7 え、好待遇じゃないですか

 ロワイエさんは、こほんと咳払いをして、私の瞳を覗いてくる。

 こうやってまじまじと見られると、ぴしっとしなきゃ、という気分になる。あと、無駄に心臓がうるさい。


「エイリー様は、冒険者になることを希望されるいるのですよね?」


 つまりは、国軍に入ったり、騎士団に入ったり、もっと大きな仕事をしたりしなくていいのか、という意味だろう。

 まあ、普通は聞かれるよねぇ。だって、そっちの方が安全に稼げるもん。


 冒険者は命がけの職業だ。報酬が高ければ高いほど、命の危険も伴う。

 それでも冒険者の数が多いのは、稼ぎやすい職業だからだ。頑張り次第で、給料が増える。


 まあ、ステータスがバグった私には、関係ない話のような気もするけど。


「はい、冒険者が良いんです。

 ……それはそうとして、エイリー様って言うの、やめてもらえませんか?」


 気持ち悪いんで、とまでは流石に言わなかったが、ずっとやめてほしかったことを言った。

 元公爵令嬢だけど、中身は庶民だから、様とか逆に、違和感しか感じないから! そんなに敬われるほど、私凄くないから!

 それに畏まったの私、嫌いなんだよね!


「しかし……」


 と、ロワイエさんは言葉を濁す。

 300レベルの相手ってのもあるのだろうが、そもそも一応招かれたお客様なので、敬称を外すことにためらいを覚えたのだろう。


 それはわかるのだか、気分が悪くなるんだから仕方ないじゃないか。その本人がそう言っているんだ。

 呼び方を改めてもいいじゃないか! むしろ改めるべきでは?!


『エイリー』って名前は、前世の名前・海住恵衣に似てるから、“様”をつけられると変な感じがするんだよねぇ。


「気にしないでください。というか、そうしてください。お願いします。

 あ、私もロワイエさん、と呼びますし」


 なんの交換条件だ、と言う気もするが、気にしない気にしない。こういうのは、気にした方が負けだ、うん。


 体全身から醸し出していた、やめてくれ~オーラを感じ取ったのか、ロワイエさんの方が先に折れた。


「分かりました。エイリーさん、と呼びすればよろしいでしょうか?」

「はい、ロワイエさん」


 満足、とまではいかないが、そこそこ納得ができる範囲なので良しとしよう。本当は、『エイリー』と呼び捨てにしてほしかった。

 年上の人に敬語を使われることも違和感があるが、それは本気で拒否られそうなので、やめといてあげよう。職業柄ってのもあるかもしれないし。


「では、エイリーさん。冒険者で本当によろしいのですか?」


 念のため、という感じでロワイエさんが再度聞いてくる。


「はい」

「理由をお聞きしても?」


 この人は何を当たり前のことを書くのだろう。理由なんて決まってるじゃないか。


「え、めんどくさいじゃないですか。地位とかそういうのあると。

 それに自由にできないし。冒険者でも稼げるし。このレベルだったら、そうそう身の危険なんてありませんよ

 つまり、冒険者こそ、私の天職なんですよ!」


 私は当たり前と思っていることをそのまんま言葉にする(若干、熱弁気味な気もするけど)。

 けれどロワイエさんは、目を大きく見開いて口をアホみたいに開けている。何がそんなに驚くことがあるのか、さっぱりわからないが、アホ顔は面白い。笑いをこらえるの大変だ。


 まあ、ロワイエさんはお偉いさん、つまりは野望のある人間なので、私みたいな地位なんかいらないめんどくさいと思う人間に共感なんてできないのだろう。

 多分、優先順位とか根本的な考え方とかちがうのだ。


「それだけですか?」

「はい、それだけです」


 厳密には、目立つと逃げたことがバレるっていう理由もあるんけど、九割はその理由が占めているので嘘ではない。


「そうですか」


 自分自身に言い聞かせるように言ったロワイエさんは、続けてこんなことを言い出した。


「では、エイリーさん。国と個人的に契約しませんか?」

「は?」

「国からの魔物討伐などの高難易度の依頼を受けたら、エイリーさんはその依頼を遂行すると言う簡単なものです。それなりの収入になると思いますし、そこも含めて様々な条件を要相談、と言うことでいかがでしょう? めんどくさいことは少ないと思います」


 なにそれめっちゃいいじゃん! 断る理由なんてない。条件要相談なら、色々要望を通して貰えるじゃない!

 最高だ! ロワイエさんは、話がわかる人間だった! ありがたい!


「はい、是非お受けします!」


 即答したので、ロワイエさんは、またまた驚いている。


「本当に良いんですか?」

「はい、勿論! 条件はじっくりと相談させていただきますが、基本的にはそれで良いです! よろしくお願いします!!」


 そんな私の勢いに、ロワイエさんは心なしか身を後ろに引いていた。

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