23 類は友を呼ぶ……?

 皆の前で挨拶を終えると、今度は個人個人に挨拶回りにいかなければならなかった。

 全体に向けて挨拶したんだから良くない? しかも多分私、盛大にやらかしたよね? 流石に自覚ある。だって会場の雰囲気、凍ったもん……。


 挨拶回りには、私のエスコート役であるファースが同行する。頼もしい。


「それにしても、エイリーの挨拶……。あれは何だったんだ?」

「何だったって言われても、私にとっては挨拶だったんだけど?」


 普通の挨拶からはかなりかけ離れてるけど、私はあれでも頑張ったんだよ。


「エイリーらしかったけどさ……。その、もっとまともな挨拶はできなかったのか?」


 ファースが呆れたように言ってくる。

 しょうがないじゃん。大体、急に挨拶しろだなんて言ってくる方が悪いんだよ! 私の能力なめすぎ!

 私は堂々と開き直ることにした。


「無理。私にそんなもの求める方がおかしいんだよ」

「それは……、そうだな」

「そこは嘘でも否定するところじゃないの?! そうだよね?!」


 そうだよって誰か言って!

 ここは嘘でも、『エイリーならできると思ったんだ』とか言って?! はっきり言わないで?!


「でも、事実だろ?」

「そうだけど、そうだけどさっ!」

「まあ、まともな挨拶はできないことくらいは想像がついていたけど、まさか鼓舞の仕方が独特的だったのは想像もつかなかった。だってエイリー、それならできそう、とか言うしさ」

「あ、うん。そのことに関してはごめん」


 それは完全に私が悪かったので謝っておく。


「いや、さ? お偉いさん向けの難しい挨拶よりは鼓舞の方ができるかなぁ~、と思ってたんだけどさ? そういえば私、冒険者の仕事もぼっちソロでやってたからさ? 大勢に向けて鼓舞したことなかったんだよねぇ」


 最近、誰かと一緒にいることが多かったから、すっかり忘れてたんだよね。あはは~。

 こう考えてみると私、親しい人増えたよね。何故か、変な人多いけど。お偉いさんも多いけど。


 私が笑って誤魔化そうとしているのを見て、ファースが呆れを通り越して、無表情で私を見ていた。


 …………お~い? そこまでしなくてもいいんじゃないかなぁ。私、悲しいなぁ。


 ファースはため息を吐いて、気持ちをリセットすると(というか、ため息吐かないで?! お願いだから!)、


「さ、挨拶回りにいこうか」


 と、笑顔で言った。悪魔の笑みだった。


「え~、まだおしゃべりしててもよくない?」

「往生際が悪いよ」


 にっこりと笑う、でも目は笑ってないファースに連れられて、多くの人に挨拶をすることになったのだった。



 * * *



 つ、疲れた……。


 挨拶回りを終えた私は、椅子に座って脱力した。

 はしたないとか知るか! 私は慣れないことをさせられて、疲れてるんだよ!!


 私のぶっ飛んだ挨拶で、性格は多少は知らせてるものの、外面というものは大事で、私は終始にこにこしていた。余計なことは喋らず、にこにこしていた。

 私頑張った、偉い。


 これだやることはやったし、美味しい料理を食べられる。

 ただ、ドレスを着ているので満足するまでは食べられないだろう。くっ、これだからドレスは……!


「エイリー、流石にそれはだらしないんじゃないか?」


 そんな私のぐで~とした姿を見て、ファースがツッコミを入れてくる。

 完全に体を背もたれにあずけ、少しばかり足を開いているだけだ。そのくらい見逃してほしい。私、貴族の令嬢じゃないんだしさ。


「いいじゃん別に。私は疲れてるの」

「でもまだパーティーは終わってないんだから、もう少し頑張って。人の目あるし、足は閉じてくれないかな」

「え~」

「え~、じゃない」


 そんな低レベルな、でも私にとっては大切な、言い争いをしていると、会場の賑やかな声をかき消すように、『ギャオオオオオオオ』という咆哮が響き渡った。


 その異様な咆哮に、皆がざわつき始め、次第にパニックに陥っていく。

 聞いたことのないものだから、余計に、だろう。


「なんだ、この音は?」


 ファースも真剣な表情になって、辺りの様子をうかがう。


「……邪竜の咆哮だよ」

「邪竜?!」

「うん。前に邪竜倒したときに聞いたのと同じものだから、間違いないと思う」

「え? 邪竜を倒した?!」


 いくら何でも情報過多すぎるだろ、とファースはあからさまに混乱していた。


 ……いや、そんなに混乱する要素、ある?


 それはそうとして、めんどうなことになったなぁ。

 どうしてこんなところに、数の少ない邪竜が現れるんだ。


 う~ん、と3秒くらい考えて、私は思考を放棄する。

 まあ、考えてたって、原因がわかるわけでも、邪竜がいなくなるわけでもないから、潔く諦めた方がいいよね!


「ファース、戸惑ってる場合じゃなくて、まずはこの場の対応をしなくちゃ」

「……それもそうだな」


 そこにグリーとレノ、ブライアンとミリッツェア、リュリュが合流する。


「エイリー、あの咆哮は邪竜だよな?」

「うん。間違いないと思う」


 騎士団長である経験豊富なレノが最初に口を開いた。

 流石レノ。あれが邪竜だということに気がついたようだ。


「邪竜だけじゃなく、多数の魔物の目撃証言も入っている。その中に下級悪魔らしきものも紛れているらしい」

「はあ?!」


 続いて、ブライアンからの報告。

 内容が信じたくないものだったので、思わず大声で驚いてしまう。


「魔物はともかく、下級悪魔?! なんでそんなものがいるのさ?! 嫌がらせ?!」

「……魔王からの攻撃だという可能性は捨てきれない」

「確かに、魔王討伐の主力が集まってますものね」


 ブライアンの言葉に、グリーが同意した。


 あの野郎……! 私の安眠だけでなく、パーティーの食事まで邪魔する気か……!

 私の楽しみを、三大欲求を、邪魔するなんて、絶対に許せない。ぼっこぼこにしてやる。


 めらめらと燃えた私は、とりあえずこの状況をさっさとどうにかすることに決めた。

 さっさ邪竜たちをぶっ倒し、私は美味しい料理を食べるのだ!


 決意を込めるように、私はぎゅっと手を握った。

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