127 戦場に向かうより嫌な場所

 気持ちの良い、雲一つない晴れの日。


「はあああああ」


 王城に向かう馬車に揺られながら、私は盛大な溜息を吐く。


「そんな溜息吐くなよ」


 私の目の前に座る、騎士団長・レノが呆れた目で私を見てくる。今日は騎士団長の正装をしていて、きっちり決まっている。

 イケメンだなぁ、くそ。


「だってぇ……はああああ」

「いい加減諦めろ」

「でも、嫌なものは嫌じゃん?」


 誰が好きで、お城に行って、腹黒国王に会い、その他キャラの濃い王族たちに会わないといけないのさ。しかも皆様それなりに権力を持っているので、余計めんどくさい。


「でも、報酬は欲しいんだろ?」

「当たり前。ただ働きなんてごめんだね」

「じゃあ、いいじゃないか」

「でもぉぉ……」

「なあ、このループ、いつまで続くんだ?」

「さあ?」


 冒険者省を出てもう十分は経過した。その間、レノには同じ愚痴に付き合わせていたので、そろそろ飽きてきた頃だろう。私も飽きてきたし。


「……にしても、前より迎えが豪華だよねー」


 そうなのだ。国王様と謁見した時よりも、護衛の兵士は多いし、何より馬車がアイオーンの王家がよく使うものだったのだ。今回はクレトがいないのにも関わらず、だ。


「当たり前だろ」

「なんで?」

「お前、第二王子の婚約者だろうが」

「……そうだけど、私、一般庶民だよ?」

「だが、王家の婚約者だぞ?」

「でも私、ただの平民ですけど?」


 そんな言い争いをしていると、はああ、と今度はレノが溜息を吐いた。


「あのな、王家の婚約者がどれだけのことかわかってるのか?」

「まあ、一応は?」

「……わかってないだろ」

「わかってるよ?」


 これでも元・公爵令嬢ですもの? 王子様と婚約者だったし?


「わかってないな」

「わかってるし!」

「はいはい」

「はいはいって何」

「まあ、王族の婚約者をお迎えしちゃいけないだろ」


 私のことは無視して、レノが強行突破する。

 なんか、軽くあしらわれた気分。ムカつく。


「私は構わないけど」

「そういう問題じゃないんだよ」

「……外面ってこと?」

「言い方は悪いがそういうことだ」


 なるほどねー。権力者は権力者で大変なんだねー。

 そんなことに私を巻き込んで欲しくはないんだけどねー。


「まあ、なんでもいいけど」

「なんでもいいなら、何も言うな」

「だって、話題がないんだもーん。なんかないの、レノ」


 王宮に着くまでの暇つぶしをレノに求める。

 するとレノはニヤリと笑って、


「今日は高級なワンピースじゃないんだな?」


 と、面白そうに聞いてくる。

 よりにもよって、その話題出す?!


「今回はロワイエさんとの論争に、なんとか勝ったんだよ……!」

「……そんな噛みしめるように言うことなのか?」

「言うことなんだなぁ、それが」


 私は自分が着ている服を見て、より嬉しさを感じる。

 今回の衣装は、ドレスよりの貴族っぽいものではなく、軍服よりの冒険者っぽいものなのだ。窮屈なのには変わりがないが、ドレスみたいな服を着るよりはマシだ。

 この服は、この服は、私が勝ち取ったものなんだっ!


「どう言うことだ?」

「聞いちゃう、聞いちゃう?!」

「いや、別に聞かなくても良いんだけど」

「そんなに聞きたいんだね?!」

「いや、別に」

「そっか、じゃあ話してあげよう」

「……もう、好きにすれば」


 そうして、私はレノにロワイエさんとの熱い戦いを話し始める。そりゃあ、もう盛大に。


「……つまり、最初ドレスを勧めて着たが、今回はひとりの冒険者として謁見するんだ、と言うことを言い張って、冒険者っぽい服装を選んで貰った、と」

「まとめないでよ?!」


 だけど、レノはあっさりと話の内容をまとめてしまった。

 むむむ、私がせっかく熱く語ってあげたのに!


「なあ、エイリー」

「なんだ?」

「結局、ボーエルネさんの手のひらで転がされてないか?」

「……」


 レノは容赦なく、現実を押し付けてくる。


「そういうのは気づかないふりをするのが美徳ってもんじゃないの?!」

「あ、着いたみたいだぞ」

「あのねえええええ?!」


 そんな感じで、王城に着いた頃には憂鬱な気分は、忘れていた。

 そのかわりに屈辱が、私の中に渦巻いていたけど。

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