33 人気者は辛い(?)

「おーい、こっちこっち」


 きょろきょろと辺りを見て、いかにも私を探してます風のファースたちに、私は割と大きめの声をかけた。おまけに、手をぶんぶん勢い良く降ってみた。


 私にも待ち合わせをする友達がいますアピールだ。

 さっき、ヴィクターに言われたことが、地味に心にきたんだよね……。

 私、あんな風に思われていたのかって。


 私の声に冒険者省の中にいた冒険者たち皆が反応して、私の方に注目した。

 注目を集めたはいいが、じろじろ見過ぎだし。というか、皆反応することなくない? こんなに反応が返ってくるなんて、流石に予想外なんだけど?

 アピール、ちょっと失敗したかなぁ。やんなきゃよかった。


 ……てか、本当に恥ずかしいんだけど。そんなに見ないで。


 なんて思いも通じるはずもなく、他の冒険者たちはひそひそと私の噂を始めていた。


『あれ、踊る戦乙女ヴァルキリー様だぞ』

『本当だ、神々しいなぁ』

『今、人を呼ばなかったか?!』

『あの踊る戦乙女ヴァルキリー様が待ち合わせだと?!』

ぼっちソロを貫いている、あの踊る戦乙女ヴァルキリー様と待ち合わせする人なんて……、どんだけ強いんだ?!』


 おーい、聞こえてますよぉ〜。声をひそめているつもりなんだろうけど、めちゃくちゃ聞こえてますよぅ。

 そういう話は私に聞こえないように、やってほしいなぁ。というか、聞こえないようにやれよ。


 まあ? 私は優しいし? 聞こえないふりくらいはできるし?


 そんな私は、なんともない顔をして、ファースたちと合流した。


「さっきぶり」

「……うん」


 ファースたちにも噂話は丸聞こえなんだろう。かなり戸惑った様子をファースたちは見せる。

 気まずい気持ちはよ~くわかる。というか、巻き込んじゃって、ごめんなさい……。

 口には出さないが、ひっそりと謝っておく。


「さ、行こ行こ。行きたい場所とかあるの?」


 私は何も気にせずに、冒険者省からさっさと出ることにする。

 こういうのは、押したもん勝ちなんだよ!! 逃げたもん勝ちなんだよ!!


「あ、えと、あの。あ、ちょ、ちょっと待って頂戴っ!」


 ぐいぐいとひとりで進む私を引き止めようと、グリーは可愛らしい声を出した。


 ……ん? んん?

 私は違和感というか、あることに気づき、グリーの元へ行く。


「あれ、グリー、元に戻ったの?」


 これ以上近づいたらキスしちゃいます、という距離まで、私は顔をグリーの顔に近づける。勢いにのって近づきすぎた。


「近いわよ」

「あ、本当に戻ってる。でもなんか違和感」

「取り敢えず、離れて頂戴!」


 私がグリーの話もろくに聞かず、顔を近づけたまま話すので、グリーは私を問答無用で押し飛ばした。


「うお、予想外に力が強い」

「当たり前でしょう? も、わたくしなんだから」


 どうやら、会話は覚えているらしい。


「……そうだったね」

「……わたくしの扱い、雑になってるわよね? あっちのわたくしの方に慣れてしまったからかしら?」


 複雑そうな顔つきで、グリーはため息を漏らす。

 グリーにとっては、上品な方が付き合っている時間は長いもんね。不満も言いたくなるだろう。


「そうかもしれない」


 丁寧な口調で話すグリーが気持ち悪い、と思っていることを口に出してはいけないことぐらい、私にもわかる。

 本当に、慣れって怖いなぁ……。


「はあ。まあ、良いわよ。こっちのわたくしにも早く慣れて頂戴」

「頑張ってみる」


 簡潔に意気込み?を述べる。

 なんだかんだで、慣れることはできそうなので大丈夫だと思う。


「よろしく頼むわ。それで、何だったかしら?」

「行きたい場所を聞いたんだよ」


 だいぶ話が脱線してしまったため、軌道修正に入る。


「ああ、そうだったわね。そうねぇ、おすすめの雑貨屋さん、とかある?」

「雑貨屋さん……?行ったことないなぁ……」

「だと思ったわ」


 女子力低くてすみませんねっ!

 前世の私は、まあまあ雑貨屋さんには行った覚えはあるけど、それも女友達に半ば強制的に連れていかれただけだった。

 私自ら、進んで雑貨屋さんに言った記憶はない。やばい。


 王都に住むようになってからは、家でだらだらしてるか、依頼を受けているかどっちかだしなぁ。たまに買い物に行くけど、必要な物を買うだけだし。


 本当、味気ない生活をしてるな、私。生活改善した方がいいのかなぁ。

 別に今の状態に不満はないので、変える気にもならないけど。


「俺は、エイリーお気に入りの武具屋に行きたいな」


 レノが、そんな希望を出してくる。それなら答えられる!

 ……おい、女子力どこ行った!!


「それなら、あるよ。けど、まずお腹を満たそう。お腹すいた」

「それもそうだな」


 私の意見に、ファースも賛同してくれる。


「私の通っている食堂があるから、そこに行こう!」


 よし、目的地決まり!

 今日はもう時間が遅いから、食堂行って、武具屋行って、街をぶらぶらして終わりだろう。

 また、外野が何かを言う前に、私はそそくさと冒険者省を出ようとする。


「エイリー、歩くの早い」

「そっちが遅いんだよ」


 いや、明らかに私が早いんけどね? 自覚はしている。でも、外野がうるさいから、我慢してほしいね!

 ていうか、外野を気にせず会話ができるファースたちすごいね! 流石って言いたくなる!


「待って頂戴!」


 今度は、グリーの声にも止まらずに、私は1人で外に出てしまうのであった。

 逃げるが勝ち!(ちょっと違う!)




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