89 王妃様との対策会議

「まずは、謝罪が先ね。申し訳無かったわ」


 ロワイエさんが去って、王妃様の第一声が謝罪だった。しかも、頭を下げている。


「あの、やめてくれませんか?」


 偉い人に謝罪されると、かなり戸惑うんだよね。

 それに、王妃様は私に謝るようなことをしたか? 私には全く心当たりがない。


「シェミーを守りきれなかったのは私の落ち度よ」

「別に、王妃様のせいじゃないですよ」


 それはシェミーを影から守っていた人の失敗だし、相手もきっとそれなりに強かったはずだ。


「部下の失敗は上司が責任を取るものよ、エイリー」

「そう言われると、そんな気がしますね。部下の手柄も上司のものですし」

「そうよ。だから、謝罪を受け入れて貰えないかしら?」


 ……この人、さりげなく認めたぞ? 部下の手柄は上司の手柄だとさりげなく認めやがったぞ?!


「いいですよ。王妃様を許せない理由なんてないですし」

「ありがとう、エイリー。それで、エイリー、これは余談なんだけど、“王妃様”って呼び辛くない?」

「はい、とっても呼びにくいです」


 でも、これ以外に呼ぶ方法を見つけられないのだから、仕方ないじゃん。


「そうよね。別にマノンって呼んでもいいのよ?」

「マノン、ですか?」

「ええ。公の場ではちゃんとしてほしいけど、私的な場では好きにしていいわよ」


 なんとも寛大な王妃様だなぁ。まあ、マノン様は元平民だし、当たり前といえば当たり前なのか。


 ……でも、どうしてだろう。王妃様に対してタメ口で話したり、王妃様を呼び捨てにしたりできない。マスグレイブ兄弟はなんのためらいもなくできるのに。

 やっぱり、身体中から溢れ出る、怖い先生みたいな特有のオーラが私をそうさせるのだろうか?


「じゃあ、マノン様と呼ばせてもらいます」


 だからと言って、お堅い敬語を使い続けるのも、私の性に合わない。

 妥協点として、名前+様、少し崩した敬語で話すことにした。


「エイリーがそれでいいなら、いいわ。さて、本題に入りましょうか」


 マノン様は満足気にそう言うと、雑談の雰囲気から、真面目な雰囲気に一転した。


「……シェミーは本当に誘拐されたんですか?」


 実言うと、シェミーの誘拐された場面を目撃していない私は、まだ信じていないのだ。シェミーは今もアデルフェーで、笑顔を見せているって。


「ええ、間違いないわ。シェミーの周りには私の特務部隊の何人かをおいて、見張らせて常時見張らせてたんだけど、シェミーが急にいなくなったのよ」

「え?」

「慌てて追いかけたらしいのだけど、それらしい人影が少し見えただけ。顔を見るどころか、男か女かも分からなかったらしいの」

「……まじっすか?」

「ええ。まじよ、まじ」


 マノン様の直属の部隊ということは、かなり優れた人たちの集まりなんだろう。それを軽々しくあしらうって、どんだけやばいの、サルワの部下。

 軽くひくわー。


「まあ、シェミーは幸い生きているから気にしなくていいですよ」


 マップは、生きている魔物や人間の場所しかわからない。言い換えると、その人が生きているかどうか分かるのだ。

 帰ってきて早々に、シェミーの生存確認は済ませてある。


「それに私、守るよりも攻める方が得意なんですよねぇ」

「エイリーらしいわね」


 くすくす、とマノン様は笑う。


「それで、マノン様。シェミー救出にあたって、部隊は貸して貰わなくてもいいんですけど、ファースとグリーとレノ、連れてっていいですか?」

「ええいいわよ」


 即答! 即答ですか、いいんですかっ!?


「……どうしてそんなに驚いてるの?」

「え、だってもっと交渉が必要なんだと思ってたから……」

「私がそんなケチな女に見える?」

「ケチとかそういう問題じゃないんですけど……」

「冗談よ。ファースたちが行きたいって言っているんでしょう? なら、私が止める理由はないわ。それに、踊る戦乙女ヴァルキリーのエイリーがいるんだもの。命の危険になんて、晒されるわけないじゃない」


 ね?とこちらを見てくるマノン様。

 そうやってプレッシャーかけるのよくないと思うよ。やめてよね。


「頑張ります?」

「余裕よね?」

「まあ、はい?」

「じゃあ、もうひとりくらい増えても大丈夫よね!」

「……え?」


 何を狙ってるんだ、この人。

 もうひとりって、まさかマノン様自身が来るかなのか? 流石にそれは責任が重すぎるぞ?


「私が行くわ」

「え?」

「と、言いたいところだけど、立場上無理なので、代わりにベルナを連れてってあげて?」

「……それならいいですけど。どうしてですか?」


 ベルナが来るのかぁ。なんか、微妙な雰囲気になりそうだよね。目の前にその光景が浮かぶ。


「ほらこれ、ディカイオシュネーとの外交問題じゃない? 外交ができるベルナが行った方が、色々便利でしょ?」

「まあ、そうですね? ……一応、聞きますけど、裏とかないですよね?」

「そんなのあるわけないじゃない! ディカイオシュネーにその場で色々と条件つけるだけよ」


 にっこり、とマノン様は笑う。

 うわぁ、怖ぇ。十分怖いよ。


「じゃあ、よろしくね! 決行日とか諸々は任せるわ!」

「ははは……? 頑張ります……?」


 任されたって言うより、押し付けられたって言うんだよね、これ。

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