2輪 つないだ て と て



「ドリーム・コンパクト! メイク・ハッピー!」



 光が去ったあと、私の目の前に現れたのは、鮮やかな衣装に身を包んだ一人の魔法少女だった。



「魔法少女ツキ!赤射!」




 オープニング




「オープニングとか痛すぎなのでは?」


「いんやぁ、なんだかしまりが欲しくってさ。でも、今回で終わりだね」


「そうなの!?ソラちゃ――」


「だから、私はツキだって言ってるでしょ?さっさとその名前を忘れて!」


「うぐぅ。ほっぺた引っ張らなくても……それと、これはなんのコーナーなの?」


「うん?前回の仮面ライダービルドは……」


「具体名出しちゃってるよ!」


「ま、もうすぐ終わりだし。さて、ソラちゃん!前回までの『赤い空、月の影』をお願い!」


「え!?なにかあらすじすることあったっけ――」




 前回。


 わたしは月影夜空という少女が嫌いだった。


 わたしと同じ綽名のソラちゃん。


 でも、その子が突然目の前で魔法少女に変身して――



「からの、変T、どーん!」


 ソラちゃん!? 何してるの!?



「いやあ、やっぱり変ティーは欠かせないかなって」



 でも、どうもこの事件には白い髪の女の子が関わっているみたい――



「華麗に無視したね!? でも、それでいいと思うよ!」



 では、『赤い空、月の影』2輪、スタート!



 #######################




「てぇいやっ」



 ツキちゃんは突進してくる虫を受け止める。



「すごい!」



 魔法少女は人の心を脅かす存在と戦っていると聞いていたけれど、こんな肉弾戦をするとは。


 まるでアニメの世界!



「うわっ」


「ツキちゃん!?」



 ツキちゃんは虫に押し返されて、弾き飛ばされる。


 向かう先は学校の壁で――


 スタッ。


 ツキちゃんは無事に学校の壁に足の裏をつけて着地?する。


 そのまま壁を走って昇っていった。


 ぶっちゃけ、どうなっているのかは分からない。


 世の中には物理法則というものがあるし、どれだけ力があっても垂直の壁を走って駆け上がれるはずがない。


 まだ、壁に足をめり込ませながら歩いていくでぃお様の方が現実味がある。


 ツキちゃんは一番上まで壁を上っていくと、くるりと背中から宙がえりをする。


 ツキちゃんが落ちていく先にはツキちゃんを追って近づいていた虫がいて――


 ツキちゃんは虫に拳を突きつける。



「せいやぁ!」



 でも、虫の体は弾力があるらしく、ツキちゃんは宙に投げ出されてしまう。



「ツキちゃん!?」


「大丈夫」



 宙に浮いていてもツキちゃんはへいきへっちゃらのようだった。


 屋上に着地し、そのまま屋上を駆けて行く。


 そして、唐突に屋上から飛び降り、飛び降りざまに重力に従い落下していき、落下の勢いを利用して、虫の頭だと思われる部分を踵落としした。



「全然効いてないな」



 ツキちゃんは砂煙を起こしながらわたしのもとに着地して言う。



「ねえ、イスカ。なにかないの?」


「あるけども、展開的に燃えたいところじゃないドリル?」


「むしろ萌えたいけれど、触手とか白い液体の餌食になるのはこの場合私よね。それだけは勘弁だわ」



 ツキちゃんはわたしを見つめる。



「どう?ソラちゃん。何かない?」



 そう聞かれて、わたしはすっかりソラちゃんのことをツキちゃんと言ってしまっていることに気がつく。



「ごめん、ソラちゃん――」


「いいの。その名前は早く忘れて。私のために」


「え?」



 どういうこと?という言葉を遮るようにツキちゃんは言う。



「ところで、あの悪い虫を退治するにはどうすればいいと思う?」



 そう聞かれても、虫の弱点なんて――



「殺虫剤、ハーブ、ほのお、こおり、ひこう、いわ」



 適当に虫の弱点だと思えるようなことを呟いてみる。



「今さら気がついたんだけどさ、私、魔法少女なんだよね?じゃあ、どこに魔法の要素が?もしかして、変身できるだけ?」


「そんなことないドリル」



 その言葉を聞いてわたしは違和感を覚える。ツキちゃんはもしかして――



「もしかして、今日戦うのが初めて?」



 ツキちゃんはキョトンとした目でわたしを見つめた後、ほっと胸をなでおろす。



「うん。そうだよ?」



 どうして。


 どうしてそんな、何事もない顔ができるのだろう。



「怖くないの?」


「怖いに決まってるよ」



 ツキちゃんはわたしに右手を差し出す。


 わたしはその手を握る。


(震えてる……)


