57 楽しいことを待っていた!

「……うーんと、何から話せばいいんだろ?」


 手に持っているナイフをくるくると回しながら、ゼノビィアはいつも通りの軽い口調で話す。

 倒れているクナンのことは気にもかけない。上級悪魔は精神体なので、依り代を失ったところで、痛くもかゆくもないだろうけど。


「好きなことから話せば?」

「お。その様子だと、大体のことはわかってるね?」

「聞いたからね」

「ザリチュが喋ったのかな?」


 ゼノビィアは変わらずにこにこしていて、私の方が戸惑ってしまう。

 どうしてこうも、平常運転ができるの?


「でもまあ、こういうときは、自己紹介からだよね」


 ゼノビィアはナイフを回すのをやめ、ふざけてスカートの裾を持ち上げる。


「初めまして、こんにちは。私の名前は、アエーシュマ。五悪魔衆マンユ・ダエーワのひとりです。どうぞ、よろしく」


 私が黙ってゼノビィア――アエーシュマを見つめていると、「エイリーもほら、自己紹介」とふざけて言ってくる。


「……必要ある?」

「それを言うなら、私だって自己紹介する必要なかったじゃん。知ってたんでしょ? 私が上級悪魔だってこと」

「知ったのは最近だけど」


 マカリオスから帰ってきて、メリッサたちから聞いたこと。

 メリッサたちに指示を出していた悪魔・アエーシュマは、ゼノビィアとして王都に潜伏していたということ。

 不覚にも私は、彼女が悪魔だってことに気がつかなかった。言われるまで、わからなかった。


 自己紹介が終わったからか、ゼノビィアはまたくるくるとナイフを回し始める。


「もっと早くバレると思ってたんだけどね~。流石エイリーって感じ」

「何だよそれ」


 その言い方だと、ずっと前からゼノビィアとして、生活していたということだ。

 そして、私に早く気づいてほしかったと言える。


「いいねいいね。楽しくなってきたね!」

「はあ?」


 アエーシュマはついに自分までくるくると回り出す。

 何回か回ると、ぴたりと止まり、栗色の瞳に私の姿をしっかりと捉えた。


「こうして長く生きているとさ、退屈で退屈で仕方がないんだよ。だから、私は楽しいことを探しているの」

「勝手にすれば?」

「冷たいなぁ。最近見つけた楽しいことっていうのは、エイリーのことなのに」

「はあ?」


 全くを持って意味がわからない。

 悪魔に好かれるようなこと、私何かしたか?

 同族を片っ端から倒していることくらいしか思いつかないんだけど。

 あ、あと魔王とやりあってることとか?


 どっちにしろ、悪魔たちにとって、楽しいことではないはずなんだけど。


「魔王様に勝てるかもしれない力を秘めた人間が現れるなんて、わくわくするよね。楽しいよね。戦いたくなっちゃうよね」

「はあ?」


 アエーシュマって戦闘狂だったの?

 勘弁してほしいんだけど。上級悪魔と戦うのって、負けはしないけど、結構疲れるんだよ。


「だから、勝負をしよう。エイリー」

「嫌だ」

「そう言わずにさ?」

「私、さんざん魔物を倒してきたんだけど。疲れてるの」

「ハンデだと思えば解決じゃん?」

「人間にハンデを背負わせる上級悪魔って……」

「だって、エイリーの方が強いじゃん」

「それはそうだけど」

「否定しないの?」

「事実だもん」


 事実を否定するなんてこと、私はしないからね。

 謙虚はいきすぎると、嫌味になるし。


「じゃあ、こうしよう」

「温度差が激しいのに、よくそんな提案できるよね」


 楽しそうに手を鳴らし、アエーシュマは言ってくる。


「私が勝ったら、転移陣は壊させてもらう。エイリーが勝ったら、聞きたいこと、なんでも話してあげる。転移陣もそのままにしといてあげる」

「……今聞いても、答えてくれないの?」


 転移陣を壊されるとなると、それはちょっとまずい。

 魔王城に乗り込む手段がなくなるのは、困る。

 私が好きなタイミングで、睡眠妨害魔王の顔面を殴りに行けないのは、大変困る。


「答えてあげないよ。だって、そんなのつまらないでしょ?」

「バレてしまった秘密を、大々的に語るのも、楽しくない?」

「そんなことは何度も経験済みだから、楽しくない」


 そうだった。こいつ長生きで済ませていいのかわからないほど、生きてるんだった。

 五悪魔衆アンユ・ダエーワだし、暗躍することも多かっただはずだ。

 これは詰んだな……。


「というわけで、選択肢はこれしかないんだよ」

「……乗ってもいいけど、質問にひとつだけ答えて」

「興が冷めるような質問じゃなければ」


 クラウソラスに手をかけて、深呼吸をする。


「この戦いは、私の知っているゼノビィアは望んでいる?」

「あははははは!」


 私の質問を聞くと、アエーシュマは狂ったように笑い出した。


「いい質問だね、エイリー。やっぱり、最高だ」

「そりゃどうも。それで、どうなの?」


 アエーシュマは挑発するように笑うと――


「答えはYESだ」


 はっきりと言い切った。



 ☆ ☆ ☆


 長い間、更新しなくてすみません。年越しちゃいました……。やってしまった。

 新作の方のストックが早々に切れ、そっちを書いてるのでこちらが追いつかないのが現状です。年末そもそも忙しくて、新作の方も更新できてなかったのですけども。


 改めまして、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

 一月中旬くらいまでは、多分バタバタしているので、更新できないということが続くと思います。それを過ぎれば、わりかし暇なので、更新頻度が一気に上がると思います。

 今年中の完結目指して駆け抜けるので、最後までお付き合いいただけると幸いです。


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