第44話
いよいよ優勝者の発表となり、高志と紗弥はステージに注目する。
一体誰が優勝したのか、ここまで来ると高志も気になってきていた。
しかし、なんとなくだが予想はついていた。
「今年度の浴衣美女コンテストの優勝者は………保永愛奈さん! おめでとうございます!!」
「やっぱりか……」
紗弥が二位の時点で、優勝は恐らく愛奈だろうと高志は思っていた。
流石に大人の女性である先生には勝てない。
子供と大人では色気が違いすぎると思っていたので、この結果は高志にとっては納得だった。
「先生じゃ勝てないよ~」
「まぁ、あの人は普通に美人だしなぁ……って痛いです、紗弥さん」
「大丈夫、ヤキモチだから」
「何が大丈夫なの……」
紗弥に足を踏まれながら、高志はステージを見る。
しかし、ステージに愛奈の姿は無い。
「あれ? 先生来ないな」
「どうしたのかしら……」
いつまでたってもステージに上がってこない愛奈。
司会者も優勝者がステージに上がってこないので、戸惑っている。
「えっと……保永愛奈さん! いらっしゃいませんか?」
司会者が愛奈を探していると、ようやく愛奈がステージにやってきた。
しかし、愛奈は顔を真っ赤にして酔っ払っており、大石から肩を借りて壇上に上がってきた。
「すいません、ちょっと酔ってるので、早く終わらせて貰えますか」
「えっと……一応優勝者なので、一言欲しいのですが……」
大石は愛奈に肩を貸しながら、司会者に説明する。
「いや、今のこの子は面倒なので、喋らせないで下さい」
「そんなどや顔で言われましても……」
「う~……大石先生! 早くホテルに行きますよ!!」
「「「ホテル!?」」」
「保永先生! 少し黙ってて下さい!!」
ステージの先生は、酔っているせいかトロンとした目をしており、浴衣も崩れて肩が見えており、なんともセクシーな姿だった。
しかも発言のせいもあってか、会場はある意味盛り上がっていた。
「う~……早く二人っきりになりましょうよ~」
「貴方は喋らないで下さい!」
ステージの上で漫才のような会話をする大石と愛奈。
愛奈の方はかなりべろべろに酔っ払っており、大石に抱きついている。
そんな大石を見て高志は無意識に呟く。
「………良いなぁ……」
「えい……」
「いったぁ! ど、どうした、紗弥?」
「別に……」
紗弥は高志にそっぽを向き、再び足を踏む。
そんな中、大石は愛奈の代わりに商品を受け取り壇上を素早く下りていく。
「何やってんだか、あの先生達は……」
「保永先生って大石先生のこと好きなのかな?」
「まぁ、学校でもそういう雰囲気あったよな……」
生徒の間でも愛奈が大石を狙っているという話しは有名だった。
事あるごとに大石に話しを掛け、アピールを繰り返す愛奈を生徒は良く見ていた。
「あの二人……この後……」
「今、エッチなこと考えたでしょ?」
「そ、そんな訳ないだろ……」
「正直に」
「………ごめんなさい」
「もう……スケベ」
「う……男の子なので勘弁して下さい……」
無事にコンテストも終わり、高志と紗弥はそろそろ帰ろうとかと言う相談を始める。
*
「おい、秋村」
「もう~優一さんったら~、芹那って呼んで下さいよ~」
「調子に乗るな! そしてくっつくな!!」
優一と芹那は、屋台の裏の方でかき氷を食べながら話しをしていた。
一応付き合うことになった二人だが、優一は選択を間違えたのではないかと思っていた。
「はぁ……一時間前に戻りたい」
「私はずっとこのままが良いですぅ………」
「熱っ苦しいから離れろよ!」
「離れるなって言ったのは優一さんじゃないですか!」
「だからそういう………もういいや、好きにしろ」
「じゃあ、遠慮無く……」
「だからって、キスをしようとするな」
「あん……良いじゃないですか~減るもんじゃ無いし~」
「減るわ! 俺の初めてが減るわ!」
「そんなの私が全部貰うんだからいいじゃないですか」
「誰が全部やるって言ったよ!」
「あ、私のは優一さんに全部あげますよ」
「いらん、興味もない」
付き合ってもあまり変わらない二人の会話。
しかし、優一の手はしっかり芹那の手を握っていた。
「優一さん」
「今度はなんだよ」
「好きですよ」
「………言ってろ」
「えへへ~」
幸せそうに笑う芹那を見て、優一は口元を歪めてため息を吐く。
「じゃあ、そろそろいきますか!」
「は? どこにだよ」
「ホテルです!」
「行くかボケ!」
「付き合ったら縛ってくれる約束じゃないですか!」
「そんな約束してねぇよ!!」
*
大石は愛奈を連れて、自宅に向かって歩いていた。
愛奈はビールの飲み過ぎで寝てしまい、大石は愛奈をおぶって家に向かって歩いていた。
「はぁ……災難だったなぁ……」
愛奈に連れ回された気がして、大石はかなり疲れていた。
背中でスースー寝息を立てて眠る愛奈を見ると、それでも綺麗な顔に少しだけドキドキする。
「寝てる時は普通に美人なんだがな……」
なんで自分をこんなに好いてくれるのかはわからない。
だが、その気持ちが迷惑かと言えば嘘になる。
こんな美人に好かれて、内心は嬉しい。
しかし、いつか離れていくのではないかと不安になる。
そうなったときに、やっぱり付き合わなければと思うならば、いっそのこと最初から夢を持たない方が良いのではないかと……。
「ん~……大石先生ぇ~」
「ん? 寝言か……」
「ん~、どこにも行っちゃダメですよぉ~」
「へいへい」
背中に乗ってるんだから、どこにも行く訳ながないと思いながら、大石は愛奈の寝言に相づちを打つ。
「私は……どこにも行きませんから……」
「………」
そんなことを言われてしまっては、大石も少し本気になってしまう。
「本当ですか?」
興味本位で聞き返すと、愛奈は嬉しそうに笑いながら答える。
「ホントですよ~……むにゃむにゃ……」
「……フッ、まったく……」
「逃がしませんよ~……」
「え………」
「手錠で……こうそくして……一緒私のものに………うふふふ………」
「………」
一気に顔が青ざめるのを感じた大石は、急いで愛奈をアパートに送り届けることにした。
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