82 廃屋ってやっぱ何か起こるよね

「やっと着いたねぇ」


 ただただ気味の悪い廃屋が、私たちの目の前に建っている。

 長かった。ここまで本当に長かった。特別なことが何も起らなかったから、余計に暇だった。


「エイリー様、飽きるの早いですよね……」


 ヴィクターは呆れ半分諦め半分で、そんなことを言ってくる。


「私、そんな飽きっぽくないよ?」

「どの口が言うんですか。俺の話を聞いた5分位あとに、『飽きたー』って言ってたじゃないですか」

「そうだっけ?」

「そうですよっ!」


 むむ、なんかヴィクターの私に対する態度が少しばかり変わった気がする。気のせいかなぁ? 気のせいだと思いたいなぁ。


「まあまあ、そんなことはいいじゃん。着いたんだし」

「はい、着きましたね……」


 ごくり、とヴィクターが唾を飲んだ。

 緊張してるねぇ。こういう場面、普通は緊張するんだろうけど、私はそんなの全く感じない。

 これよりも、ピンチな場面や恐ろしい場面を経験しすぎたからね。

 幽霊に会ったり、蜘蛛の魔物にあったり。あれ以上に恐ろしいことは、ないと思ってる。幽霊とか虫とか、私ダメなんだよね。


「じゃ、行こうか」

「あっさりしすぎですよ?!」

「こんなところで、時間使ってもなんだし。早く仲間を連れて帰りましょ~」

「流石、エイリー様です。そう言うところも尊敬しています」


 嫌味にしか、聞こえないんだけど?

 本当に、ヴィクター変わったね? 私に恨みでもあるの? え??


 まあ、帰ったら、丁度お昼時だ。

 何食べようかなぁ〜、なんて思いながら、私は呑気に歩き出した。



 ――――本当に、呑気すぎた。



 私が一歩踏み出すと、ひゅっ、と何かが投げられる音がした。

 反応に遅れて、


「ヴィクターっ!」


 と、叫んで回避することしかできなかった。私たちがいたところに刺さったのは数本のナイフで、 明らかに殺意がある。


 完全に、油断していた。

 敵のアジトの中なのに、なんでこんなに油断していたんだ。今まで何もなかったのがいけないんだよ。

 いきなり緊張感出すのやめてよね。危ないじゃん。


「大丈夫、ヴィクター?」

「はい」


 私はクラウソラスを、ヴィクターは槍を構えて、戦闘態勢に入る。

 霧で視界が悪いので、どこから攻撃が来るかは分からない。気を引きしめろ。


 だが、しばらく様子を見ても、何も起こらず、ただ静かなだけ。何なんだ?

 でも、好都合だ。

 そう思い、私はマップをひらく。


「あらあらまあまあまあ!」

「どうしたんですか?」

「これを見てごらん」


 そう言って、ヴィクターにマップを見せる。


「凄い数ですね……。俺たち2人で大丈夫なんでしょうか?」

「まー、何とかなる数だとは思うよ」

「流石ですね!」


 この廃屋には、私たちの20倍の40人もの人がいた。20倍って言うと、多い気がするけど、たかだか40人だ。


「でも、どうして仕掛けてこないんだろうね? 囲まれたら、私たち苦戦するのに」

「勝つ前提で話が進んでますね?」

「え、負けはしないでしょ〜」


 面白い冗談だなぁ。見たところ、レベルの高い人はそこまでいない。大抵の人は、一発魔法を打ち込めば、何とかなるだろう。


「本当に流石です、エイリー様」

「……褒めてる?」

「褒めてますっ!」


 褒めてるなら、別にいいんだけど。ファースたちが同じことを言ったら、嫌味にしか聞こえないから、少し疑い深くなってしまったようだ。


「こないねぇ、攻撃」

「どうして若干退屈気味に言うんですか?」

「だってぇ~」


 折角、臨場感が高まって、面白くなってきたと思ったのに。期待はずれだ。


「彼らは、きっと不意を打つスタイルなんですよ。気づかれてしまったので、仕切り直しなんじゃないんですか?」

「成程、一理あるね」


 それなら、むしろ好都合だ。


「じゃ、皆さまには眠っててもらいますか」

「へ?」


 戦闘系じゃないなら、さっさと終わらせて帰ろう。戦闘系なら、少しは楽しめたんだろうけど、暗殺系とやり合うのは退屈だし、めんどくさい。


「夜が来たよ、夜が来たよ。お休みの時間だよ。皆で眠りましょ。仲良く眠りましょ。楽しい夢を見ましょ。朝が来るまで眠りましょ。おやすみおやすみ。また明日」


 私は踊りながら、呪文を歌った。

 広範囲にかける、睡眠魔法。これの厄介なところは、敵味方関係なく、眠ってしまうところだ。

 ヴィクターも槍を手から離し、地面に倒れこんで寝てしまっている。


 さて。意識を覚醒させる魔法をヴィクターにかけるか。

 そう思い、呪文を歌い始めようとした時。


「あら、皆眠っちゃったのね。お疲れだったのかしら?」


 ふふふ、と不気味に笑う1つの影が1つ現れた。

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