第39話

「さて、続きましてはエントリーナンバー二番、秋村芹那さんです!」


「お、優一、芹那ちゃんだぞ」


「いちいち言わなくてもわかるわ」


 ステージの現れた芹那は恥ずかしそうに頬を赤らめながら、ステージの中央に立つ。

 芹那の登場に会場は一気に沸き立ち、コンテストは盛り上がり始める。


「今日は誰と来たんですか? もしかして彼氏?」


「えっと……なんていうか、まだ付き合って居ないというか……私の片思いというか……」


「えぇ! こんなに可愛い子からのアプローチを断る男なんて居るんですか!?」


 司会者の言葉に、会場は更に盛り上がる。

 高志は横の優一を見ながら、冷たい視線を送る。


「おーい、言われてるぞー」


「みんなあいつの本性を知らないからだろ!!」


「なんだ、那須は秋村と来てたのか」


「た、ただの成り行きですよ……」


「へぇー成り行きねぇ……」


「その目をやめろ、ぶん殴るぞ」


 芹那はなかなかに好感触だった。

 ちらほら可愛いと言う声も聞こえてくる。


「温泉旅行は今日一緒に来ている男性と行きたいんですか?」


「は、はい……でも、断られるかも……」


 悲しそうな表情で芹那が言うと、会場の男性が一気に沸き立つ。


「おい連れの男出てこい!!」


「こんな可愛い子の気持ちを弄んでんじゃねーよ!!」


「死ねぇぇ!!」


 優一はなんとも気まずそうな表情で焼きそばを食っていた。

 その様子を見た大石も笑みを浮かべる。


「たく、薄情な奴だな」


「独身の先生には言われたくないっす」


「独身関係ないだろ……」


 優一にそう言いながら大石はお茶を飲む。

 

「ちなみにその彼は今もこの会場にいますか?」


「あ、はい。あそこで焼きそば食べてます」


 そう言って、笑顔で優一を指さす芹那。

 その瞬間、会場の全視線が優一の方に集まる。

 優一はそれに気がつき、顔を真っ青にしてその場を離れようとする。


「俺ちょっとここを離れるわ……」


「おう、殺されるなよ」


 高志がそう言ったあと、優一はどこかに走っていった。

 それを一部の祭りに来ていた男共が追いかける。


「優一がいたぞぉぉぉ!!」


「裏切り者を逃がすなぁぁぁ!!」


 どうやら会場にクラスメイトの男共が居たらしい。

 彼女持ちを絶対に許さないクラスの男子達は目を光らせて優一を追っていった。


「あ、言っちゃった……」


「はい、それではお連れ様が会場から逃げたところで終了です! ありがとうございました! それでは次の方どうぞ!!」


 司会者がそう言い、芹那はステージの裏に下がって行った。

 そして、次の浴衣美人が現れる。


「続いてはエントリナンバー三番! いつもは保険の先生! 保永愛奈さん!!」


「あれ? 保永先生も来てたんですね」


「そ、そうみたいだな……」


 大石は高志にそう言いながら、ステージから目を反らす。


「お美しいですねぇ~、大人の女性と言った感じで会場を魅了していますよ」


「ありがとうございます。でも、私ごときじゃ魅了されない人も居ますから……」


「え? そんなことはないと思いますが?」


「いえ、だって……意中の相手に全く相手にされていませんから……」


 愛奈がそう言った瞬間、大石はかなり嫌な予感がし立ち上がる。

 

「悪いな八重……俺もちょっと屋台を見てくる……」


「あ、はい……」


 そう言って大石は、屋台の方に早足で向かっていった。

 高志は大石の急な態度の変化がわからず、きょとんとしながら大石に答える。

 どうかしたのだろうかと思いながら、高志は視線をステージに戻す。


「それは、見る目のない男性も居たものですねぇ~」


「はい、同じ職場の大石って方なんですけど、何度も食事に誘ったのに、全部断るんです」


「はぁ~、そんな男もいるんですねぇ~」


 大石と言う言葉を聞いた瞬間、またしても会場内の一部の男共が騒ぎ立てる。


「大石を探せぇぇぇ!!」


「あんなのはもう先生でも何でもねぇ!」


「俺らの保健室の天使! 愛奈ちゃんによくも!!」


 そう言ってまたしても数人の男共が屋台の方に走っていった。

 クラスの男子以外にも学校の生徒がちらほら来ている様子だった。


「俺の学校の男共って……馬鹿ばっかりだな……」


 高志はそんなことを呟きながら、かき氷を口に入れる。

 

「それでは、会場も盛り上がってきたところでどんどん行きましょう! 次はエントリーナンバー五番! 村上夢さん!!」


「ブッフゥゥゥ!!」


 高志はその名前を聞いた瞬間、口に含んだかき氷を噴き出した。

 居るかもしれないとは思ったが、まさかコンテストに出ているなんて思いもしなかった。

 まさか、自分に関することは言わないだろうなと思いながら、高志はステージを見る。

 そこには、白い浴衣を着た夢が手を振って愛想を振りまいていた。


「今日は誰と来たんですか?」


「はい、友達と来ました」


「もしかして彼氏?」


「居ないですよ~」


 夢の言葉に高志はホッと胸をなで下ろす、ここで余計なことを言われないために会場に自分がいることをきずかれたくない高志。

 紗弥には悪いと思ったが、ここは身の安全のため、高志は観覧席から屋台の方にこっそり移動を始める。

 しかし……。


「あ! 高志く~ん!!」


「げ……」


 ステージから声を掛けられてしまった。

 高志は自分に視線が集まるのを感じる。


「えっと……あの方がお友達ですか?」


(頼む! 余計なことは言わないでくれ!)


 そう祈る高志、ここで余計なことを言われてしまえば、また紗弥を悲しませることになってしまう上に、クラスの男子(馬鹿)から制裁を受けてしまう。


「はい、友達ですよ」


「あぁそうなんですか」


 高志は夢の言葉に安堵した。

 変なことを言われなくてよかったと思いながら、高志は苦笑いで手を振り返す。

 

「はい、今は……ですけどね」


「え……と言うことは?」


「狙ってますよ」


 高志は夢がそう言った瞬間、ダッシュで会場をあとにした。

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