚いた。本当だよ?本当に結構驚いたんだよ?だって君らしくないんだもの。
「死ってどんな感じだと思う?」
彼女は線香花火を見つめながら、僕にさりげなく話題を振る。困る。
「うーん・・難しい質問だなあ。まだ僕は全然若いし、正直あまりそういうことは考えたことがないな」
「ふーん、ポジティブなんだね」
「お前に言われたくねえよ」
ふと腕時計を見ると打ち上げ花火まであと10分程度だった。あと少しだ。もうそんな時間だった。
「私は死ぬのは怖いよ」
「そりゃあ僕だって死ぬのは怖いよ」
「いや、きっと私はもっと怖く感じてると思うよ。より実感的に、よりリアルに」
そう言いながら僕を見つめる彼女の瞳は、ひどく透き通っていて、僕の瞳じゃ反射もできないような、まばゆい光がその瞳には浮かんでいた。綺麗だったが、少し怖くなった。
「どうしてそう思うの?やけに自信満々じゃないか」
「・・そろそろ私、死ぬからだよ」
「えっ」
線香花火は光を削っていく。
「何言って・・」
「正しくはもう死んでるんだけどね」
「ど、どういうこと?冗談でしょ?何言ってるんだよ、お前・・」
「悪いけど、悲しいけど、今はエイプリルフールじゃないんだよ」
風が吹く。屋上は風が強い。お願いだ、光を消さないでくれ。
「神様にお願いしたの。あの世に行く前に一つだけ願いを叶えてくれって」
「だから何を言って・・」
「それでね、一番大好きな人と花火を見たいって言ったの」
「・・・・」
「でも神様も忙しいからそこまで待てないらしくて、だからわざわざコンビニで線香花火買ってきちゃった」
「・・本当か?それ」
風が一瞬止んだ。心も激しく病んだ。
「うん、嘘じゃないよ」
その素敵な笑顔が僕にこの現実が真実だと悟らせてくれた。彼女は嘘など言わない、そんなの僕が一番分かっていた。
「大好きだったよ、またね」
打ち上げ花火の音がした。
振り返った。
そこには満面に咲いた花があった。
慌てて散った花を浮かべた僕は後ろをまた振り向いた。そこには灰となった線香花火の残りはあっても彼女はいなかった。
彼女がそこにいた足跡も、香りも、温もりももう僕は何も感じなかった。だけど最後に一言だけ僕は呟いた。一生分の愛を込めて
「僕もだよ・・またね」
パチパチ
その声がずっと心の中でトンネルのように反響する。だから僕は君に会いにそのトンネルの奥へ進んで行くんだ。もうちょいできっとまた会えるよ・・待っててね。
火花を刹那散らせ またたび @Ryuto52
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