6 お偉いさん、登場

「エイリー様ですよね」

「は、はあ」

「詳しい話があるので、どうぞこちらへ」

「は、はぁ」


 流れに身を任せ、私はお偉いさんに客室へ案内された。無駄に豪華な内装に、ふかふかのソファ。紅茶の入っているカップも高そう。

 というか、何でも高そうに見える。


 そして私の目の前に座ってる、偉い人。

 威張ってるわけではなく、むしろ穏やかそうな顔つきをしているんだけど、『私、偉い人です』っていうオーラが出ている。

 偉い人特有の緊張感を醸し出しているので、穏やかそうでも何か企んでいるようにしか思えない。

 それに眼鏡をかけてるし。いかにもインテリって感じだ。


「急に呼び出してすみません。エイリー様。私は、冒険者省長のロワイエ・ボーアルネと申します」


 丁寧に自己紹介をしてくれる。

 めっちゃお偉いさんじゃないか。冒険者省のトップなんて、お偉いさん中のお偉いさんじゃないか。


 はあ、と曖昧な返事をして、私はぺこりと一礼をする。

 こんな凄い人は、なんで私の前に座ってるんだ? 

 早く話終わらないかなぁ。この無駄に緊張する感じ、勘弁してほしい。疲れるんだよねぇ。


「さて、本題に入らせていただきますが、エイリー様、ステータスに魔法などの細工をされてませんよね?」

「してるわけないじゃないですか!」


 私の勢いの良い声に、ロワイエさんはびっくりしたようだ。

 ちょっと勢いが良すぎたかな。でもしょうがないよね。


 してないに決まってるから。していたら、こんなおかしいステータスを表示しているわけないし、こんなところに呼び出されているはずがない。


 ステータスに細工したかったんだけどね!!!!!

 と、心の中で叫んでおくことにする。


「あのステータスは本物で?」

「そうです。私も信じられないんですよ」


 真偽を慎重に確認をしたいのは気持ちは分かる。私だって、まだ疑っている。

 だけど、この調子だと後数回は似たような質問をされ、時間が無駄になるのは避けたい。この不毛な会話をさっさと終わらせる必要があるわけだ。


「そもそも、仮にステータスに細工をしていたとしても、それはレベルが高い証拠じゃありませんか?」


 冒険者登録に使う、ステータス諸々を測定する機械は細工ができないように、高度な魔法がかけられている。それに細工ができるということは、相当な実力者なのであるってこと。

 多分、今の私なら余裕のよっちゃんなはず。


「それも、そうですね」


 なんとか納得してくれたようだ。この会話が早く終わって、よかったよかった。

 どんなに質問をしても、実践をしても、ステータスの数字が変わるわけないからね。


 それに、こんなところでのんびりしている時間など、私にはないのだ。ルシールの私物を売って、まとまった金を手に入れ、住む場所の確保や食料調達など、やらなければならないことが山ほどあるだ。

 こんなところで油を売る予定なんてまるでなかったからなぁ。


「エイリー様はどのようにして、300レベルの壁を超えたのですか?」


 聞かれると思ってましたっ。そりゃそうですよね。気になりますよね。

 でも残念ながら、私もよくわからないんですよ。理由はなんとなくわかってるけれど。


 あと、どうでもいいけど、エイリー様って呼ばれるの気持ち悪い!


「気づいたら、いつの間にか300になってなんですよね。私、特別なことは特に何もしてないのに」


 おかしいなー。なんて感じで、そんなことを言う。嘘ではない。

 しいて言うなら、悪魔と契約しようとして、前世の記憶を思い出したことかな? 正直に話す内容じゃないし、信じてくれるかも怪しいし、実践できるものでもないから、話さないけど。


「本当ですか?」

「はい」


 得体の知れないものを見るような目をして、ロワイエさんは聞いてくる。

 そんな目で見られても、困ります。本当に多くの人に参考になる話は知らないんです信じてください。

 そう思いを込めて私は言う。


「だから、300を超えるすべなど私は知らないです」

「そうですか、残念です」


 心底残念そうな顔をしたロワイエさん。

 知らないものは知らないんだから、仕方ないじゃんね。勘弁してください。

 それともあれ? 悪魔との契約を薦めて欲しいのかな? いや、そんなこと思う人間なんていないよね。


「話が大分逸れました。戻しましょう」


 とロワイエさんが言ったので、ようやく本題に入るようだ。

 え? 今の今まで、本題にも触れてなかったの? 300レベルのどうのこうのは、個人的な興味だったの? 嘘?! 


 そんな疑問を持ちながら、私は大人しく話を聞く態勢に入った。

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