第2節 それぞれの思惑が明らかになるようで……?

37 最初に糖分補給をしておきましょう。

「ご苦労だったな、エイリー」


 そう言ってるわりには、笑顔が怖いんですけれども。

 重々しい声でそう言ったのは、鬼畜国王様だ。


 そう、アイオーンに戻ってきた私は、例のごとく城に呼び出されていた。いや、今回は呼び出される理由がわかるんだけども。私情があったとはいえ、一応アイオーンの代表として、マカリオスに行ったからね。


 でもさ、こうして城に来るのに、慣れちゃってる私がいるのはおかしいんだよ。

 私、アイオーンでは、ひとりの冒険者にすぎないんですけど?! 平々凡々な庶民なんですけど?!

 そりゃあ、ちょ~と強いかもしれないけどさ。強いからって、毎度毎度こうして城に呼び出されるのは別問題だよね?!


「はあ、ありがとうございます」


 当たり障りのない答えを返しておく。


「……エイリー、お前、こんなところに呼び出されてるわけがわからないって顔してるぞ」


 そんな私に向けて、隣にいるファースが呆れたように言った。

 ファースってさ、私といるとき、嬉しそうな表情よりも、呆れた表情する回数の方が多い気がするんだけど。私の気のせい?

 私たち、一応、恋人だよね?! ファースって私のこと好きなんだよね?!流石の私も、ちょっと泣きたくなるよ?!


「なんでわかったの?! そんなに私、わかりやすい?!」

「ああ」

「そこは嘘でも否定してほしかったっ!」


 ファースって私に遠慮ないよね! まあ、遠慮ないのはファースだけじゃないけど!

 ムカつくから、ぽこぽことファースのことを軽く叩く。


「エイリー、痛い。やめてくれ」

「ファースが悪い! それにそんなに強く叩いてないんだから、我慢しなよ」

「エイリーのは洒落になんないんだって……」


 ファースはそう言って、さっと一歩下がってよける。

 軟弱者め。そんなに強く叩いてないじゃん。


「……お主ら、我の前でイチャイチャするとは良い度胸をしておるな」

「これのどこがイチャイチャに見えるんですか?!」


 お前の目は節穴かっ!

 どう見たって、ファースを懲らしめてるだけじゃない?


「どこからどう見ても、イチャイチャしてるだろう? なあ、ファース?」

「……本当に痛いんですよ、父上」


 鬼畜国王が楽しそうに話を振ると、ファースは気まずそうにそう言った。言い方が本当に痛そうだった。


 ……なんかごめん。ちょっとやりすぎたかもしれない。


「それで、お主らはいつ結婚するんだ?」

「「ふあっ?!」」


 夕飯の献立を聞くように、国王様は言うけど、私もファースも流されなかった。

 内容が内容だしっ!


 なんか、2章4話も国王にそんなこと言われたな……。

 あの時は色々あったから、なんとなく流れちゃったけど、今回はそうはいかないだろうな。

 鬼畜国王、目がギラギラしてるし。怖っ。


「どうなんだ?」

「え~と、まだ、そこまで考えてないって言うかぁ……」


 結婚なんて、まだ先のことだと思ってたよ!

 だって、恋人になったのだって、なんか流されちゃった感あるし!!


「そうなのか、ファース?」


 そこでファースに話を振るなよおおおおおお。

 ファースはさ、真面目だからさ、そのさ、将来のこととか考えてそうじゃん!! それを馬鹿正直に親に教えちゃいそうじゃん!!!


 私、恥ずかしいやつじゃん!!

 心臓爆発したら、責任とってもらうからな!!!


 ファースは顔を真っ赤にして、口を開かない。

 国王も余計な茶々を入れることなく、真っ直ぐにファースを見ている。


 どくどくどく、と私の心臓の音だけが聞こえてくる。

 静かすぎるだろおおおおお。

 私、こういうの無理。逃げたい。帰りたい。


「……結婚、したいとは思ってます」


 ファースは少し震えた声で、そんなことを言う。でも、横顔はきりっとしててかっこいい。

 嬉しさと応援したくなる気持ちと恥ずかしさで、「うおおおおお」と叫びたくなるが、必死に我慢する。


 落ち着け、落ち着くんだ、私っ!


「ただ、エイリーはまだそういうことを考えていないでしょうし。それに、結婚よりも魔王討伐が先ですし。そもそも、跡継ぎである兄上たちがまだ結婚どころか、婚約者もいませんし」


 恥ずかしさが勝ってきたのか、ファースはだんだんと早口になってきた。

 わかる、わかる、恥ずかしいよね! 聞いてる私も恥ずかしいもん!!


 ああ、もうだめ。我慢の限界だわ。

 叫びたい。


「そういうわけなので、ほっといてくださいいいいいい!! 私たちは仲良くやってますからあああ!!!!」


 はあ、はあ、すっきりしたっ!

 大声で叫びすぎて、鬼畜国王もファースもぽかーんとしちゃってるよ。

 でも、すっきりしたから、なんの問題もなしっ!


「…………と、言うわけですので、この話は終わり、終わりにしましょう!」


 私の心臓が持たないからっ!

 私のこと、魔王倒す前に殺したくないでしょ。


 それに今の状況で、結婚とかなんとか、そう言う話をするとフラグっぽいでしょ?!

 誰か死んじゃうみたいでしょ?!

 そんなの嫌だし、そんなことさせないけど、不吉すぎるんだよ!


「そうだな。本題が別にあるしな」

「なんか本題前なのに、滅茶苦茶疲れたんですけど」

「エイリーのせいだな」

「断じて違いますね」


 あんたのせいだろ、鬼畜国王。


 こうしてまあ、疲労困憊で、本題に入るのであった……。

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