54 どうして頻繁に偉い人に面会するんだろう?
「急に来て驚いたぞ、エイリー」
「国王陛下はお元気そうで何よりです」
思ったより元気そうでよかった。うちの家族が起こした騒ぎでもっと疲れてるのかと思った。
顔に出さないだけで、本当はぐったりしてるのかもしれないけど。
というわけで、私とシェミーは王城に来て、国王様に会っていた。
ちなみに、ネルソン公爵家を出るときは、盛大にお見送りをされた。父さんたちにいつも以上に、力強くそして長く抱きしめられた。
私を励ましたいのと私を抱きしめたいのと私と離れたくないのが合わさって、あんなぎゅうになったんだろう。息苦しかったなぁ……。
「そして、そちらが?」
「初にお目にかかります、マカリオス国王陛下。私は、シェミーと申します」
国王様にこれでもかというほど、丁寧に挨拶をするシェミー。
シェミーは真面目なので、昨日母さんから礼儀作法を習っていたのだ。偉い。
そこまでしなくても、シェミーは礼儀正しいのにね。
「シェミー、お主はゼーレ族族長の血を引いていると聞いたが、事実なのか?」
「はい。事実でございます。私の母がゼーレ族最後の族長でした。母はすでに無くなっております」
「そうか。ゼーレ族の生き残りたちは今どうなっているのだ?」
「それは……」
そんな感じで、国王様とシェミーの会話が続いていく。
はっきり、そして堂々と答えるシェミーは、貴族の令嬢と言っても納得してしまうくらい様になっていた。
シェミーに素質があったのか、母さんの指導が良かったのか。まあ、どっちらにしても、流石だなと思ってしまう。
一通り会話を終えると、国王様は心底驚いた表情をして一言。
「お主、本当にエイリーの友人か?」
「失礼なんですけど?!」
私の反論を無視して、皆が――と言っても宰相さんとブライアンだけだが、こくりと首を縦に振って同意した。
いやさ、私も思うよ?なんでこんないい子で、真面目で、優しい子が、私と友達なのかなって。
でもさ、直球に言ってくるのは違うんじゃない?! 仮にも国王でしょ?! もう少し遠回しに言えるよね?!
当のシェミーは困ったように笑みを浮かべ、
「エイリーは確かに、適当なところがあり、めんどくさいことは嫌いですし、それ故に礼儀を軽んじるところもありますけど」
ボロクソに言った!
“けど”だなんて、逆接を使ってるけど、酷いよ?! どんだけ後にいいことが来るのだとしても、言い過ぎじゃないかな?!
……勿論、否定は一切できないけど。
「頼れる私の大事な友人です。私にはできないことができるからこそ、惹かれたのかもしれませんね」
シェミーは怒るでもなく、嫌味を言うわけでもなく、ただ自分の意見を述べた。自分の友人を(自分で言うと照れる)悪く言った国王様に対する対応としては、百点満点だ。
「本当にできた娘だな……」
「ありがとうございます」
シェミーの対応に、国王様は心の声をそのまま漏らしたかのように言った。
本当にシェミーは何者なんだろうね?感心しちゃうのわかるよ。
そんな前置きが終わり、本題に入ることになった。
私にする要望ってやつだ。
なんだろう。戦闘系だとありがたいんだけどな。むしろそれしか受け入れられないって言うか。
「お主が勝手に帰ったことで、ネルソン公爵家が騒動を起こした件、悪いとは思ってるんだな?」
「悪いとは思っています。ですから、できる範囲でそちらの要望に応えたいとも思ってます。
……でもですね、これだけは言わせてもらいたいんですけど、私にだって、無理なんですよ!」
今後のためにも、私はちゃんと自分の意見を言っておかないといけない。
父さんたちが今後問題を起こしたときに、私が責任をとらないといけないなんて、ごめんだからね!
私に関することでしか父さんたちが問題を起こさないとはいえ、それとこれとじゃ話は別だ。
「父さんたちの私のことを愛してる度合いは、異常です! 私にも制御できません! 私にだって、逃げる権利はあるはずですっ! この間もそれを行使しただけです」
「でも、エイリーが頼めば到底のことは聞くだろう?」
「ええ、私が言ったらやめてくれます。だけど、だけどね! 父さんたちは予想の斜め上を行くんですよ。昨日だってそうです。移住の件、父さんたちは諦めてませんでしたし、挙げ句の果てに『転移魔法をおぼえたらいいいんじゃない?』なんて言ってきたんですよ! なんで、私が関わるとこんなにポンコツになるんですかっ?!」
「それは私も聞きたい」
だよね。国王様もそう思うよね! というか、皆思ってるよね!
「でも、お主なら転移魔法くらい使えそうだけどな」
そんな国王様の冗談に、宰相さんもブライアンもシェミーもうなずく。
ねえ、私のことなんだと思ってるのかな?! 人間なんだけどね、私はっ!
「……それで、私は何をすればいいんですか?」
「話がずれてしまったな」
話をずらしたのは、私なんだけどね。でも、言いたいことは言ったし、後悔も反省もしてない。
「エイリー、お主の実力を買って、頼みたいことがあるのだ」
「と言うことは、戦闘系ですよね?」
「そうだな」
「それならなんでもやりますっ!」
よっしゃあああああ。得意分野来たぜええええええ!!
「お主に戦闘以外のことをやらせると、ろくなことにならないしな」
「余計な一言ですけど、その通りです!」
普段ならカチンと来るところなんだけど、今は嬉しさが優っているので気にしならない。
それでそれで、と急かすように国王様を見ると、少し引き気味に国王様は話を続ける。
「この間、実習をした森があっただろう? 魔王が来たあの森だ」
魔王とやりあったあの森か。
そんなに危険な魔物が出てくるような森じゃなかったけど、その森がどうしたんだろうか?
「最近、森から魔物が頻繁に出てきて、困っているのだ」
「魔物が森から出てきてる? そりゃまたどうして?」
普通、魔物は森や洞窟など、自分の住処の一定範囲からは出てこない。だから自分より上位の個体に命令されるというイレギュラーを除いて、人の住む町や村に出てくることもないし、襲うことはないのだ。
これはまた、厄介なことに巻き込まれたなぁ。
「それがわからないから、お主に頼みたいのだ」
「森の調査をしろってことですか?」
「そういうことだ。最悪、悪魔が出てくるかもしれない。お主に任せるのが一番だろう」
「わかりました。原因を探って、原因を消してくればいいんですね?」
私がそう尋ねると、国王様はこくりとうなずいた。
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