34 ぼっちじゃない英雄さん

 私はファースたちを引き連れて、食堂・アデルフェーに来ていた。


 街を歩いていても、ひそひそと驚きの声が飛び交っていた。私に対する失礼な発言ばっかり。

 本当、お前ら私のこと好きだなんだなぁ、おい?!


「あ、エイリー、いらっしゃい」


 天使のような笑顔で話しかけてくる、シェミー。疲れた私の癒しだ。可愛い。可愛すぎる。


「やっほー。今、席空いてる?」


 私のおかげ(せい?)で繁盛している、アデルフェー。

 食事のピークじゃないのにも関わらず、そこそこ人が入っている。まあ、料理美味しいもんね。


「エイリーの分はいつも空いてるけど、お友達の分はとってないからなぁ。エイリーがまさかお友達を3人も連れてくるなんて、思ってもなかったよ」

「私も思ってなかったよ。今の状態、めっちゃ不思議」

「そういうこと、自分で言わないの」


 こん、とシェミーにお盆で軽く叩かれる。驚くほど痛くない。

 まあ、確かに自分でそういうこと言っちゃうと、友達作る気ない人みたいだよね。……まあ、半分はそうなんだけれども。


「空いてる席探してくるから、少し待ってて」

「ありがとう」


 私のお礼にシェミーはニコリと微笑むと、店の奥に席を探しに行った。


「あの子は、エイリーの友達か?」

「そうだけど。

 ……ねえ、レノ。あんたが思ってること当ててあげようか?」


 レノがあからさまに驚いた顔をするので、私はついついそんなことを言ってしまう。


「なんで、あんなに可愛い人がエイリーの友達なんだ?、って思ったでしょ? そうでしょ? 当たりでしょ?」

「そりゃあ、誰でもそう思うだろ。なあ、グリー」

「ここで、わたしくしにふるの? でもまあ、そうね……。エイリーの友達ってもっと、こう強そうな方なのかと思っていたわ」

「そもそも、エイリーに友達がいることにびっくりだ」

「そろいもそろって、失礼だね?!」


 友達と言える人が、数えられるくらいしかいないのは事実だけどね! あははは!

 グリーもレノも私に容赦ない。なんで?! 一応、命の恩人なんだけど?!


「お兄様はどう思います?」


 くすくすと笑いながら、グリーはファースに尋ねた。


「……ああ、意外だよな。エイリーにあんな友達がいるなんて」


 ファースも同じようなことを言う。皆して、私にどんなイメージを抱いているんだ!


「なんで意外なのさ?」


 ずい、とファースに近づいて、問い詰めることにした。

 少し、ファースの顔が赤い気もするが、気のせいだろう。


「いや、踊る戦乙女ヴァルキリーは、孤高の英雄って聞いたことがあったんだ」

「それは、冒険仲間がいないって話で、友達は普通にいるし」


 少しだけだけど、と心の中で付け加えておく。まあ、言う必要のない話だ。

 私はステータス以外は別に他の人たちと大差はないのに、どうしてか、皆萎縮しちゃうというか、かしこまるっていうか。とにかく、対等じゃない。


 私はそんなの求めてないって、大きい声で叫びたいくらい。

 ……流石にやらないけど。やりたくないけど!


 成程、と頷くファースを見て、グリーが、


「お兄様? 何か気になることでもあったのですか? 心ここに在らずって感じですけど」


 なんて言う。

 まあ、様子がおかしいって言うよりは、意識が違う場所に興味があるって、感じだった。


 まさか?! まさか?! シェミーに一目惚れ?!

 シェミーは渡さないよ?!


「すまん。少し、さっきの彼女の瞳が気になってたんだ。綺麗なの瞳だったな、と」

「……言われてみれば。と同じ、翡翠色の瞳でしたね」


 なにやら、ファースが気をとられていた理由を、グリーもわかったらしい。

 グリーのお母様、と言うことは、王妃様ってことか。そういえば、確か、王妃様も綺麗な翡翠色の瞳をしていたね。


 …………まさか、ね。

 うんうん、まさか、まさかね!!

 そうやってフラグをたてるのやめようか?!


「お待たせ。奥の席が丁度空いてたよ。こちらへどうぞ」


 確認を終えて、戻ってきたシェミーが笑顔で対応するので、生憎、翡翠色の瞳はよく見えない。

 ファースたちも、シェミーの瞳を見ようとして、じいと見つめていた。


 …………その事実は、気づかなくて良い事実なんだよ。だから、そっとしておいて。


 私は心の中で、少し悪態をつく。


「どうかしました?」


 流石のシェミーも不自然な視線に気づいて、そんな質問をしてくる。


「いや、なんでもないよ。シェミーが綺麗だから皆、ついつい見ちゃってるんだよ。ささ、行こ行こ」


 私は、誤魔化した。

 もしファースたちが思っていることが、瞳自体に触れられることが、シェミーは嫌だろうし。

 彼女にとって、この瞳は呪いの象徴みたいなものだから。


「そう?」


 鈍感なのか、気づいているけど気づいてないふりをしているのか。とにかく、シェミーはそれほど気にせず、店に案内をしてくれた。

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