24 踊る戦乙女、食事のために本気を出す

「私ひとりでも余裕なんだけど、邪竜とか下級悪魔とか、できるだけ速く倒しちゃった方がいいんだよね?」


 ブライアンに向かって、今後の方針を決めるために質問を投げかけた。


「そうだな。この様子だったら、少なからず街にも被害が出ているだろうからな」

「そういうことなら、簡単だね」


 私は不敵に笑う。

 その喧嘩、買ってやろうじゃないの。


「私は速攻で、厄介な敵を倒すから。ファースとレノとグリーは、私の援護をしつつ、魔物たちを殲滅して」


 本当は魔物をそのまま倒すと魔王の力になるから、聖魔法で浄化しちゃいたいんだけど、そんなこと言っている時間はない。どのくらい魔物がいるかもわからないし。


「で、ブライアンたちは避難の誘導とか、守りを固めるとかして。基本的に戦闘するのは私たちだけにして」

「いくらお前が踊る戦乙女ヴァルキリーだとしても、危険すぎだ」

「ブライアン様の言うとおりよ。私も行くわ」


 ブライアンとミリッツェアが口々に反論を唱える。

 まあ、普通に考えたらこの作戦、無謀そのものだよねぇ。

 でも、私をなめないでほしいな。


「却下。貴方たちは足手まといにしかならない」

「でも相手と数が格段に違うぞ!」

「ファースたちと打ち合わせをしたならわかってるんでしょ? 魔物は魔王に還るって」


 私の言葉に、悔しそうにブライアンは口をつぐんだ。


「数で押しても、魔王に力を与えちゃ意味がないでしょ」


 私は圧倒的な実力で、魔王をぼろぼろにしてやりたいんだよ!! 余計な力をつけさせて、魔王との戦いに苦戦なんてしたくないんだよ!!


「ミリッツェアだって、今はろくに聖魔法使えないじゃん。だから、守りを固めてくれた方が、安心できるってわけ」


 わかった?、そう問いかけると、ブライアンは不満そうに、わかった、と返してきた。

 自国の問題を自分たちで解決できないのが悔しいんだろうなぁ。そんなこと思ってる暇なんてないんだけどね。


「じゃ、そういうことで」

「……気をつけろよ」

「誰に言ってるの」


 ブライアンの激励に、ふっ、と笑ってやる。私の心配するなんて、百年早いよ。

 ブライアンは、むっとした表情をしていたが、すぐさまミリッツェアとリュリュを連れて、パーティー会場の避難誘導を始めた。


「さて、私たちも行きますか」


 私はアイテムボックスにしまってあった、クラウソラスを取り出す。


「レノは元々武器を持ってるし、ファースは魔法がメインだからいらないよね?」

「ああ。短剣は持ってるから大丈夫だ」

「じゃあ、武器が必要で、持ってないのはグリーだけか。ねえ、剣にこだわりあったりする?」

「自分の剣が一番だけど、剣が変わったからって劣るような鍛え方はしていないわ」


 おおう、それ、お姫様が言うセリフじゃないと思うんだけど。

 でも、そっちの方が好都合だ。


 アイテムボックスから、良さそうな剣を数本取り出すと、床に並べた。


「どれか好きなの選んで。ここになかったら、また数本出すから」

「……なんでそんなに剣を持っているのか聞きたいところだけど、今はそんな暇ないものね」


 ぶつぶつと言いながら、グリーは剣を持ったり、ふったりしてみて、一本の剣を選んだ。


「じゃあ、行こうか」

「応っ!」


 ガサツなグリーさんも見参したし、準備は完璧だろう。


 私はパーティー会場の窓の方に歩いて行く。

 靴が隠れるほどの長さのドレスはやっぱり歩きにくい。

 破っていいかな? いいよね? 緊急事態だもん、いいよね?


 破っちゃえ! 父さん、ごめんね!

 心の中で父さんに謝りながら、クラウソラスで膝くらいまでドレスを破る。


 うん、動きやすい。やっぱりドレスなんて、動きにくいんだから、着る意味ないと思うんだよね。


「……あのさ、エイリー、つまらないことを聞くんだけどさ」

「どうしたの、ファース」


 私のことを追いかけていたファースが、はらはらした様子で聞いてくる。


「ここ、2階だよな?」

「そうだね」

「どうやって、魔物たちがいるところまで行くんだ?」

「そりゃもちろん、決まってるじゃん」


 今更、何を言ってるんだか。

 私に振り回されてるファースなら、とっくに想像がついてるでしょう?


「飛んで行くんだよ。大丈夫、私が安心して運んであげるから」

「……だよな。そうだと思ってたよ」

「そんな心配しなくたって大丈夫だって。前は、ひとりで飛ぶことしかできなかったけど、今は4人くらいなら、余裕だって」


 これでも私、成長してるんだよ。


「……まあ、試すのは初めてだけど」

「それ、聞きたくなかったな」


 グリーがけらけらと笑う。聞きたくない、と言った割には、楽しそうだ。


「大丈夫、大丈夫。失敗なんてしないし」


 心配性なんだから。簡単に失敗するわけないでしょ。

 自分で飛べる、なんてレノは言い出したけど、スピードは圧倒的に私が速いから、駄目って言い返した。

 一秒たりとも無駄にしちゃ、ダメなんだから。


 はあ、とため息を一度吐いて、皆はきりっとした顔になる。どうやら覚悟を決めたようだ。

 グリーもドレスを破り、ファースは上着を脱ぎ捨て、レノは正装の軍服を戦いやすいように着崩した。


 そして、私は勢い良く窓を開ける。

 風が入ってきて、邪竜の咆哮が大きくなる。


 ふふふ、楽しくなってきた。

 いいねいいね、みんなまとめてぶっ潰してやるよ。



 そうして、私たちは夜の空に向かって飛び立った。


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