93 スピード突破に限る

「うわー、結界張られてるねぇ」


 ゼーレ族の里を囲むようにして、結界が張られていた。最近張られたもので、割と強力なやつ。サルワが張った可能性が大だ。


「のう、エイリー。其方でもこの結界を解くことができるんだろうが、ここは妾に任せろ」

「いいけど、どうして?」


 結界を見て、難しい顔をしていたベルナはそう要求してきた。

 この結界に心当たりがあるのか?


「恐らくこれは、ゼーレ族どもが魔物と人よけに張った結界じゃ。解き方によっては、最悪な仕掛けが発動する」


 へえ、サルワが張ったものじゃなかったのか。正直私には結界の違いなんて分からないしな。


「どんな仕掛け?」

「本気で人を殺しにかかる仕掛けじゃ。毒のぬられた矢が飛んできたり、魔法が発動したりな」


 うわー、えげつないなぁ。流石の一言に尽きる。


「まあ、その仕掛けが発動しないように解除はできるがの」

「流石、ベルナ! できる女は違うねっ!」

「そうじゃろうそうじゃろう。……といっても、そんな仕掛けがなくても、暗殺者どもが攻撃を仕掛けてくるから、危険性はそんなに変わらんがの」

「……なんとかなるでしょー」


 ゼーレ族怖っ。シェミーをさらう段取りの時も思ったけど、どうしてそこまで非情で用心深いのかな?


「皆の者、よく聞け!」


 ベルナの叫びで皆が静かになる。と言っても、そもそも静かだったけど。


「これから妾が結界を破る。じゃが、破った瞬間に敵が仕掛けてくる可能性は大じゃ。気を引き締めておけ!」

「「はいっ!」」


 ベルナの呼びかけに、綺麗に返事の声が揃う。

 わーすごいな、と一番気の抜けた返事をした私は思う。


「準備はいいか?」

「「はいっ!」」


 皆の返答を聞いて、ベルナは詠唱を始めた。


「誇り高きゼーレ族の血を持つ、ベルナディット・マスグレイブの名において、この結界を無効化せよ!」


 その瞬間、結界は破れ、あらゆる方向から私たちに向けて、弓矢だのナイフだのが飛んでくる。

 危ないなぁ、おい。


「突破組は突っ込むよ! あとはそれぞれのチームのリーダーの指示に従ってっ!」


 私は指示を言い終わる前に走り出した。その後を必死になってベルナとレノが着いてくる。


「邪魔なもの全て塵になれ灰になれっ!」


 私は呪文を詠い、飛んでくる矢やナイフをことごとく消していく。


「俺やっぱり必要ないじゃん」

「何言ってんの。私は置いてくつもりで走るから、その時にベルナを守れるのはレノしかいないんだよ」

「……率先して集団行動を乱すのか」

「速さに勝るものはないでしょっ!」


 レノにそう返すと、私はさらに加速する。


「もっと加速しても問題ないぞ、エイリー」


 ベルナが余裕そうに言う。どうやら身体強化の魔法を使っているようだ。

 やっぱりベルナ強いじゃん。守りなんて必要ないじゃん。


「いいんだね? 疲れたら、休んでくれていいんだからね?」

「ふふ、のぞむところじゃ!」


 そう言って私たちはさらにスピードを上げた。


 少し遅れて、前衛組、後衛組のメンバーの半分も付いてきていたのが、チラリと見えた。



 * * *



「ここか、シェミーがいるのは」

「そうじゃの」


 私たちはこの里で一番大きな建物を前にそう言う。きっとゼーレ族族長一族が暮らしていた家だろう。


 日本の古民家っぽい大きな家で、懐かしさを感じる。城じゃないのがなんか残念な気もするが、そんなことを気にしている場合じゃない。


「さてさて、この先にはどんな仕掛けが待っているのかなぁ」

「……楽しそうね?」


 前衛組で付いてきたひとり、グリーが言う。ちなみに前衛組のもうひとりはヴィクターだ。


「そりゃ、楽しいでしょ。だって、シェミーに酷いことしたサルワに痛い目見せられるんだよ?」

「あと、サルワにぎゃふんと言わせたいんだろ」

「それもある」


 後衛組で付いてきた、ファースが的確すぎるコメントを述べた。

 ファースが最近私のことを分かりすぎてて、少し怖い。あと、さっきのベルナとレノの会話も少しちらつく。

 まあ、絶対そんなことないだろうけどな!


「……じゃあ、さっさと終わらせますか!」


 こうして、私たちは敵の本拠地に乗り込んだ。

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