最後の五分

御徒町組

第1話

昨日から息苦しかった。いつも、意識はあるのに、見ることもできない。聞こえないわけじゃないけど、何も言えない。

 あ、小夜の声がする。留美の声もする。大丈夫だから心配ないから、家に帰って家族のために、ね。こう言いたいのに、何も言えない、目も開かない。

 「大丈夫そうだけど、おばちゃん、連れてくるね。」と、孫の静香。

 「あ、その前に、コンビニでお昼買ってくる。妙おばさんも来るよね?ねえ、いくつ?いくついる?」相変わらず、食いしん坊な子だ。「みんな、そんな心配しないでお家に帰んなさい。」こんなに言いたいのに、一声も出ない。ああ、苦しいなぁ。なんだか胸も痛い・・・。

 子どもを4人育てて、その孫のお世話も7人とも、産後しばらくめんどうをみた。娘たちが、産後、ゆっくりできるよう、ミルクを作ったり、麦茶に砂糖を入れてさましたのを飲ませたり。おむつをかえて、上の子の面倒をみて、大忙しだったけど、にぎやかだったね。

 おまけに、曾孫まで面倒をみたんだよ。かわいかったね、小さくてね。孫はそばに住んでたから、バスに乗って、しょっちゅういったりきたりしたよ。それが唯一の楽しみだったね。でもね、転勤で遠くにいっちゃってね。

 なんだか苦しいのが止まらない。いつもなら少しましになるんだけど。なんか聞こえる、「お母さん、大丈夫?」

だから大丈夫なんだよ、心配いらないから。

でも、苦しいね。

「わかこさん』、看護婦さんの声かね。

「はい」返事したら、目が開いた、娘達の顔が見えた。もう満足だね。

「あ 」孫の愛ちゃんの声だ。みんな、ありがとね。




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最後の五分 御徒町組 @goodhead

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