22 レベルのお話

「ほら、さっさと登録しちゃってよ」


 自分たちから、パーティのことを言い出したのに、何故かパーティ登録を躊躇っているファースたち。

 目の前に表示されている『登録』を選択すればいいだけなのに。バカでもできる作業であるはずだ。


 なんだなんだなんだ?

 自分たちから誘っておいて、今更、躊躇う理由って何だ?

 こいつら本当にわけがわからん。


「……いいのか? 本当に?」


 ファースが申し訳なさそうに言ってくる。


 ファースの言う『いいのか』というのは、経験値など、色々なものが平等に分けられることだろう。

 損をするのは圧倒的に私。まあ、そんなの慣れっこですけど。


「……良くは無いけど、気にするなって、言ってるでしょ。慣れてるし。そんなに気になるなら、経験値に見合う働きをすればいいだけでしょ」


 こんなに、このことを気にする人たちを、私は初めて見た。


 経験値を気にしない人(主にゼノビィア)、私が稼ぐ経験値目当てでパーティを申請する人(こういう人とは基本パーティを組まない)、なんか知らないうちに経験値が沢山貰えてわー、ラッキー(こういうタイプが1番タチが悪い)と思う人としか出会わなかった。

 後者が多数派であり、ゼノビィアみたいなタイプも稀だった。というか、ほとんどいなかった。言ってしまえばゼノビィアだけだった。


 ファースたちはどうやら、想像以上に律儀で、平等を気にするタイプのようだ。

 好感は持てるが、利用されやすいタイプだろう。いやでも、彼らはそこのところは上手くやるのか。お偉いさんだし。

 うーん、こういう奴が意外に厄介なんだよなぁ……。


「……わかった」


 私の言い分を聞いて、ファースたちは納得したようだ。私の『さっさとしろよ』という気迫に負けたわけではないだろう。うん、きっとそうだ。

 ファースたちは、『登録』のボタンを押した。


「よし、これで完了ね」


 そして私は、改めて彼らのステータスを見る。

 パーティメンバーのステータスはレベルに関係なく見ることができる。見ようと思えば、好き勝手にステータスを見れる私には関係ないけど。

 それでも、盗み見ることと、合法的に見れるのでは気分が違う。罪悪感の問題だ。


 ふむふむ。皆、一応レベル100は超えているんだ〜。そこそこ強いんだね。

 レノに至っては、もうすぐレベル200になりそうだ。流石、団長様である。


 ファースは魔法がほとんどの種類の魔法が使えるっぽい。使えないのは、そもそも使い手の少ない、聖魔法と闇魔法だけか。

 グリーは剣術と身体能力のレベルが格段に良い。……女の子なのに。お姫様なのに。それでいいのか?!


 お前に言われたくない、と言うツッコミは置いておこう。私は好きでこのレベルに、このステータスになったわけではない。


「じゃあ、グリーとレノが前衛で、私とファースが後衛。それが1番いいでしょ。まあ、危なかったら私が魔法で倒しちゃうけど」


 私は軽く今後の方針を彼らに伝える。

 でも、彼らの反応はなんだかテキトーな感じがする。


「ねえ、聞いてる?」


 不安だったので、ずいっと彼らに近寄って、聞く。

 彼らはステータスとにらめっこをしていて、私の話なんて、全く聞いてなかった。


 そんなに、レベルあげに上げにこだわってるの? それとも単にステータスを見るのが好きなの?

 でもさぁ、人の話は聞こうよ……。割と大切な話、してたんだけど。


「え……。エイリー、このステータス、冗談よね?」


 私は、話を聞いているかどうか尋ねたのに、グリーがかなり驚いた様子で、見当違いなことを言ってくる。

 本当に話聞いてなかったんだね。全く困ったちゃうなぁ。


「冗談ってどういうこと? 細工も何もしてないけど」

「じゃあ、貴女またレベルが上がったってこと?!」

「はあ? 3ヶ月も魔物を狩り続けてたら、レベルも上がるに決まってるでしょ」


 何を当たり前のこと言ってるんだ。ぬくぬく生活で、頭ボケちゃった?

 私的には、もっとレベル、上がって欲しいんだけど。


「あのね、エイリー。レベルが上がるごとに、レベルを上げるのが難しくなるのよ? レベル300でさえ、可笑しすぎるのに、どうして更に上がるの? しかも15も!!」


 ……そう言われると、確かに可笑しいかもしれない。確かに今のレベルに大して、簡単に上がり過ぎかもしれない。

 勇者とか、英雄だとかと呼ばれた人でさえ、300の壁を超えられなかったのに、どうして私のレベルは上がり続けるのだろう? ゲーム補正、というやつだろうか?

 まあ、上がるごとに越したことはないから、いいんだけど。


「そんなに気にしなくていいじゃない。パーティメンバーに強い人がいて安心じゃん」


 もっと気楽にいこうよ。そういうどうでもいいことばかり考えてると、疲れるだけだよ?


「気になるわよ。エイリー、この調子だとレベル400超えちゃうんじゃないの? 最早生きた宝レベルね」

「……そういうこと言っちゃう?」


 生きた宝、か。

 生きた伝説ではないのか。なかなかグリーは面白いことを言うなぁ。珍獣みたいに言われて、ちょっと凹むけど。


「ま、てわけで、グリーとレノが前衛だから。ばんばん倒しちゃって。それと、魔物の溜まり場は、森の奥にある遺跡みたい。そこを目指していこう」


 マップを見ながら、私たちは彼らに確認する。

 彼らは、驚いた表情から一転、真剣な顔をして、頷いた。

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