106 踊る戦乙女は多くを知りすぎた!!

 話って何? え、私何か悪いことした?

 混乱と緊張を胸に、私は国王様のあとをついていく。

 行きたくねぇぇ。帰っちゃダメ? 別によくない?


 私と国王様が来たのは、謁見した時の部屋だった。

 前と違うのは、マノン様がいなくて一対一。ろくに会話をしたことがないので(当たり前だ)、柄にもなく緊張している。


 椅子に座ってふっと一息つくと、国王様は(割と)穏やかな表情から一変、真剣な顔を浮かべる。威圧と威厳を感じる表情に、私はごくりと唾を飲む。

 なんなの、この雰囲気。息苦しさで死にそうだよ?!


「エイリー」

「は、はい! なんでございましょう?!」


 重々しい声で私の名前を呼ぶなっ!!


「このままお主を帰すわけにはいかない」

「は? あの、もう一度言ってもらえます……?」


 なんか、不吉なセリフが聞こえたんだけど?

 このまま帰すわけにはいかないとか、そんなこと言ってなかった? 

 え? 気のせいだよね?? 私の耳が、不調なだけだよね??


「このままお主を帰すわけにはいかない、と言ったのだ」

「えええ?! なんでですか?!」


耳の不調なんかじゃなかった! 耳は正常だった!!


「お主は多くを知りすぎたのだ」

「はあ?」


 勝手すぎる理論だろそれっ!

 というかこれ、小説とかだと殺されるパターンだよね? ルシールは悪役令嬢だから、絶対殺されるじゃん! 格好いいヒーローとか出できて、助けて紅じゃん!! 無惨に殺されるのがお決まりじゃん!! 私、終わったじゃん!


「ふざけないでください! 勝手に色々押し付けてきたのはそっちでしょ」

「そう怒るな、エイリー」

「怒りますよ、帰さないとか言われて怒らない人なんているんですか?!」

「そう焦るな、エイリー」

「焦らないわけないでしょうが! もうなんなんですか!!」


 荒ぶる私を見て、楽しそうに腹黒国王は笑う。まじで滅べ、腹黒っ!


「お主は多くを知りすぎた」

「まあ、不服ながらそうですね」

「国家機密系のやつも沢山あるわけだ」

「まあ、そうですね。というか、貴方からの依頼自体が結構やばいですもんね」

「だったら、それ相応の立場になれば良いとは思わんか?」

「は?」

「つまり、身内になってしまえば手取りばやいと思わんか?」

「はああ?!」


 意味わからないんですけど。つまり、養子になれってこと? 結婚って線もあるのか?

 どっちにしたって断固反対だ。私がやだ。絶対やだ。そんなことされたら私逃げる。アイオーンからも逃げてやる。


「クレトと婚約を結べ」

「なんでクレト何ですか?! あんたは、跡継ぎ争い活発化させたいの?! 抑えたいの?! どっちなの?! わけがわからん!」

「そう荒ぶるな」

「荒ぶりますよっ! 婚約なんて嫌です!! 死んでも嫌です!!」


迷わず死を選ぶよ!! しかも、クレトだなんて、一番最悪だ!!


「この状態で跡継ぎ争いをするのは、かなりクレトが不利だろう?」

「無視ですか。そうですか、そうですか」


 もうこいつと会話できないな。こういう傲慢さがあるから、国王ができるんだな。うんうん。

 私はもう話を聞くことに徹しよう。


「長男のコラン、マスグレイブ兄弟の1番目のベルナ。この2人には跡継ぎ候補とは思えないくらいの伝手がある。だが、クレトはそれがない」

「はあ」

「だから平等にするために、エイリーを婚約者とするのだ」

「はあ、さては最初から狙ってましたねこれ」

「なんのことかな?」


 しらばっくれるが、私はもう誤魔化されないぞ。絶対、私と協力関係を結ぶ時から、これ企んでただろ。謀ったな。


「で? 婚約者として、クレトの味方になれと? 最初の契約はどうなるんです?」

「いや、これからもファースたちと協力してくれて構わないよ、秘宝に関しては」

「はあ? じゃあは私、不要ですよね?」


 政治関係なんて無理だぞ、私。


「それは我が決めることだ」

「うわぁ」


 ついつい本音が漏れてしまう。なんかもう、ツッコムのも疲れたわ。もうなんでもいいよ、もう。


「と言うわけで、これからもよろしくな」

「……はい」


 こうして私は、まためんどくさいことを押し付けられたのだった。


「ここにクレトを呼んであるから、直に来るぞ」

「は?」


 もう私、今日疲れたんですけども。容赦ないですね、腹黒国王。



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