第43話
「保永先生の気持ちはうれしいのですが……」
「嫌です」
「……まだ何も言ってませんが」
「言いたいことは分かりますもん」
またしても頬を膨らます愛奈。
いつもは保健室の大人のお姉さんとして、生徒からは人気があるのに、こういうときは子供っぽい。
「はぁ……保永先生。貴方なら、自分みたいなおっさんよりもずっといい人が……」
「いません」
「せめて最後まで聞いて貰えませんか……」
なかなか話しが進まず、大石はため息を吐く。
なんで自分がこんなに好かれているのか、大石は理解出来なかった。
自分のどこがそんなに良かったのだろうか?
そんなことを考えながら、大石は手に持ったビールを飲み干す。
「仕事中にビールなんて飲んで良いんですか?」
「見回りの件は保永先生の嘘でしょ、それなら私も祭りを楽しむだけです」
「じゃあ、私にも」
「買ってこいってことですか?」
「はい、まぁ私も行きますけど」
「はぁ……わかりましたよ」
大石は愛奈にビールを奢り、再び観覧席の方に戻ってきた。
深くため息を吐き、大石は愛奈の隣に座る。
「先生はまだお若いんですし、もう少し将来性のある方とか……」
「大石先生もあると思いますけど?」
「いや……私みたいなおっさんじゃなくても……」
「そこまで歳は離れてませんし、今の時代なら普通です」
言い訳をしてはみたが、愛奈は大石の言葉をすべて否定してくる。
情けないと思った大石だが、ここは本音を言わなければと思った。
「本当は自分に自信がないんですよ」
「………」
「貴方みたいな綺麗な人と並んで歩く自信が無い、この年齢になると当然結婚も考えます。貴方を幸せに出来るか考えた時、私はそれが出来るか不安なんです。保永先生は私よりも若いですから、同年代とかの男性と結婚した方が、上手くいくのではないかとね……」
「そんなことですか、なら問題ありません」
「はい?」
結構真面目な話しをしたはずなのに、帰ってきた答えは随分あっさりとしたものだった。
愛奈はけろっとした表情で言葉を続ける。
「大石先生は私と一緒に居てくれれば良いんです! それだけで私は幸せですから!」
「………あの、男としてそれは嬉しいのですが……そういう問題では……」
「そういう問題ですよ! ようは、大石先生が周囲の目を気にしすぎなんです! 気に品蹴れば問題解決で、私と結婚出来ます!」
「結婚!? いきなり何を言ってるんですか! まだ付き合ってもいないでしょ!」
「どうせこの後私の押しに負けて付き合うんでうすから、どうせなら婚約まで行きましょう!」
「話しを飛躍させないで下さい! 私はまだ負けてません!」
「いえいえ、先生は絶対負けますよ」
「ど、どう言うことですか?」
愛奈のにやっと歪んだ口元を見ながら、大石は愛奈から少し身を離す。
そんな大石に愛奈は満面の笑みで言う。
「後からのお楽しみです」
「………帰りたい」
*
「さぁーコンテストの結果が出そろいました! 今年の浴衣美女コンテストはかなりレベルが高く、審査には少し時間が掛かりましたが、発表して行きましょう!」
コンテストの結果発表の瞬間、高志は紗弥と並んで観覧席に座っていた。
コンテストの結果三位まで発表され、名前を呼ばれたらステージに上がって行く仕組みだ。 優勝賞品は温泉のペアチケット。
紗弥はそれを狙っていたが、正直今はどうでも良い。
「優勝出来るといいな」
「出来なくてもいいや」
「え? なんでだ?」
「高志の中で一番ならそれで良い」
そう言って高志の手を強く握ってくる紗弥。
高志はそんな紗弥の言葉に、いつも以上に紗弥を愛おしく感じる。
「そっか、ありがと」
「うん」
高志の肩に頭を乗せ、紗弥は高志の腕に抱きつく。
周囲の視線が痛かったが、高志はそれでも幸せだった。
高志と紗弥がイチャついている中、結果発表が始まった。
「さー! まずは第三位の発表です!」
司会者のかけ声と共に、ファンファーレが鳴り始める。
「第三位! ………村上夢さん!」
「げ……」
高志は思わず顔をしかめた。
まさかの夢の入賞、確かに夢のルックスは良いしおかしいことでは無い。
壇上で賞品を貰い、会場の人間に手を振る夢を見て、高志は恐る恐る隣の紗弥を見る。
「………」
「さ、紗弥?」
「高志……」
「な、何?」
紗弥の高志の手を握る力が強くなる。
真剣な表情の紗弥に少し恐怖を感じる。
「私……あの子には負けたくないかも……」
「そ、そっか……」
そんな紗弥が夢に敵対心を抱いているなかで、第二位の発表が始まった。
「それでは第二位の発表です!」
再びファンファーレが鳴り始め、二位の発表が始まる。
「第二位は………宮岡紗弥さんです!」
「おぉ! 紗弥、おめでとう!!」
紗弥の名前が呼ばれた瞬間、高志は紗弥にお祝いの言葉を贈る。
紗弥もどこか安心した様子で、高志に笑顔で答え、ステージに上がる。
そんな紗弥を夢は複雑そうな表情で見ていた。
紗弥も夢の視線に気がつき、紗弥もステージから夢を見つめる。
「紗弥、おめでとう」
「ありがと、優勝じゃなかったけど」
「いやいや、凄いって。流石だよ」
高志が帰ってきた紗弥を褒める。
紗弥は元の席に戻り、優勝者の発表を待った。
「お待たせ致しました! 優勝者の発表です!!」
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