65 久しぶりのファースさん

 私とファースは、行くあてもなく、城を歩いていた。パーティまではまだ時間があるらしく、ファースが城を案内してくれることになったのだ。


「元気にしてた?」


 まあ、会ってない期間は短いけど、とりあえず聞いておく。


「まあ。エイリーは相変わらずだな」

「相変わらずって何よ、相変わらずって」

「元気が有り余ってるなぁ、と」

「……私にどういうイメージを持っているの」


 ファースの私のイメージを一度ちゃんと聞いておくべきなのかもしれない。


「まあ、色々だな。そういえば、グリーもエイリーに会いたがってたよ」

「へー。グリーはどうしたの?」


 上手く話を逸らされた気がするが、まあいいだろう。流石、王族と納得するに限る。


「まだ学園だよ。教師に頼まれごとをされたらしくてな」

「グリーは優秀そうだもんね」


 言うまでもなく、ファースもかなり優秀そうに見える。


「まあ、優秀なのには変わりはないんだが……」

「どう言うこと?」


 ファースの言い方に違和感を感じる。――――まさか、ああ見えて、かなり問題児とか?! それはそれで面白そうだ。


「いや、な。今日は剣の訓練のために呼び出されてるんだよ」

「え?! 大丈夫なの?!」


 グリーの通っている学園は大方、名家出の子息が揃う名門だろう。剣を握って性格ががさつになったグリーには、似合わないところだ。


「それは、上手くやってるらしいんだがな。まあ、な?」


 ファースがはっきり言わなくても、言いたいことはわかってしまった。端的に言えば、やりすぎないかどうか心配なんだろう。

 ともあれ、上手く誤魔化しているところは流石である。


「あはは。パーティーにグリーも来るの?」

「勿論だ。王家主催だからな。兄弟皆揃うぞ」

「まじで?」


 ベルナもコランもアナクレト王子もいるってわけ? えー。めんどくさ。行きたくないなぁ。


「……顔に出てるぞ、エイリー」

「そんなに?」

「そんなにだ」


 嫌なもんは、嫌なんだからしょうがないよね。跡継ぎ争いには巻き込まれなくないし。いや、もう巻き込まれている気がするけど。気のせいだ、気のせい。


「あ、そういえばさ」

「話を逸らすの、露骨すぎないか?」

「いいのいいの、気にしない気にしない。マスグレイブの秘宝集め、ファースとグリーと協力してやっていいって、国王様から言われたから」

「本当か?!」


 私の話にファースは嬉しそうな表情を浮かべる。


「ほんと、ほんと。だから、打ち合わせしたいんだけど、いつ時間ある?」

「明日なら、俺もグリーも空いているはずだ。レノは仕事として俺らについて来れるから、なんの問題もないだろう」


 王族の護衛も務めるなんて、騎士団長様はかなり忙しそうな仕事だ。今日も私とアナクレト王子の護衛を終えた後、別の仕事に向かってたしな。


「じゃあ、明日ね。場所は、何処にしよっか?」

「エイリーの家に行きたいな」

「却下で」

「何でだよ」

「ファースの方こそ、どうしてそんなに私の家に来たいの?」


 ただの一国民の家だぞ?こんな城より、めっちゃ狭いんだぞ? ……それに、ちょっと散らかってるし。


「興味があるからに決まってるだろ?」

「趣味悪いね」

「……そんなの、わかってるさ」


 ぼそり、とファースは声のトーンを落として言う。

 おいおい、そこまで落ち込むことかぁ?


「まあ、うちには絶対に来ないでね! 城で、空いてる部屋とかないの?」

「姉上や兄上には、俺らが宝を探してることは秘密だからな。城で話をするのは危険すぎる」

「それもそうかぁ。じゃあ、冒険者省でどう? 個室多分借りられるし」


 私とロワイエさんが話をする、あの部屋なら使えるだろう。あの部屋、もう私たち専用みたいになってるし。


「……それでいいけど。やっぱ、エイリーの家に行きたいなぁ」

「潔く諦めて。時には諦めることも大事だよ」


 ドヤァ、とした顔で私は言う。私、めっちゃいいこと言った!


「今回は諦めるけど、絶対に行くからな」

「いや、そんなどうでもいいことで燃えないで。そんなことを目標にしないで」


 悲しすぎる。王族の目標がこんなんなんて、悲しすぎる。


「そんなのは、俺の勝手だろ?」

「……まあ、そうだけどさ」


 人に自分の考えを押し付けない主義の私は、これ以上は何も言うことができない。できないけど、やっぱりこんなのが目標なのは悲しいだろ。早く諦めてくれることを、祈ろう。


「じゃ、グリーとレノにちゃんと伝えといてね。こっちで部屋の許可はとっておくからさ」

「わかった」


 こくり、とファースが頷いたのを見て、私は魔法で連絡精霊アンゲロスを呼び出し、伝言を頼む。

 こういうのは、忘れないうちにやっておくのが大事なのだ。鶏ほどではないが、私は忘れっぽい。


「……エイリーっていつ見ても規格外だよな」


 私の魔法を見て、ファースは呆れ顔でそんなことを言う。


「それは酷くない?」

「いや、酷くない。そんな、強い連絡精霊アンゲロス見たことないぞ。普通に召喚する、精霊と大差ないじゃないかっ!」

「そうなの?」

「自覚なしかよ。しかも、無詠唱だし」

「生活魔法くらい、無詠唱いけるでしょ」


 毎日、同じ魔法を使っているのだ。いちいち詠唱なんて、やってられるか。


「そう言うところが規格外なんだよ」

「これくらい、普通でしょ?」

「普通じゃないんだよなぁ……。エイリー、自分が強いっていう自覚はあるか?」

「あるよ?」


 なんせ、レベル300越えだし。


「だったら、自分の“当たり前”も“当たり前”じゃないことを自覚しろよ……」

「わかってる、つもりだけど」


 ファースの威圧感が凄くて、断言することはやめた。私、それなりにわかってるつもりなんだけどなぁ?


「今に始まったことじゃないからいいんだけどさ」

「だよね」


 即答した私を、ファースが心底呆れた顔で見る。何その顔。今の会話の中で、そんなに呆れる部分ありました?!

 何がなんだか、私にはさっぱり。


 私が、反論しようと口を開きかけると、どんっ、と何かにぶつかった。衝撃からして、人のようだ。視界には入らなかったので、多分私より背が低いのだろう。


 そう推測し、私は視線を落とす。

 そこには、小学生くらいの小さな男の子が尻餅をついていた。

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