夏祭りと夏の最後

第33話




 夏休みも終盤に入ったとある日。

 優一は一人でブラブラと町を歩いていた。

 

「今日もあっちーなぁ……」


 今日は知り合いに頼まれ、一日プールの監視員のバイトをしに行く途中の優一。

 人脈を広げると言う意味でもこういう頼み事は積極的にやっている優一。

 今から行くプールのオーナーともちょっとした知り合いなので緊張は無い。


「そう言えば俺以外にもバイト雇ったって言ってたけど……」


 夏になると、お店を経営している知り合いから、短期で働ける友達は居ないかと良く聞かれる。

 自分が金欠の時は優一自身が短期バイトをすることもある。

 今回はまさにそれだ。


「はぁ……いろいろ使い過ぎちまったからなぁ……」


 自分の財布を見ながら、優一は肩を落として嘆く。


「ま、良いか……偶には体を動かさねーとな」


 優一はそう言って肩を回し、プールに向かった。

 プールに到着すると、優一はプールのオーナーに話しを聞きに向かった。


「あぁ、優一君。今日は良く来てくれたね」


「いや、自分も金欠なんで助かります」


「君にはプール内での飲食物の販売をお願いしたいんだ」


「あぁ、フランクフルトとかかき氷とかの販売ですか?」


「そうそう、簡単だから大丈夫だよ。それに今日はもう一人バイト雇ってるから、二人で協力してお願いね」


「わかりました」


 優一は水着に着替え、上に専用のTシャツを着る。

 接客業も何回かやった経験があるので、優一はそこまで緊張していなかった。

 しかし、もう一人のバイトがどんな人なのかは気になっていた。

 オーナーの話しでは女性らしいが、あまり変な人だと仕事上困ってしまう。


「ま、野郎よりはましか……」


 もしかしたら素敵な出会いがあるかもしれないと、頬を緩めながら優一はこれから働く屋台のテントに向かう。

 屋外の販売なので、真夏の今日は結構キツい。


「あっつ……ま、いいかバイト代が良いし……」


 一通り仕事を教えて貰い、優一の仕事は始まった。

 

「じゃあ、あとはよろしく。あと同じバイトの子は後一時間くらいで来るから」


「あ、はい」


 オーナーに仕事内容を聞き、優一は早速仕事を始めるが、平日とあってかお客さんはあまり来なかった。

 プールに入っているのも、夏休みの大学生や高校生。

 そして母親と来ている小学生くらいで、そこまで混み合っている様子は無かった。

 

「暇だなぁ……これなら俺一人でも良いと思うんだが……」


 パイプ椅子に座りながら、優一は暇そうにスマホを弄っていた。

 そんな時、ようやくもう一人のバイトがやってきた。


「す、すいません。遅くなりました」


「あぁ、全然良いです……よ?」


 やってきたバイトの女の子を見て、優一はフリーズした。


「あれ? 優一さんじゃないですか!!」


「お、おまえは……」


 そこに居たのは、水着姿で同じプールのTシャツを着た芹那だった。


「奇遇ですね! 優一さんもバイトですか?」


「ま、まさか……短期のアルバイトって……」


「はい! 私です!」


「チェンジで……」


 優一は頭を抑えながらそう言う。

 もちろんそんなことは無理なので、優一は仕方なく芹那に仕事を教え始める。


「んで、かき氷のシロップが無くなったら、この下にあるらしいから」


「はい、わかりました!」


 意外と物覚えが良いなと思いながら、優一は芹那に仕事を教える。

 しかし、やっぱりお客さんはあまり来ない。

 一人でも暇だったのが、二人になり更に仕事が無くなり、暇になってしまった。


「暇ですね……」


「だな……」


 今までに来たお客さんは、かき氷とチョリトスを買っていった親子とフランクフルトを買っていった高校生くらい。


「そういえば、お前はなんでバイトしてんだ?」


「えっと……お、お小遣いなくなっちゃって……」


「あぁ、お前も俺と似たようなもんか……しかし、よりによってお前とバイトするなんてな……」


「もしかして興奮しました?」


「なんでだよ。そんなん絶対ないわ」


「いや、水着姿の私に欲情して、トイレに連れこんで私を拘束! みたいなことを考えてたんじゃないですか?」


「馬鹿じゃねーの」


 呆れた様子で芹那にそう言うと、優一は立ち上がり屋台の外に出た。


「どこ行くんですか?」


「トイレだよ」


「え! じゃあまさか、私を!?」


「店番してろよ」


 そう言って優一はトイレに向かう。

 このまま何事もなく終わってくれれば良いと思いながら、優一はトイレを後にし店に戻る。 すると、店の前にチャラい感じの見た目の大学生が三人ほどいた。

 どうやら芹那がナンパされている様子だった。


「ねぇねぇ、バイトって何時に終わるの?」


「終わったら俺らと遊ぼうよ」


「えっと……ご注文は……」


「そんなことよりさ~連絡先教えてよ~」


 戸惑う芹那を見て、優一はため息を吐いて屋台の方に戻って行く。


「お客様、当店はそのようなお店ではありませんので」


 優一は笑顔でチャラ男三人にそう言うと、芹那を店の奥に引っ張った。


「っち……男もいたのかよ」


「行こうぜ……」


 チャラ男達は優一の登場で店から立ち去っていった。

 あまりしつこく絡まれなくて良かったと思いながら、優一は一応芹那に尋ねる。


「大丈夫か?」


「はい! 優一さんが助けてくれるって信じてましたから!」


「お前なぁ……」


「でも、いつも助けてくるじゃないですか?」


「う……そ、それは偶然だ……それに今はバイト中だし、問題を起こされてバイト代が出ないなんてことになったら困るんだよ……」


「本当にそれだけ……ですか?」


「そうだよ、わかったらちゃっちゃと働け」


「……はーい!」


 芹那は少し寂しそうな顔をした後、直ぐに笑顔で仕事に戻った。

 そして、終わりの時間になり、二人の前にオーナーがやってきた。


「いやぁ、お疲れ様。あとはこっちでやっておくから、二人はあがってよ。あとコレバイト代ね」


「ありがとうございます!」


「また何かあったら、連絡下さいっす」


 そう言って二人はオーナーからバイト代を受け取り、その場を後にする。

 着替えを済ませ、優一は帰ろうとプールの入り口を出ると、そこには優一を待つ芹那の姿があった。

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