第10話

「そんなに私が嫌ですか?」


「お前が嫌なんじゃ無くて、お前の性癖が嫌だ」


「それって私自身って事ですよ!」


「そこでキレんな!」


 芹那と話しをしていると、どうにも疲れてくる優一。

 次第に高志の事もどうでも良くなって来て、早く帰って休みたいと思うようになっていた。

「はぁ……もう良いわ、帰る」


「じゃあ私も……」


「帰るのか?」


「なんであからさまに嬉しそう何ですか……ついて行きます!」


「とうとう家にまで来ようとしてるな、お前」


「あからさまに嫌そうな顔しないで下さいよ………こ、興奮するじゃ無いですか……はぁはぁ……」


「お前、男だったら通報されてるぞ……」


 肩を落として呆れる優一。

 早く芹那と離れたいと内心思いながら、優一は芹那に無理矢理別れを告げる。


「じゃあ、俺はコレで……」


「はい、では行きましょう」


「だからついてくんな!」


「じゃあ、連絡先教えて下さいよ! このままじゃ、二学期まで優一さん私と会えませんよ?」


「最高だな」


「じゃあスマホ貸して下さい」


「待て、なんでそうなる」


「あ、フルフルって知ってます?」


「あぁ、知ってるぞ……って、だからなんでそうなるんだよ!」


 芹那に乗せられそうになり、優一はハッと我に返る。

 連絡先なんて交換したら色々と面倒になるだろうと優一は容易に予想出来た。

 だから、連絡先を芹那に教えるのには抵抗があった。


「良いじゃ無いですか、減るものじゃないですし」


「俺の情報価値が減る」


「そんなの元から無いですよ」


「うるせぇよ!」


 ワーワー騒いでいると、突然高校生くらいの男が、優一と芹那の元にやってきた。


「あれ? 秋村じゃん」


「……に、西木……君」


 男は茶髪にネックレス、それにだぼっとした服装で、いかにもチャラい男といった様子だった。

 優一はそんな彼を見て、あまり良い印象を受けなかった。

 芹那の知り合いにしては、随分と個性的だなと思っていると、突然芹那が優一の元に寄ってきた。


「卒業式以来じゃん、ひっさしぶり~」


「そ、そうだね……」


「何してるの? 暇なら俺と遊ぼうよ」


「わ、私は……そ、その……」


 何やら様子のおかしい芹那。

 優一はそんな芹那の様子を見て、その男に言う。


「悪い、こっちが先約なんだ」


「え? 誰、アンタ?」


 礼儀の無い挨拶に優一は少しイラッとする。

 昔であれば、問答無用で殴り飛ばして居ただろうが、今の優一は違う。


「行くぞ」


「あ……」


 優一は芹那を連れて男の元を離れる。

 芹那もなんだか嫌そうな顔をしていたので、別に問題無いだろと優一は考えた。


「中学の時の同級生か?」


「は、はい……あ、あはは、あんな感じなので、ちょっと苦手で……助かりました」


「……そうか。お前もう帰れ、またあんなんに絡まれたら厄介だ」


「で、でも……」


「良いから行け」


「……わかりました……」


 優一の真剣な顔つきに、芹那は肩を落として自宅に帰って行く。

 芹那の後ろ姿を見ながら優一は息を吐き、一言呟く。


「……ようやく離れたな……」


 そう言った優一の顔の眉間にはシワが寄っていた。

 一方で、帰り道を歩く芹那の足取りは重かった。

 折角思い人と会えたて、楽しい時間を過ごして居たのに思いがけない人物のせいで、台無しになってしまった。


「はぁ……なんかついて無いな……」


 肩を落として歩く芹那。

 先ほど会った西木という男は、芹那の中学時代の元同級生だ。

 見た目通りのチャラ男で、芹那は正直苦手なのだが、どうやら芹那に好意を抱いているらしく、良く絡んで来る。

 挙げ句の果てに、無理矢理唇を奪われそうになった事もあり、あまり会いたく無い。


「ホント……最悪……」


「なーにが?」


「え……」


 帰っている途中、声を掛けられ振り返ると、そこには西木が居た。

 芹那は背中に寒気を感じた。

 香水のキツい匂いを鼻に感じながら、芹那は表情を歪める。


「さっきの男と用事終わったの? なら、俺と遊び行こうよ」


「い、いや……もうちょっと疲れちゃって……」


「良いじゃん、良いじゃん! 行こうよ!」

 

 肩を抱いてくる西木。

 芹那はそんな西木の行動に、思わず鳥肌が立ってしまった。

 いくらMとは言っても、生理的に無理な人間は、本当に無理な芹那。

 プレイの一環でも西木とは絶対に遠慮したいと考える芹那。


「ご、ごめんね……もう帰るから」


「じゃあ、送るよ! 行こ行こ」


「わ、悪いよ……」


「大丈夫だって、俺暇だし」


 そう言って西木は芹那について行く。

 歩いている間、西木は芹那から離れようとしない。

 ずっと体のどこかを触って来ており、芹那はそれが嫌でしょうが無かった。

 

「俺さ~秋村の事結構タイプだったんだよね~」


「そ、そうなんだ……」


「さっきのって彼氏?」


「ち、違うけど……」


「え、マジ!? じゃあ、俺とつきあっちゃおうよ~」


「そ、それは……ちょっと……」


「え~なんでよ~」


 歩いてる最中ずっと話してくる西木に、芹那はすこしうんざりしていた。

 芹那が軽く西木をあしらっていると、突然狭い路地の裏に連れ込まれた。


「な、何?!」


「おれさーマジで秋村って好みなんだわ~」


「や、やめて!」


 無理矢理キスをしようとする西木に、秋村は叫ぶ。

 しかし、男子の力に女子は勝てない。

 もうダメだと感じた時、芹那の脳裏には優一の顔は浮かんでいた。


(優一さん……助けて……)


 心の中でそう思っていた。

 現実になんてならないと思っていた。

 しかし、そんな芹那の思いは嬉しいことに裏切られる。


「おい、昼間っから盛ってんじゃねーよ、クソガキが」


「あぁ?」


「え……」


 そこに居たのは、西木の肩を力いっぱいに掴む優一の姿だった。


「なんだよ、俺邪魔するやつとか嫌いなんだよね~」


「あぁ、気が合うな、俺もそういう奴は嫌いだよ。だけどそれ以上に女に無理矢理迫る男が嫌いだよ」


 皮肉っぽく笑いながら言う優一。

 そんな優一に腹を立てた西木。

 優一の胸ぐらを掴み、眉間にシワを寄せながら言う。


「あぁ? 何、俺の事知らないの? この辺じゃ、喧嘩強くて有名だよ?」


「おぉーカッコイイね~。でもそんな馬鹿の話しは聞いた事がねーな」


 ニヤリと笑みを浮かべる優一。

 そんな優一の反応に、西木は更に腹を立てる。

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