92 恋バナしてもいいですか?

「お待たせ、どんな感じ?」


 私は魔物を倒し終えると、すぐに皆と合流した。


「……早くないか?」

「そう?」

「いや、なんでもない。エイリーはなんでもありだもんな」


 レノが何か言っているが、意味がよくわからない。なんでもないなら最初から言わないでよね。


「エイリーが魔物を殆ど倒したお陰で、結構スムーズに進んでるぞ。魔物も出てこない」

「そう? ならいいんだけど」


 そうして私たちは奥へ奥へと進んでいく。



 * * *



「そー言えばさ、ベルナって婚約者的な人いるの?」


 話の流れで私はベルナに、こんなことを聞いていた。

 なんでこんな恋バナみたいな感じになったんだ?


 ……ああ、そうだ。『前衛組って男、ヴィクターしかいないよね、ハーレムだね』って話だ。『ファース、ハーレムにならなくて残念だね』って。

 会話をしてるとたまにあるよね、“どうしてこうなったんだ?”みたいな。


「いないのぉ。というか妾たち兄弟は、グリー以外婚約者はまだいないのじゃ」

「へー、そーなのね」

「妾たち跡取り争いの3人は、色々とめんどくさいからいないのじゃ。まあ、それ以前に誰も相手がいないからのぉ」


 まあ、皆さんキャラが濃いからね。それと結婚しようだなんて、大した物好きだと思う。


「妾たちも王族とはいえ、基本的に自由恋愛だから、ファースも婚約者はいないのじゃ」

「へぇ。ファース、モテそうなのにね」

「ファースは奥手だからな」


 婚約者のいるレノが余裕そうに言う。

 ていうか、グリーとレノって婚約してるんだよね? いちゃいちゃとか見たことないんだけど。

 ……気になるなぁ。なんて、思っていると。


「ファースの奴、変な女捕まえてこないといいがの」


 ちら。


「ファースの奴、変わってるからわかりませんよ?」


 ちら。


「そうじゃのぉ。変な女が義妹になったら、妾も大変じゃしな」


 ちら。


「まあ、ファースの気持ちは決まってそうな気もしますけどね」


 ちら。


「……ねえどうして、ちらちら私の方見ながら話してくるの?」


 ベルナとレノが私の方を見て、ファースの話をしてくる。

 なんでなんでなんで?! 私、関係なくない?


「だってのぉ」

「何さ?」

「自覚、ないのか?」

「……まさか、その“変な女”が私だって言いたいわけ?」

「そうじゃ」「そうだ」


 私の仮定の話に、ベルナとレノが即答する。


 まじかよ。

 ファースが私を、恋愛対象として見てる……?

 いやいや、ありえないでしょ。あのファースだよ?

 どっちかって言ったら、ファース、しっかりしてるお兄ちゃんキャラじゃん。漫画とかだとよく当て馬にされる奴じゃん。


「やめてよ」

「事実じゃ」

「じゃあ、ベルナの目は節穴なんだねそうなんだね」

「どうしてそうなる」


 だって、ファースの私に対する態度は、厄介な妹に対するものに近いんだもん! 恋愛対象ならもっと、もっとこうなんか、甘々デロデロでしょ!!


「……この話はやめよやめよ」

「話の逸らし方が相変わらず雑だぞ」

「じゃあ今度は、レノの恋バナ聞かせてよ」

「えー」

「ほうほう、それは妾も聞きたいのじゃ!」


 私の提案にベルナがあっさりとのってきて、私とベルナでレノを追い詰める形となった。


「……面白くないから嫌です」

「何でもいいから聞かせてよ。今の状態だけしか見てないと、グリーと婚約者に全く見えない」


 いちゃいちゃ話を聞かせてよ。私、割と人の恋バナ聞くの好きなんだよね。

 決して、滅びろとか爆発しろだなんて思わないし。


「それは……」

「こやつらは人前でいちゃいちゃしないタイプじゃ。2人きりの時いちゃいちゃするタイプじゃ」

「やっぱり?」


 ベルナの言葉にレノは顔をほんのり赤く染める。

 くそ、美形だから可愛いぞ騎士団長様?! グリーに見せてあげたい。


 私はさらに追い討ちをかける。


「ねえねえ、グリーのどこが好きなの? いつ好きになったの? 結婚の予定は?」

「そんなにいっぺんに聞かないでくれ……」

「で? どうなのどうなの?!」

「妾も気になるのぉ?」


 完全にこれ、私とベルナの悪ノリだ。そんなことは知っているけど、やっぱり友達の恋バナって気になるよね。悪ノリを厭わないほどに。


「……グリーの好きなところは、ころころ表情が変わるところです。人格が二つあるの、可愛いと思います。どっちも好きです」


 観念したのか、レノは恥ずかしそうにそう語り出した。

 生クリームが沢山のっているショートケーキのように甘々だ。

 羨ましいな、おい。


「最初に惹かれたのは、グリーの二面性を知った時ですね……。たまたま見てしまって、普通は引くんでしょうけど、俺はなんか惹かれちゃって。そこからですね、意識し始めたのは」


 かあああ、という効果音が聞こえてきそうなくらい顔を真っ赤にしているレノ。


「へー、だってよベルナ?」

「ふーん。羨ましいのぉ。もっと聞かせろ」

「で? で?」


 こうしてレノの話を聞きながら、私たちはゼーレ族の里があった場所に着いた。


 ふう、満足満足。ごちそうさまでした。

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