23 人格変貌……?

 私たちは、魔物を倒しながら森の奥へ進んで行く。

 しゅぱ、しゅぱ、しゅぱ、と剣で何かが切れる音と、魔物の悲鳴だけが聞こえてくる。


 …………こいつら、強いな。


 グリーは華麗なフットワークの軽い剣技で、レノは二刀流で効率よく力強く魔物を倒す。ファースの支援魔法のタイミングもばっちりである。


 私なんか、いらなくない? こんなの初めてなんだけど。

 私は彼らが戦っているのを見ているだけだった。そうしているしかなかった。

 だって明らかに私、邪魔者だし。



 なんかちょっと気まずくて、サボってませんよ〜、アピールをするために、マップで、魔物の分布を確認した。本当に、サボってなんかないんだからねっ!!

 マップを見ると、この辺りの魔物は全部借り尽くしたようだった。


「この辺の魔物は倒し終えたみたい。しばらくは魔物出て来ないよ」

「応!」


 元気よく返事したのは、グリー。


「おう……?」


 上品なイメージが強かったグリーから、いきなり体育会系みたいな返事が聴こえてきたので、私は思わず戸惑ってしまった。

 なんだよその返事は! いきなりキャラ変するの、やめてもらえない?! 混乱するでしょ?!


「……なんか可笑しいか?」

「いや、どこもかしこも可笑しいでしょ?!」


 グリーが変なものついてる?、 と言わんばかりに、言うので、私は更に訳が分からなくなる。

 これ、本人自覚ない感じ……? じゃあ、さっきの上品なのはなんだったの……? さっきのは猫かぶってたってこと……?


 目の前にいるのは、グリーだよね? グリゼル・マスグレイブだよね? 王族の! 本物のお姫様の!


「ああ、エイリーは知らなかったか。グリーはな、剣を持つとガサツになるんだ」


 私の様子を見て、レノが解説してくれる。

 すげえ、あっさりした言い方だった。輝かしい笑顔を浮かべている。


「ガサツとか、そんなレベルじゃないと思うけど。最早、別人じゃん」

「そうか?」

「そうだよ!」


 自覚がない、ガサツなグリー。違和感しか無い。

 あんなに上品な子も、こんな風になるのか。こいつ本当は、グレてるのか。

 見た目は変わっていないのに、中身が変わると本当に別人みたいだなぁ。


「俺たちもすぐ慣れたから、エイリーもすぐ慣れるさ」


 ファースが笑いながら言った。本当に気にしてないようだった。


 ……あのぉ、グリーと私出会ってからまだそんなに経ってないんだけど。1時間経ってるか経ってないかくらいだよね?

 まだキャラも定着してないのに、ぶっ飛んでる設定出すなよ! おい!


「じゃあ、剣を収めれば元に戻るの?」

「まあ、大体は。感情が高ぶってるときはすぐに戻らない時もあるけど」


 レノが解説してくれる。

 すごい設定持ってるなぁ、グリーさん。


「へー。まあ、どうでもいいや。それより1つ聞きたいことあるんだけど」

「驚いていた割には、なんか反応薄いな」


 ファースのごもっともな感想ツッコミを、無視して、聞きたいことを続ける。

 実際はかなり戸惑ってるけど。どういう風に接していいかわからないけど。そもそもどっちが本当のグリーかわからないけど。


 そればかりを気にしてるわけにはいかない。

 だってファースたち、さっきから“慣れろ”ってしか言ってないじゃん。


「なんでそこそこ強いのに、さっきの魔物に手こずってたわけ?」


 ステータスを見た時から気になっていたことだ。

 彼らのレベルだったら、あんな魔物に追い込まれるはずはない。

 戦いを見ていても、実践不足という線は薄い。それに、実戦経験はむしろ、レノの方が多いはずだ。


「大した理由じゃないぞ。不意を突かれて焦っただけ。そしたらあっという間に追い詰められた」


 冷静な分析を述べるグリー。言葉遣いに違和感だらけだ。

 というか、めちゃくちゃ高貴な見た目をしてるのに、こんな元ヤンみたいな喋る方されたら、普通戸惑うでしょ?! 気にするでしょ?!


「ふーん。そういうのは命取りになるから気をつけた方がいいよ」


 グリーの言い分が本当かどうかなんてどうでも良い。

 気になるのは、喋り方だっ!


 ……まあ、ただ、不意を突かれて冒険者が魔物にやられる、というのはよくある話だ。

 本当なら、魔物なんて冒険者の相手にもならないくらい、本能的で弱い。そのはずなのに、死傷者は減らない。

 それは、油断しているところを魔物に突かれて襲われるから。それだけだ。


「なんかエイリーが言うと説得力あるな」


 ぼそり、とファースが言った。


「そ? まあ、別に自分のミスで自分たちが、死のうが死ぬまいが、私には関係ないけど。だけど、私の前で死なないでよね。気分悪いし」


 人が死ぬのはやっぱり悲しい。それに、この場合責められるのはどうせ私なんでしょ? 私だって、万能じゃないんだけどねぇ。


「善処するよ」

「善処しなくても私が勝手に助けるし」


 王族殺しの罪着せられるのは勘弁だ。


「優しいな、エイリー!」


 えいっ、とそこだけ可愛らしく言ったグリーは、私に抱きついてきた。


「なになになに!?」

「えへへー」


 もう本当にグリーは別人である!

 というか、剣を持ったまま抱きついてくるな! 私を殺す気か!


 抱き合っている私たちを見て、ファースとレノは微妙な表情を浮かべていた。

 嫉妬、の表れだろうか? 私にもグリーを取られた嫉妬。

 勝手に嫉妬しないでほしい……。

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