第34話
「何してんだ?」
「優一さんを待ってたに決まってるじゃないですか」
笑みを浮かべながらそう言ってくる芹那。
優一はそんな芹那の頭をコツンと優しく叩き、歩いて帰宅する。
その後ろを芹那はついて行く。
「ついてくんのかよ」
「帰る方向が同じなだけです」
「そうかい」
優一と芹那は夕焼けの中を歩いて帰る。
「夏休みももうすぐで終わりですね」
「だな……何も無い夏だったよ」
「出会いがですか?」
「そうだよ」
「もう~いい加減私と付き合っちゃいましょうよ~」
「いやだね」
「む~、そんなこと言ってると、本当に他の人の物になっちゃいますよ私!」
「良いんじゃねーの」
「む~……じゃあ、責めて一緒にお祭りくらい行きましょうよ!」
「は、祭り?」
優一が聞き返すと、芹那が祭りのチラシを見せて来る。
「は? 明日じゃねーか」
「はい、一緒に行きましょう! 近くですし!」
「嫌だよ、行くなら一人で行く」
「なんでですか!」
「一人じゃ無いとナンパ出来ない」
「どうせ失敗しますよ」
「ど・う・い・う・い・み・だ!」
「痛いですぅ~………」
優一は芹那の言葉に腹を立て、芹那の頭をグリグリする。
優一は芹那から見せて貰ったチラシをもう一度見る。
「こう言うのは、高志と宮岡みたいなバカップルが行くんだよ」
「まぁ、あの二人は行くでしょうね」
羨ましげに言う芹那を見る優一。
優一は深くため息をつき、頭をかきながら芹那に言う。
「しゃーねーなぁ……」
「え!? そ、それって……」
「まあ、祭りくらいなら別に……」
「ありがとうございます!! じゃあ今夜また連絡しますね!」
「お、おう」
そう言って芹那は走って家に帰って行った。
芹那の後ろ姿を見ながら、優一は笑みを浮かべる。
「そんな嬉しいのかねぇ……」
*
「んで、急に呼び出してどうした?」
プールのバイトの次の日、優一は高志に呼び出され、近所のファミレスに来ていた。
「あぁ、実は相談があってだな……」
「くだらないことだったら殺すからな?」
「さらっと殺すとか言うなよ……」
ドリンクバーを頼み、高志は話しの本題に入っていく。
「実は……今日は夏祭りなんだが……」
「あぁ、そうだな」
やっぱり高志と宮岡も行くのかと思いながら、優一が思っていると高志が本題を話し始めた。
「紗弥の浴衣なんだが……どっちが似合うと思う?」
「ようし、歯を食いしばれ~」
「待て待て! なんで拳を振りかざす!」
「本当にくだらない相談だったからな」
「く、くだらないとは何だ! 両方似合っていて、どっちを着て貰うべきか昨日から悩んでいるんだぞ!!」
「……ホントどうでもいいわ……」
優一は飲み物を飲みながら、ため息を吐き椅子に座り直す。
「お前らも今日の祭り行くのか?」
「まぁな、紗弥には夏休みに入る前から色々と不安にさせてばっかりだったからな……」
「確かに、浮気疑惑も出たしな」
「それはお前のせいでもあるけどな」
夏休みに入る前の合コン騒動を思い出し、高志は優一を責める。
「そう言えば、お前らもってことは優一も誰かと行くのか?」
「……まぁな」
「あぁ、芹那ちゃんとか?」
「あのなぁ……なんで俺イコールあいつなんだよ」
「いや、何となくそんな感じがしてな、本当は誰となんだ?」
「まぁ、そうなんだけどよ」
「え、マジで……お前とうとう……」
「おい、なんだお前のその目は」
高志は優一の話を聞き、ニヤニヤしながら話しを聞いていた。
優一は高志のそんな表情に嫌悪感を抱き、眉間にシワを寄せて返答する。
「いや、とうとう自分の気持ちに素直になれたんだなって……俺は嬉しいよ」
「おい、何を勘違いしてやがる。俺はただあの変態と祭りに行くだけだ」
「わかってるわかってる! そこで決めるんだろ?」
「何をだ?」
「愛の告白的な?」
「俺は今ここでお前に一発決めたくなったよ」
優一は再び立ち上がり、高志に対して拳を振りかざす。
「え!? だってデートだろ?」
「馬鹿! ただ一緒に行くだけだ!」
「だから、それを世間一般ではデートと……」
「うるせぇ! 俺がデートじゃないって言ったらデートじゃないんだよ!!」
強引なことを言う優一に高志はため息を吐く。
照れ隠しで言っているのはわかっているのだが、もう少し素直になっても良いのではないかと高志は思っていた。
*
「大石先生」
「げっ……ほ、保永先生……」
大石は学校の廊下でバッタリと出会した愛奈を見て、苦い笑みを浮かべる。
夏休みで生徒はほとんど居ない。
盆休みも終わり、愛奈との一件から一週間が経過していた。
大石はあの一件から愛奈から距離を置いていた。
しかし、逆に愛奈はグイグイと大石にアプローチを掛けていた。
「げってなんですか? げって?」
「え……っとすいません……私は急いでいるので……」
「急ぐ? じゃあその右手に持ったたばこはなんですか?」
「あ……」
大石は別に急いでなどいなかった。
ただ単に、休憩がてらたばこを吸いに行こうとしていただけだった。
大石はさっとたばこをポケットにしまい、愛奈から距離を置く。
「えっと……何か私ようでしょうか?」
「今日お祭りがあるんです」
「そ、そう言えばそうですね……」
「なので、見回りもかねて私と大石先生で見回りに行ってくれと教頭先生が」
「え!?」
大石は見回りのことを聞いた瞬間、先週のことを思い出した。
お酒を飲み、別人の用になってしまった愛奈。
しかも、最近はかなり激しくアプローチを繰り返してくる。
「そ、そうですか……じゃ、じゃあまた後で打ち合わせを……」
「そうですね、それじゃあ仕事が終わったら先生の自宅にお邪魔します」
「が、学校で打ち合わせれば良いのでは……」
「私が行きたいからです」
なんと無茶苦茶な理由だろうと思いながら、大石は肩を落とす。
大石は気がついていた。
愛奈が自分に激しい好意を抱いていることを……。
しかし、それが何故かまではわからない。
友人に相談したが、付き合えば良いじゃないかと言われるだけだった。
それもそうだ、大石は今年で33歳。
結婚していてもおかしくない歳だが、彼女も居ない。
周りはこれを機に結婚を前提に付き合ったらどうだと言う始末だった。
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