第37話
*
高志は紗弥と祭りの会場に到着した。
人の多さに驚きながらも、二人は手を繋いで二人で祭りを楽しんでいた。
今は二人でイベントステージを見ていた。
マイナーな芸人が芸を披露したり、ご当地アイドルが来たり、のど自慢大会が開催されたりとなかなかに盛り上がっていた。
「あの芸人、まだ生きてたんだな」
「去年は売れっ子だったのに、今年は全くテレビで見ないもんね」
椅子に座り、焼きそばを食べながら高志と紗弥はステージを見ていた。
次は休憩を挟んでご当地浴衣美女コンテストがあるらしい。
「美少女コンテストかぁ……紗弥が出たら一発なのにな」
「もう、何言ってるのよ、ばか」
そう言う割には紗弥は笑顔で頬を赤らめていた。
完全に二人の世界に居る高志と紗弥の元に、一人のおじさんが近寄ってきた。
「あの、突然ごめんね、ちょっと良いかな?」
「「え?」」
高志と紗弥は声を揃えて振り替える。
そこにいたのは、眼鏡を掛けた四十代くらいのおじさんだった。
おじさんは胸に運営委員という名札を付けており、高志と紗弥はそれを見てお祭りの運営の人だと気がついた。
「えっと……俺たちに何か?」
「あぁ、ちょっと相談なんだけど……君の彼女にこれからある浴衣美女コンテストに出てくれないかと思ってね」
「え? 私ですか?」
聞き返すと眼鏡のおじさんはわけを話し始めた。
「いやぁ、参加者があんまり集まらなくてね……ギリギリまで声を掛けて回ってるんだ」
「そうだったんすか」
「でも……私目立つのは……」
「優勝賞品は温泉旅行のペアチケットだよ」
「出ます!」
「あれ? 紗弥さん?」
こうして紗弥のコンテストへの出場が決定した。
紗弥はおじさんと共に、控えのテントに向かって歩いていった。
残された高志は、そんな紗弥の後ろ姿を見ながら焼きそばを食べる。
*
優一と芹那は屋台を見て回っていた。
金魚すくいをしたり、射的をしたりとまさにデートだった。
芹那は楽しそうにずっと笑顔なのに対し、優一はとある一団の姿を見て冷や汗をかいていた。
「な、なんであいつらが……」
「ん? どうしたんですか?」
優一の視線の先にいたのは、クラスの男子達数名だった。
「くそ! なんで女の子が捕まらないんだ!!」
「顔が悪いからだろ?」
「男だけで祭りに来てもなぁ……」
「浴衣美女コンテスト見て帰るか」
「そう言えばなんで優一は居ないんだ?」
「一応誘ったんだが……」
「もしかして彼女が出来たとか?」
「「「ないない!」」」
(あいつらぁ……)
人が居ないと思って好き勝手いやがってと思いながら、優一は額に血管を浮かべる。
ゆっくりと歩きながら、クラスメイトの男達は優一と芹那の方に歩いて来る。
「やっべ……」
自分が芹那と一緒に歩いているのを嫉妬深いクラスメイトが見たら、何をされるかわからない。
優一は慌てて芹那と木の陰に隠れる。
「え! ゆ、優一さん!?」
急に優一が芹那を抱きしめるように木の陰に身を隠し始めたので、芹那は驚き顔を赤く染める。
優一はクラスメイトが横を通り過ぎるのを確認し、芹那から離れる。
「はぁ……危ない……」
しかし、この場をやり過ごしたとしてもこの会場に居る限り、いつかは見つかってしまう。 クラスメイトが帰るまでの間、常に周囲を注意を向けるなんて出来ない。
「どうするか……」
「ゆ、優一さん……あの……今のは……」
頬を赤く染めたまま、芹那は優一にさっきの行動の意味を尋ねようとする。
しかし、優一は今それどころでは無い。
(そうか、あいつらは確か浴衣美人コンテストを見たら帰ると言っていた。それなら……)
優一は良いことを思いつき、真剣な表情で芹那の方に向き直った。
「おい!」
「は、はい!」
「おまえ、ちょっと浴衣美人コンテストに出てこい、幸いまだエントリーは受け付けているみたいだからな!」
「え? いきなりなんですか?」
「お前は見てくれはピカイチだ」
「もぉ~、そんな褒めなくても私は優一さんのものですよ~」
「ぐ……まぁ、今はツッコミは封印しよう……お前なら優勝出来る、行ってこい!」
「えぇ……でも、私は優一さんと屋台を見て回ってた方が……」
断ろうとした芹那だったが、優勝賞品を見た瞬間、目の色を変えて返事をした。
「出ます!!」
「おぉ、なんでかやる気を出してくれて嬉しいぞ! じゃあ行ってこい! 俺は観覧席で応援してる」
「はい! ……優一さんと温泉、優一さんと温泉!」
「……な、なんだ……この悪寒は……」
こうして芹那のコンテスト出場が決定した。
コンテストが終わるまで、芹那と離れていれば、万が一さっきのクラスメイトと遭遇しても大丈夫と言う訳だ。
「よし、これで俺の身の安全は保証されたな……」
優一はほっと一安心しながら、飲み物をかって観覧席に向かう。
するとそこには……。
「ん? 高志じゃないか」
「あ、優一」
*
「大石先生、焼きそば食べます?」
「あぁ、すみません。ありがとうございます」
大石と愛奈は屋外に用意された食事スペースで、屋台で購入した物を食べていた。
最早見回りというよりも、普通に祭りを楽しんでいる感じがする大石だったが、あまり深くは気にしないことにしていた。
どうせ愛奈に聞いてもうやむやにされると思ったからだ。
「はい、あーん」
「あ、あの……いい年をしてそれは……」
「まぁまぁ、良いじゃないですか。はいあーん」
「う………あ、あーん……ど、どうも……」
「ウフフ、いいえ~」
すっかり愛奈のペースになってしまい、調子が狂ってしまった大石。
周りの視線を気にしながら、買ってきたお茶を飲んでいた。
「次はどうしますか?」
「あ、あの……一応見回りなのでは?」
「どうしますか?」
「……」
強引な愛奈に振り回されながら、大石はそれなりに祭りを楽しんでいた。
そんな時……。
「あれ? 愛奈ちゃん?」
「あぁ! 美穗ちゃん!」
「知り合いですか?」
「はい、私の大学時代の友達なんです」
愛奈の友人は黄色を基調とした浴衣を着た、眼鏡を掛けた女性だった。
愛奈に負けず劣らず美人であり、どうやら友達と来ているようすだった。
「で、愛奈そっちの人は?」
「あぁ………私の彼氏」
「保永先生!?」
とうとう彼氏にされてしまい、大石は慌てて愛奈の名前を呼ぶ。
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