128 王位継承権は誰の手に?

 城に着くと、私はある部屋に案内された。

 そこには、国王、マノン様、そしてマスグレイブ兄弟たちが、集められていた。重苦しい空気が場を支配していて、流石の私も軽口を言える雰囲気じゃなかった。


 と言うか、マスグレイブファミリー、み~んな揃ってるね。家族会議か何か?

 そんなところに、完全部外者の私がいるねぇ。言ってしまえば、他国の公爵家出身の私がいるねぇ。



 ――――色々とツッコミどころ多くない?



「王家の秘宝は全て戻った。これより王位を継承する者を決める」


 そう高らかに宣言するアイオーンの腹黒国王。空気がさらに、ぴんと張る。



 ――――それはいいんだけどさ、なんで私はここにいるんだ?



「……国王様、ひとつお尋ねしてもいいですか」

「なんだ?」


 まあ、聞かずにいられないのは私の性分なので、聞くことにした。多少の無礼は許されてるし、問題ないだろう。


「どうしてこの場に私がいるんですか?! おかしくないですか?!」

「おかしいか?」

「おかしいですよ!!」


 しっれと聞き返すな。普通におかしいわ!


「おかしくないだろう、お主の功績を考慮すればな」

「功績……?」


 なんじゃそりゃ。


「お主は秘宝探しで、何をした?」

「はい?」


 何かしたっけ。

 いや、ぶっちゃけ功績なんてどうでもいいんだよ。帰りたいんだよ、私は! 人様の家の家族会議になんて参加したくないよ。しかも王族だし!


「秘宝を全部見つけたのう」


 ベルナが言う。

 そう言えば、確かに。なんだかんだで、全部見つけたのは、私だ。


「秘宝を盗んだ奴を捕まえたな!」


 コランが言う。

 それも、そうだな。捕まえはしたな。


「そして何より、王位継承を示す秘宝を君は持っているじゃないか」


 クレトのとどめの一撃。


 そうだった。そうだったよ!

 王位継承権を示すネックレス、私が持ったままだったよ。ファースたちにまんまと預けられてたねぇ。

 ……てことはだ。今、王様になれる権利持ってるの私じゃん!


「……気が付けよ」


 完全に私の心を読んでいるファースが、ぽそりとツッコミをいれた。

 うるさい、と返したいところだけど、流石にこれは正論が過ぎる。まあ、ファースが言うことはほぼほぼ正論だ。


「忘れているあたりがエイリーらしいわよね」


 同様に私の考えてることがわかったグリーも、くすくすと笑う。

 お前ら、当事者じゃないからって、気を抜きすぎだろ! もっと、緊張感を持とうよ、緊張感。


 というか、あんたたちのせいでこんなことになってるんだけど?


「で、どうするんだエイリー」

「……どうする、とは」

「王になるか?」

「いやいやいやいや、遠慮します」

「遠慮しなくていいんだぞ?」

「遠慮なんてしてないです。断固拒否です」


 何考えてるんだ、この国王。普通に自分の子に継がせようとしろよ。冗談でも質が悪い。

 ここまでくるとこの国王様、わざと秘宝盗ませたんじゃ……?、と思えてくる。私の考えすぎだと思いたい。


「では、誰かに譲れ」

「……はい?」


 今、とんでもないことが聞こえたような?

 気のせいだよね? 誰か気のせいって言って!


「誰を次の国王にするのか、お主が決めろ」

「……はいいいい?」

「それが一番手っ取り早いし、めでたしめでたしだろう?」

「いやいやいやいやいや」


 何言ってるんだ、この国王。頭大丈夫? 仕事のし過ぎ?

 私に選ばせるなんて、どうかしてるんじゃない? 私が言うのもなんだけどさっ!


