4-2 人妻
「ところで、先ほど作った設定で少し気になることがあります」
詩音は、口に運んだ月餅のかけらを飲み込んでから、不自然ではないかと思っていた点を指摘した。
「私が積み荷に紛れて入ってきて、城下町で出会って以後逢引を、.ということにしましたが、そもそも皇帝陛下がそんなにしょっちゅう城下へ行けるのですか?」
遥星はなんてことない、という風に答える。
「あぁ、城下にはよく一人で行っていたし、問題ない」
「一人で行かれるのですか?何をしに?」
「うーん、私は詩作に耽ける時に、刺激が欲しい時が多々ある。今まで見た事のないもの、聴いたことのない音、触れたことのないもの、そういったものを求めて、城下へこっそり行っておるのじゃ」
──あの日、暗殺されかけたというのに、なんて暢気な。しかも犯人の一人は捕まっていないのだから、油断ならないんじゃないのかな。
ツッコミどころは多々ありそうなものの、詩音としては、周囲に不自然だと思われなければ問題ない、と無理矢理自分を納得させた。
それにしても、結構自由にフラフラ歩き回っているようなのが気になった。
皇帝ってもうちょっと縛られているというか周りにいつも人がいるようなイメージがあったから、逆に心配になる。
──皇帝らしくない、
──というか皇帝らしい要素が見当たらない。
──若いというよりも子供っぽくて威厳はないし。
──こう見えて実は、とか、プラスの要素を隠し持っているならいいけれど。
「それと、もうひとつ。私は貴方より幾分か年齢が上だと思うんですが、それは大丈夫ですか?」
遥星はきょとんとして答える。
「年齢が上だと問題があるのか? 別に、子供が産める年齢なら構わないと思うが。后に求めるものは、美貌と教養じゃ。たぐいまれな才能があればなお良し。要は、優秀な世継ぎを産んで育てられるかどうか、だ。年上だろうが人妻だろうがな」
「ひ、人妻?」
自ら質問した年齢云々よりも別のところが気になって、つい聞き返す。ついでに、「美貌」「教養」「才能」、どれをとっても自分は中途半端なその条件は、聞かなかったことにした。
「あぁ。私の兄の正妻は、攻め落とした城主の夫人だったのを戦利品として攫ってきた女なんだ。有名な美人でのう」
(.......はい?)
──え?いやいやいやいや。なんか凄いことサラッと言ってますね? モノ扱いっていうのは、まさにこういうこと? いやなんかもう、物理的に物じゃん、おいおい。
常識が違うって、こういうことを言うのかな、と、詩音は次から次へ出てくる理解不能な要素に、目が回った。そして、安易に結婚の承諾してしまったことを後悔した。この調子だと、この世界で「女」に人権はないに等しいのかもしれない。
彼や周りに流されないように、せめて身辺をしっかり固めねば、と詩音は決意した。
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