 きっとツキちゃんはとても怖いのだ。

 それでも我慢して笑顔で頑張って――


「魔法少女の魔法は夢を現実にするものドリル。だから、願うドリル。ツキの心からの願いを――」


「ソラちゃん」


 ツキちゃんがわたしに話しかける。


「私の手を握っていてくれないかな。そうすれば、きっとあの子を倒せる気がするから」



 わたしは返事の代わりにツキちゃんの手を握り返す。


 そんな時、ツキちゃんの胸のコンパクトが光を発する。


 またも目の前が真っ白になって、ようやく目が見えるようになると、そこには一本の棒状のものが宙を漂っていた。


「マジカルバトン、ドリル」



 ツキちゃんはバトンを手に取る。



「この世界の悲しみが、少しでも幸せになりますように」



 ツキちゃんの温かな願いが、握られた手を通してわたしにも伝わってくる。


 とても暖かくて安心できる、そんな温もり――



「さようなら。××××××」



 最後の言葉はバトンから放たれる魔砲の音でかき消されてしまっていた。


 球状の魔砲は虫のもとに向かって行って、虫を消し飛ばしてしまう。後にはなにも残らなかった。



 #####



 桜咲く校門の前、キウイはずっと武美のことを待ち続けていた。


 昨日、北の校門にも南の校門にも桜が咲いていることにキウイは気がついたのだった。


 つまり、昨日の始業式の朝の出来事は、偶然の悪戯が起こした事故だったのだ。



「きっとわたしたちのことだから、お互いに別々の校門でずっと待ってたんでしょうね」



 くすり、とキウイは笑う。


 どちらかが時間になるより前に探しにでも行っていれば、こんなことにはならなかった。


 しかし、お互いがお互いを必ず来ると信じていたために、決してその場を離れようとしなかったのだ。



「武美、きっと怒っているだろうな」



 きっと武美が待っていたであろう桜の木の下で、今日もキウイは武美を待つ。



「すぐ怒るくせに寂しんぼだから、わたしがいてあげないといけないの」



 たった一人を除いて、知るものはいなかった。


 もう、二度と武美はキウイに会うことはない、ということを。


 桜舞い散る中で、キウイは今日も、明日も、季節が幾度変わっても、武美を待ち続ける――



 #######



「なるほど。上質じゃないか」



 白い髪の少女は校庭に転がるガラス玉を手に取り拾う。


 透明な中に潜む黒い邪悪を少女はうっとりとした顔で見つめている。



「あなたが、魔女、なのね」


「そういう君は魔法少女、か」



 少女の前に短い髪の少女が現れる。



「あなたの狙いはなんなの?どうしてあんなにひどいことができるの?」



 魔法少女は涙を飲み込んで口にした。



「別にいいじゃないか。君にとって迷惑だった存在を殺してやったんだから。いいや、自分の手で殺したのか」



 魔法少女は手を強く握りしめる。



「おお、怖い怖い。まあ、いいか。君らごときでは我らの邪魔はできないからね。名前くらいは冥途の土産に聞いておこうか」


「ツキ」



 すると、魔女は狂ったように笑い出す。



「ヒィ、ヒィ。すまないね。つい、滑稽だったから。ほんと、魔法少女ってやつはいつの時代も変わらず愚鈍だな」


「あなたの名前は?」


「聞いてどうするんだい?」



 明らかに不機嫌な様子だった。



「ちっ。まあ、いい。我にはやらねばならんことがあるのでね。我が名はザウエル。魔女だ」



 そう言った瞬間、ザウエルは霧のように姿を消してしまった。






 次回予告



「最初から最後までクライマックスね」


「そうなの?」


「いや、知らないけど。でも、本編である『志望業種は――魔法少女で!』の方を読んでいる方はあのキャラが……とか、あれ?どういうこと?みたいな感じになってるんじゃないかな」


「こんな大したことない魔法少女もの、誰も見ませんって。だって、魔法少女ってだけで多分ダメだし、本格的な魔法少女なんて誰受けするのか」


「作者の好きな魔法少女ものは『幻影ヲ駆ケル太陽』です!」


「それだけでなんとなく先行きが危ぶまれる……」


「まあ、のんびりのっそりと楽しんでいきましょう!」





『次回、ヒットを狙え!』



 絶対に無理っしょ。


 じゃあ、



『次回、萌えが足りない』



 まあ、魔法少女ものに萌えを求めるのは間違っている気がするけどね。


 まほまち?


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