88 不思議なメンツ

 いつもの部屋にいたのは、王妃様で間違いないようだ。

 早く話したかったからいいんだけど、こういう登場されると、戸惑うよね。本当、やめてほしい。

 マスグレイブ兄弟のフットワークの軽さは、王妃様譲りなのかなぁ……?


 入るしかないよね。入る以外に選択肢はないよね。

 そうして私はノックをすることもなく、勢いよく扉を開ける。


「こんにちは。あれ、王妃様じゃないいですかっ!」

「……さっきのことはあくまで無かったことにするのね?」

「なんのことですか?」

「わかってるわよね? 嘘を吐いても無駄よ?」

「……失礼ですが、言わぬが花って言葉ご存知ですか?」

「ふふふふっ! 面白いわね、エイリー。貴女のこと、ますます好きになったわ!」

「ありがとうございます?」


 いつものテンションで会話を始めちゃって、それに気づいた時にはヤベェなぁ、とか思ったけど止められなくて、でも何だかんだで気に入られたので、結果オーライ?なのかなぁ。

 王族たちはイマイチよくわからん。誰か教えてください。


「エイリーさん、はらはらさせないでくださいよ」


 王妃様の隣に座ってるロワイエさんがそんな小言を漏らす。心なしか、顔色が悪い。風邪でもひいてるのかな?


「ごめんなさい。王妃様いるって知らなくて」

「あら、ファースから連絡行かなかった?」

「ドア閉めた時に来ました」

「あらあら、タイミングが悪かったのねぇ」


 面白そうに、王妃様が言う。

 絶対確信犯だろ。絶対、冒険者省に来てからファースに連絡しただろ。


「そうですね。まあ、私としても好都合です。まとめて報告できますから」


 手間が省けた、万歳!と思うことにしよう。


「確かにそうね。でも、貴女と2人で話もさせて頂戴ね?」

「勿論です」


 正直、王妃様と2人きりで話すのは、面接みたいで嫌なんだが、今回の場合は仕方がない。

 ゼーレ族について、シェミーについて、話さないといけないんだから。

 嫌だ苦手だなんて言ってられない。


「じゃあ、簡潔にことの流れを説明しますね」


 こうして、私の報告が始まったのだった。



 * * *



 ――――今更だけど、このメンツなんか不思議だよなぁ。

 王妃様と冒険者省の省長さんと英雄もどきの冒険者。私だけ明らかに場違いだよね。

 でも、私は知っている。こういうのは気にした方が負けなのだ(ドヤァ)。


 ……暇だなぁ。

 私がどうしてこんなにくだらないことを考えているかというと、私の話を聞き終えたとたん、王妃様もロワイエさんも黙ってしまったからだ。

 きっと、自分たちの考えをまとめているのだろう。それは、わかる。わかるけどさぁ?

 置いてかれてる私のことをもっと気にしてよね。


「……エイリー」


 そんなことを思っていると、王妃様が口を開いた。

 やっと、やっとだ!

 私は少し前のめりになる。


「貴女、ちょろすぎでしょう」

「散々考えて、第一声がそれですか?!」


 知ってる、知ってるよ! ちょろいのくらい、自覚してるよ!

 だけど、グサリと心に刺さったよ! エイリーちゃん、傷ついちゃったよ?!


「確かにそうですね」


 さらにロワイエさんからの援護射撃。

 お願いだから、言わないで? わかってるから言わないで?


「それで、御二方はそんなに何を考えてたんですか?」

「話の逸らし方があからさますぎるわよ。だから騙されるのよ」

「そんなに私をいじめたいんですか?!」


 そんな私を見て、くすくすと王妃様は笑い出す。そんなに面白いか、これ。

 私的には、傷をえぐってるだけなんだけど。

 いいから話を逸らしたい。


「それで、だったわね。シェミーの救出作戦は貴女に任せるわ、エイリー」

「いいんですか?」

「ええ。むしろ、やってくれると助かるわ」

「じゃあ、遠慮なくやりますね」


 よし、王妃様からの了承ゲット!

 これで好き放題やっても何も言えないだろう。


「私たちは、別にやることがあるしね。わかってるわよね、ロワイエ?」

「はい。とりあえず、冒険者に注意喚起をすればいいんですよね? エイリーさんへの支援は惜しみません。

 他にやるべきことはありますか?」


 ロワイエさん、明らかに他にやることを知ってる顔だ。


「陛下にこのことを知らせて頂戴。あと、ディカイオシュネーに秘密裏に手紙の作成を頼むわ。内容はわかってるわよね?」

「勿論です。上級悪魔のことですよね。あとは、脅し文句でも付け加えておけばいいですか?」

「仕事ができる男は頼もしいわ。正式な文書はこちらでやるわ。一度チェックをするから今すぐ仕上げて」

「承知しました」


 ……うわぁ。なんか、聞いちゃいけないこと聞いている気がするなぁ。

 聞いてないふりをしよう。

 ワタシハナニモキイテナイ。


「じゃあ、私はエイリーと話すから」

「では、失礼します」


 こうして、会話が再開されたと思ったら、あっという間に私と王妃様との面談の準備が整ってしまったのだった。


 ……私、ここまで報告しただけで、何もしなかったよね? 役立たずだったよね?

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