107 よりにもよってこの人ですか
こんこん、部屋をノックする音と、
「父上、クレトです」
という声が聞こえた。
国王様が入室の許可を出すと、クレトが不満げな表情を浮かべながら、つかつかと入ってきた。
やっぱり、クレトも不満だよね。国王様に一言いってやれ!
「父上、お尋ねしたいことがございます」
「なんだ?」
「どうして、エイリーと僕が婚約するのですか?」
「不満か?」
「はい、不満です」
うわ、はっきり言いやがった。ここまでくるとすがすがしいな。
「だが、決定事項だ。明日、大々的に発表する」
「どうしてそこまで、こだわるのですか?」
「エイリーを味方につける。これがどれほどの利益か考えよ。王家としても、お前としても」
「……っ!」
国王様の言葉に、クレトは黙り込んでしまった。
おい、もっと頑張れよ。ここからだよ!!
「では、我は失礼する。ふたりで今後のことをよく話すといい」
そう言って、国王様はさっさと姿を消してしまった。
* * *
「おい」
国王様が扉を閉めた瞬間、クレトが鋭い声を出した。
「何?」
私も負けじと応戦する。
私もクレトも、イライラしているのだ。
「どうしてこうなった?」
「私に聞かれても知らないよ」
「お前が言い出したんじゃないよな?」
「そんなわけないでしょ。私だって嫌だよ」
かなり険悪なムードになる私たち。これから、上手くやって行けるのだろうか?
……まあ、必要以上に上手くやってかなくてもいいのか。
はあ、と大きなため息をクレトは吐くと、私の方をまじまじと見つめてきた。
こう見ると、クレトもかなりイケメンなんだよなぁ。マスグレイブ兄弟恐るべし。
「で? これからどうするんだ?」
「どうするって?」
「僕たちはどう付き合っていくかだ」
「はあ……」
「君、少しは真剣になれよ」
「はあ……」
いやいや、実感がわかないんだもの。真剣もくそもないだろう。
「形だけの婚約者、でいいよな?」
「それ以外にないでしょ。それとも何? 実は私の事、好きとか?」
「断じて違う」
「だよねぇ。クレトが好きなのは、兄弟だもんねぇ」
「そうだ」
即答かよ。ここまでくると、潔いな。
「それに、僕より君を好きな奴いるしな」
「え?」
「気づいてないのか?」
クレトの海色の瞳が、私の瞳を覗き込む。
それがきっかけで、私は思い出してしまう。
ファースが私のこと、恋愛対象として見ている疑惑を。
「……はい」
「なんだその間」
「あははは、何でもないよぉ~」
「明らかに今、ドキッとしただろ」
「何のことかなぁ~」
いけない、いけない。ファースの顔が鮮明に思い出されて、鼓動が一瞬高鳴ってしまった。
まったく、クレトはいらないことするんだから。
「兎にも角にも、タイミングを見て婚約は解消するから、それまではへまをするなよ。一応、アイオーンは自由恋愛を推奨してるんだから」
「はぁ……」
「だからと言って、進んで仲良くする気もないがな」
「はぁ?」
めんどくさいな、こいつ。
程よい距離を保って、ってことなんだろうけど、いちいち言い方が腹立つなぁ。最初からそう言えばいいじゃないか。私も馬鹿じゃないんだし。
「いいか。ファースに心労をかけるんじゃないぞ」
「そんなのわかってますけど」
「いいや、わかってない。君はもっと自覚しろ」
「そんな念を押さなくても」
「君は鈍感すぎるからな。これでもまだ足りないくらいだ」
「冗談がきついよ」
「冗談ではない。本気だ」
「ええ」
この人、ほんと兄弟が絡むとめんどくささが増すよな。
万が一にも、ファースが私のことを好きだとして(ないとは思うけど)、クレトと婚約をしただけで、そんなに不安になるものなのか? いや、明らかに仕組まれたものとわかるんだから、不安も何もないだろうに。
「まあ、鈍い君でも直に分かるだろう」
「はあ……」
「他に話はあるか?」
「いえ、全く」
「じゃあ、最後に僕から確認が一つ。跡継ぎ争いには、これまで通り、参戦しないんだよな?」
「うん」
まあ、実際は関わってるんだけどね。クレト陣営としては、関わる気はさらさらない。
「わかった。では、帰っていいぞ。……いや」
「どうかした?」
「仮にも婚約者なんだ、送るべきだよな?」
「私に聞かれても」
「仕方ない。出口までは送ってやろう」
「嫌々なら、別にいいい」
「それは僕の格好が付かないだろ」
「はあ……」
こいつ、とことん面倒くさいな。
「いくぞ」
なんやかんやあって、私はクレトと歩き出したのだった。
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