41話 健全な交際をすべきと申し上げておきましょう
昔馴染みとも言えるエルフの少女が日本に来たと思えば、妻(予定)の神剣少女と修羅場になり――――。
「――――ディアっ!? ローズっ!? これってまさか…………」
「ええ、お気づきの様に結界を張って位相を一時的にずらしたの」
あちらの世界では、結界魔法は主に魔力で作った壁で魔物の侵入を防ぐ事に用いられる。
中に入れる人物をピンポイントで指定し、なおかつ生存の問題ない位相の異なる空間を作り出す事など、あちらの世界でもイアにしか出来ない高度過ぎる芸当だ。
「いくら二人きりで話がしたいと言っても、やり過ぎじゃないか? 」
「やり過ぎ? そんな事は無いわ。だって――――」
――――その瞬間、ぱさりと服が落ちた。
「…………は? え、うん? はいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」
「せ、背が元に戻っちゃったけど、た、逞しさは変わらないわねオサムの体」
頬を赤らめて、イアの声が上擦る。
然もあらん、物理法則を無視して修の制服のみならず下着までも床に。
それだけでは、無い。
イアの着ていたローブや皮の胸当て、緑色を基調としたワンピースが、これまた物理法則を無視して下に。
(健康的な真白の肌っ!? 前も思ったけど意外に毛深――――じゃねぇよっ!?)
ディアと比べると平坦と言っても過言では無いが、なだらかであろうとも、確かに起伏のあるおっぱい。
肉付きのよい褐色少女と比べ、そこらかしこが薄いけれど、その括れは勝るとも劣らず。
揉みしだきたいかの臀部と対する様に、手痕を付けたら背徳的な気分になりそうな、小ぶりでひきまったお尻。
「ふふっ、あ、あの子と比べれば貧相だけど、お気に召したみたいで、う、嬉しいわッ」
端的に言うならば、スレンダーという美の極地がそこにはあった。
豪華なステーキと高級魚の刺身、どちらが良いかなんて比べる事が出来ない。
そんな男の性に、修といえど抗う事が出来ず、ごくりと生唾を呑んだ。
「いいいいい、いきなりっ、何なんだこれはっ!? イアが怒ってるのは解ったから、こんな悪戯は止めてくれっ!?」
「悪戯? オサムは相変わらずこの手の事は進歩していないのね。…………妾は、本気よ」
イアはそう言うと、何の予備動作も見せずに屋上の地面から太い蔦を出した。
それはあっという間に修の体に巻き付き、四肢を拘束する。
いかに勇者といえど、味方である筈の少女からの不意打ち。
しかも全裸で混乱状態の中、避けられる訳が無い。
「んなっ!?」
「言ったでしょう? オサム、アンタを妾の伴侶として迎えるって、何なら妾が嫁入りしてもいいって。あれは冗談でもなんでもないわ。――――理解してなかったのはアンタだけよ」
イアは熱い吐息で、オサムの体の傷を触る。
この一つ一つに、思い出が詰まっているのだ。
「ぅ、ぁ、…………っ、イア…………。こんな事、駄目だ」
「何故? 理由を教えて頂戴?」
それは、修が見たことも無い彼女の姿だった。
ねっとりとした手つき、思わず惑いそうになる体温、瞳は緋色を濃くしまるで夕暮れ時の様。
凛として活発な雰囲気が、沈み落ちる太陽の様に静かに、そして確かに強く輝いて。
(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイっ! 誰か助けてせめてコンドームううううううううううううっ!?)
修にはここで童貞を、もっと言えば子が出来る様な行為をする訳にはいかない理由がある。
たった一つの約束、そして何よりディアを裏切る様な事は――――。
(――――『伝心』よっ、誰かに知恵とか…………あれ?)
「ああ、『伝心』は封じさせてもらったわ。魔王との決戦の時にも同じ様な結界を使ったでしょう? それのちょっとした応用よ」
「そういうのは他の事に使わないっ!? あ、そこは駄目――――」
イアの手が徐々に局部へ、修の童貞は最早風前の灯火の様に思われた。
だが。
(――――主殿、お困りのようだな)
(その声はゼファ、すまない久しぶりだけど何とか出来るのかっ!?)
ゼファは修と融合状態にある聖なる剣だ、抜剣しただけで切り裂く能力が、と期待した修だが当のゼファによって否定させる。
(我が使われないのは平和で良いことだ、だがすまない。あくまで持ち主の身体能力を高めて、切れ味が良いぐらいだ)
その身体能力の向上に関しても、この蔦を引きちぎる事は出来ないと言う。
修の感覚では、大型トラックの突進を止める力はあると確信出来るが、それでも駄目らしい。
恐るべきは、イアの実力という事だろう。
(だが希望を捨てるな主殿、我には女神から授かったもう一つの力『ラッキースケベ』があるっ!)
(そんなんでどうするんだよっ!? ほら、もうヤバいって!、ヤバいってっ!?)