「皆の者もそれで良いか」


 よくねーよ。

 良いはずないだろ。


「私は構いません」


 真っ先に口を開いて肯定したのは、マノン様だった。

 ……この人は言いそうだな。


「妾も構わない」

「俺も」

「僕も」


 するとすぐに、王位継承権争いをしている3人が、コクリと頷いた。


「えええええ?!」

「なんだ、いきなり。びっくりさせるな」


 私の驚く声に、クレトが迷惑そうな顔をする。

 いやいやいや、びっくりしたのはこっちだよ。


「なんでっ?!」

「なんでも何にも、一応妾たちは其方に王位を譲ってもらう立場なのじゃぞ?」

「はあ?」

「其方が王位継承権を示すネックレスを持っていることは事実。其方に選んで貰うのが妥当じゃろう。それに」

「それに?」

「そっちの方が、面白いではないか」

「……そんなもんなの、王位継承権への執着は」


 ベルナがいつも通りすぎて、驚いていることが馬鹿みたいになってきた。


「妾は愉快に過ごせれば良いだけじゃ」

「あっそう」


 この人、色々とおかしい。


「俺もベルナ姉上と同意見だ!」

「そんなことだろうとは思ってたよ」


 脳筋だもんね、コランは。

 楽しいことというか、戦いに熱中できればそれでいいんだろう。


「……姉上と兄上がそういうなら、僕も構わない」


 出たー、クレトのシスコン、ブラコン。家族大好きすぎるやつ。

 まあ、王位継承権争いに加わってるのも、若干下心ありそうだもんねぇ。


「ああ、もう。本当にいいんだね?」


 すっかりリラックスしてしまった私は、確かめるように皆の顔を見渡す。

 皆は楽しそうに、緊張してるように、頷いた。


「この先、国がどうなったて、知らないからね」


 そう言って、私は王位継承権のネックレスをアイテムボックスから取り出す。



 ――――考えていなかったわけでもないのだ、誰が王様にふさわしいのかって。



 きらりと3つの魔石が光る。


「じゃあ、決めますよ〜」


 うーむ、と悩むそぶりを見せながら、私はクラウソラスを抜いた。


「……まさか?!」

「そのまさか?!」


 ざわざわ、と少し騒がしくなる。


「なんの“まさか”かは知らないけどっ!」


 私はクラウソラスを天井に掲げ、踊り歌い出す。


「風を司る精霊よ、形を司る精霊よ、刃を司る精霊よ。私は望むの。私は分けることを望むの。これを綺麗に3つに分けて。平等に、公平に、そして美しく。風の刃よ、どうかお願い」


 呪文を歌い終わると、風が刃の形を形成し、


「ほらよっ」


 そして、三等分にしたネックレスを、ベルナ、コラン、クレトにひとつずつ投げる。

 かなり戸惑っていたようだが、ちゃんとキャッチはしたようだ。お見事。

 まあ、落としていたら。そいつは失格だったけど。


「……どういうことなんだ、エイリー?」


 混乱している皆を代表して、ファースが尋ねてくる。


「どういうことって言われても、見たまんまじゃん?」

「つまり、ベルナ姉上、コラン兄上、クレト兄上の3人で王様をやれってことか?」

「そういうことだねぇ」

「……ははは。流石だな、エイリー」


 悟りを開いたかのように、ファースが笑い出す。


「本当だわ、ふふふ」


 ファースに同意するようにして、グリーも笑い出す。

 ちなみに、ノエルちゃんは、すごーいとひとり目を輝かしており、タパニは呆れて何も言えないようだ。

 国王様とマノン様は揃ってニヤニヤしていて、当事者三名は相変わらずぽっかーんを続けている。


「別に王様をひとりでやらなきゃいけないって決まりはないでしょ。それぞれの得意分野を発揮して国を治めればいいじゃん」

「確かに、そうだな」


 愉快そうに、国王様は言う。本当、この人呑気だな。


「あとは3人で好きなようにすれば? 私そこまで面倒みないからね?

 それに! 私は今日、秘宝探しの報酬を貰いに来たの! こんなのに付き合うために来たんじゃないの!」


 国王様から報酬をもらって、さっさと帰る予定だったんだ。国を揺るがす判断をしに来たんじゃない。


「ふふふ、あはははははは」

「急にどうしたの、ベルナ」


 驚きで動きが止まっていたベルナが、なんの前触れもなく笑い出した。

 何、とうとう取り返しのつかないレベルでおかしくなった?


「やっぱり、エイリーは面白いことをしでかしてくれるのう!」


 そう言って、またベルナは笑い出した。

 それにつられて、コラン、クレトも笑い出す。

 何か吹っ切れた顔をしていたので、いいんだけど、急に意味もわからず笑い出すのは、やめてくれます?


 そして、それにつられるように、またひとり、またひとりと笑い出し、とうとう私以外、全員が笑い出した。


 楽しそうなのは何よりなんだけど、何、このシュールな状況。


 恐ろしいことに、しばらく笑いは収まらなかった。

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