いちげきひっさつ!!~部を追われた最強ボクサーは格闘ゲームで頂点を目指す!~
神坂 理樹人
プロローグ
「ちくしょう。痛てぇじゃねえか」
全身が燃えているように痛む。もしかするとあばらの一本や二本くらいは持っていかれてるかもしれなかった。
暗闇の中の路地裏、目の前には俺が倒したばかりの五人ほどが、うぅ、という低い唸り声を上げながら地面に転がっているのが見えた。
「何がリンチだ。気に入らねぇって言うんだったら自分で強くなって俺に勝ちゃいいじゃねえか」
ここに倒れているのが今日まで俺と一緒に練習していたボクシング部の仲間、のはずだった。それが夜になってこの有様だ。
「何が先輩を立てろ、だ。勝手に倒れてるのはそっちの方じゃねぇか」
グローブもなしに殴ったせいで拳も痛む。もしかするとこっちも折れてるかもしれなかった。少しずつ痛みの引いてきた体を起こして俺は逃げるように路地裏を出た。こんなところを見られたらどう思われるかわかったもんじゃない。
夜の街はいろんなところに明かりが灯っていて昼間とはそれほど変わった様子もない。その中で俺の目に飛び込んできたのはひときわ輝くゲームセンターの看板だった。最近は数も増えてきた。eスポーツが世界中で認められて、もう十数年が経つ。以前はいつ潰れるか、と人の口にあがっていたゲームセンターも今は通りを歩けば二軒、三軒と目に入ってくるようになった。
ゲームをやっていると視力が落ちる。そう言われて俺はめっきりやらなくなってしまっていたが、子供の頃は誰しもがそうしていたように俺も友達とガチャガチャとコントローラーを動かしながら競いあったものだった。
もうあの部にはいられないだろう。ゲームだってやっても構わない。そう思っても気は進まなかった。それよりも俺はどうして負けてしまったのか。その考えの方が頭の中に浮かんではぐるぐると巡っていく。
タイマンなら、リングの上なら、絶対に負けない。そう思っていた。でもほんの数人に囲まれただけでこのザマだ。相手を全員倒したって、こんなボロボロじゃとても勝ったなんて言えない。
どうして、どうして勝てなかったんだ。世界最強、そんな言葉を夢見てきたはずなのに。
比較的暗い道を通って家まで帰った。もう帰る場所がない。そんな気がして俺はただ真っ黒なアスファルトの地面だけを見つめていた。
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