64 王妃様との二者面談
私は一通り王妃様に、シェミーのことを話し終えた。私が隠していることはもう何もない。
「……そう。すでに復活派は動き出しているのね」
困った顔をして、王妃様はため息をついた。
「知らなかったのですか?」
「ええ。里が滅びてから連絡をとっているゼーレ族の知り合いは、皆反対派だから、向こう側の動きはよくわからないのよ」
「シェミーのお母さんとも連絡をとっていたんですか?」
「いいえ。彼女は命を狙われていたからね。誰にも居場所は教えなかったわ。親友だった、私にもね」
王妃様は少しだけ、悲しそうな顔をした。
親友だと思っていたのに、勝手にいなくなったかと思えば、勝手に死んでいたのだ。やるせない気持ちになるに決まっている。
「じゃあ、シェミーというゼーレ族を見つけたのも、つい最近のことですか?」
「恥ずかしながら、その通り。まあ、積極的にゼーレ族を探していたわけじゃないんだけど……、やっぱりアニスのことは見つけたくて。まさか、死んでいるうえに、子供が王都にいたなんて思わなかったわ」
「ですよねぇ……」
どんな確率で、そんなことが起こるんだって話である。運命というものは、本当に奇妙だ。
「まあ、話してくれてありがとう。色々知ることができたわ。
……それで? 貴女の聞きたいことは何かしら? すべて話す、とは言ったけど、貴女はほとんど知っていそうね。というか、私が知らない話も知ってそう。だから、質問形式の方がいいと思うのだけれど」
買いかぶりすぎだよ、王妃様……。今回のことはたまたま、本当にたまたまなのだ。
私が知らない事なんて、結構あるはずだ。……世間に出されていない話に限るけど。
「じゃあ、お言葉に甘えて。どうして、ゼーレ族は解散することになったんですか?」
無論、簡単な経緯は知っている。だが、私が聞きたいのはもっと深い話だ。
そのことを王妃様もわかっているだろう。
「あら、面白いことを聞きたいのね」
なんて、楽しそうに言ってきた。
「これが何より重要な話だと思いません?」
「それもそうね」
クスクスと王妃様は笑い、こう言った。
「簡単に言うと、アニスが恋をしたからよ」
「は?」
「だから、彼女に想い人ができて、その人と結ばれたいがためにゼーレ族を解散したのよ。情熱的な話よねぇ」
「あの……、え? ええ?!」
勝手に話を進めないでくれませんか。私、ついていけないんですけど。
私が聞いた話だと、ゼーレ族の人数が少なくなってきて子作りが難しくなり、次の世代へつなぐためにゼーレ族を解散した、というわけなんだけど。
「ふふ、そんなに驚くこと?」
「驚くことですよ……」
絶対、わかっててやっているだろ、この王妃。
「結局のところ、次世代のために、というのは建前よ。まあ、そういう理由もあったんだろうけどね。でも、ゼーレ族は他の血が混じるだけで、その力を落とすのよ。うちの子たちを見ればわかるでしょう? 解散したところで、次世代にはつながらないわ」
確かに、ファースやグリー、コランはまるでゼーレ族の力を持たない。ベルナは兄弟の中では強い方ならしいけど、それでも完全ではない。
「アニスはね、狭い世界を嫌っていたのよ。里の中で、なんでもかんでも解決してしまうような、そんな生活をね。だから、里をたまたま訪れた彼に恋に落ちた。だから、自分が族長を継いだのと同時に、里の解散宣言をした。彼女は、自由になりたかったのよ」
まあ、少数民族とか、歴史のある里とかは、独自のルールがあってめんどくさそうだからなぁ。気持ちが分からんわけではない。貴族だって、めんどくさいし。
自由に憧れるのは、求めるのは、当然のことだろう。
「そう思ってる人達は、少なからずいたわ。だから、こうしてゼーレ族は無事、解散されたんだもの。ただ、反対派もそれなりにいた。特に年寄りの連中がね」
当たり前だ。伝統や規律にうるさいのは、年寄りに決まっている。前世のばあちゃんも現世のばあちゃんも、うるさかったしなぁ……。
「だから、彼女は里が滅亡したあとも、自由は制限されたわ。アニスは、本当にこれで幸せだったのかしら?」
王妃様は、豪華な装飾がされている天井を見ながら、寂し気に言った。
「……私たちにはわかりませんよ、他人の幸せなことなんて。ただ、シェミーのお母さんのおかげで、王妃様は幸せを手に入れたとしたら、それでいいんじゃないですか」
多少傲慢な考え方な気もするが、人生なんてそんなもんだろう。
自分が幸せだけを考えていればいいのだ。他人に、自分の幸せの概念を押し付けてはいけない。
「それもそうね。私は今、とても幸せよ。だから、それをアニスに感謝すればいいだけね。難しいことなんて考えるべきじゃないわね」
ふふふ、と笑って王妃様は目を閉じる。
「ありがとう、アニス。また、どこかで」
お礼を言った、王妃様のその目には、水滴が一つ浮かんでいた。
* * *
そのあと、私は王妃様に質問をしたり、王妃様と今後の対策を決めたりした。話は円滑に進んだが、内容量が多すぎて、かなりの時間が経過していた。
「さて、こんなものかしら」
「そうですね、話しつくしたと思います」
「時間をかけてごめんなさいね。でも、パーティーには間に合うから安心して頂戴」
「ぱぁてぃー?」
王妃様が恐ろしい単語を口から出すものだから、私は首をかしげる。
「あら、聞いてなかった? この後、貴女に会いたい名家の人たちを集めたパーティーがあるのよ。存分にコネを作れるわよ」
「え、あの、遠慮しておきます」
何を好き好んで、貴族を捨てた今もパーティーに出ないといけないんだ。めんどくさいことは嫌いなんだ。興味もない人たちと、どうして話さないといけないんだ!
絶対行くもんか! 断固拒否である!
「そう言わないで。もう、準備も始まってるのよ?」
王家の顔に泥を塗る気か?、と言わんばかりに王妃様は言ってくる。
ロワイエさん、これを知ったら私が行かないと分かってて、言わなかったな! 流石、私のことを分かっていらしゃる。
……覚えてろよ!
「あの、でもですね……」
やすやすと、私も引き下がるわけにはいかない。できるだけ、人と関わりたくないのだ! 偉い人なんか、特に嫌だ!
私が反論を続けようとしたところで、こんこんとノックの音が聞こえた。
「あら、丁度来たわね。入っていいわよ」
手を合わせ、笑顔を浮かべながら王妃様は言う。
「失礼します」
ドアを開け、そう言ったのは……、
「ファース!」
「あ、エイリー、久しぶり」
そんなに、久しぶりでもないんだけどな。まあ、体感時間ではなんか久しぶりの気がするなぁ。
「じゃあ、ファース、エイリーのパーティーへのエスコートお願いね」
「はああ?!」
「承知しました」
「はああ?!」
驚愕の展開に、私はついていけない。これではもう、パーティーに出席しないなんてこと、できないじゃん!
くそ、流石王妃様。準備がよすぎるぞ……。
「では、エイリー、パーティー会場でね」
「……わかりました」
表情一つ変えず、笑顔を張り付けた王妃様に見送られて、私とファースは部屋を出た。
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