無言の修を諦めたと見たか、イアはよりねっとりと手つきを。
初めての感覚が修を襲い始める。
(『伝心』を使うのだ主殿、昔の仲間ではない。御細君に、だ! 姿形はヒトでもアレは主殿の剣、『伝心』の力も得ている。ならば――――)
(呼べば来るのかっ!? 来るんだなっ!?)
(そうだっ! 『ラッキースケベ』と二人の『伝心』を信じるのだ主殿っ!?)
ゼファの言葉の直後、修は息を大きく吸い込む。
「――――オサム?」
「来いよおおおおおおおおおおおっ! ディアああああああああああああああああっ!!」
その瞬間、位相の違うディアの心に修の心が届く。
「呼んでる…………オサム様が呼んでいますっ!」
「ふわっ!? ママ? いきなり何を――――」
「今、お側に参りますっ!」
ディアは「伝心」と本能の伝えるまま、神気ともいえる力をありったけ注ぎ込んで。
「――――消えた? 結界の中に入ったというのかっ!?」
ローズはただ驚くばかり。
そして次の一瞬、結界の中にディアが降り立つ。
――――降り立った直後、例によって服が全て脱ぎ落ちたのだが。
ともあれ、ディアはイアの結界内に出現した。
「来てくれた――――って、全裸っ!?」
「はァッ!? そんなバカなッ! 魔王だって打ち破る事が――――」
「無事ですかオサム様っ!? いったい何が起こって………………起こって?」
我が儘なおっぱいをゆっさゆっさと揺らして駆け寄ったディアは、拘束された状態の修と、絡みつくイア。
そしてどちらも全裸の状態に困惑する。
「…………お、おっきいし、括れてるし、おっきいし」
「すまない、この蔦を外すかイアを止めてくれっ!」
美人は三日で飽きるなんて言葉があるが、そんなの嘘だ。
このエロと美を兼ね備えたボディに飽きる事も、慣れる事も一生無いだろう。
修は顔を真っ赤にして目を反らしながら懇願する。
彼の反応に、イアは歯がゆく思い、ディアはいつもと同じと少し安心しながら取りあえず修に絡みつく。
「事情は解りませんが、オサム様を離してください」
「ハンっ! 何よその余裕っ! 妾達はこれからセックスするのよっ! アンタなんて及びじゃないのっ!」
「――――は?」
「で、ディアさん?」「ふェッ!?」
場の空気が凍った。
イアの言葉のどれが、そんなに気に障ったのだろうか。
ゴゴゴゴと始めてみるディアの鋭い雰囲気に、修は目を白黒。
美しい美貌を持つ者の凄みは、イアも思わず恐怖を感じ。
「――――今、何とおっしゃいましたか?」
それは以前ローズに向けられたそれより、堅く鋭く冷たく。
怯んでしまったイアだが、修にもっと体を押しつけ、その体温を勇気を貰って言い返す。
「せ、セックスするって言ってるのよっ! 子作りして、オサムを妾のモノにするんだからっ!」
「セックス…………、ええ、そうですそれです」
「えーと、ディア? セックスするつもりは俺には無いからな?」
「その状態ではオサム様の意志は関係ありませんし、オサム様にどうこう言うつもりもありません。――――イア、さん?」
碧眼をぎょろりとイアに向けたディアは、修を介して対面至近距離に居る彼女の手を握る。
「な、なんだって言うのよ…………!?」
「――――…………ぃです」
「は? ちゃんと言いなさ――――」
「――――狡いですっ! 狡いですイアさんっ!」
ディアはイアの両肩を掴み、がくがく揺さぶった。
「私だって興味あるんですよ! セックスというのをしてみたいんですっ! でもオサム様は話題に出すのも避けてる様子ですし、皆さん体を重ねれば愛が産まれるって言ってるのにっ、いずれオサム様からセックスしてくれる時が来るって我慢していたというのにっ!」
「わ、わかったからッ! 揺らさないでったらッ!」
イアがディアを無理矢理引き剥がす最中、ゼファが呆れた様に修に告げる。
(主殿、本当に男なのか? 付き合いが短い我でもはっきりと解る。そういう所だぞ? 童貞なのは)
(うっさいゼファ!?)
続けて修に鋭い視線が突き刺さる。
一つはディアの不満そうな。
もう一つは、イアのバカを見る目。
「オサムは本当に…………女の子にこんな事言わすなんて信じられないわ」
イアはこの時、不覚にもディアに同情を抱いてしまった。
女神の使命がどうあれ、彼女の正体がどうであれ。
同じ様な「もどかしさ」を感じる同士である、と。
(この女は気にくわない、気にくわないけど――――)
聡明なエルフの打算が組立を始める。
このままだと、引いてしまえば次の機会が何時になるか解らない。
(――――それに、フェアじゃないわ)
恋は戦争、手段も方法も選ぶなとエルフの故事にもあるが。
同時に王族エルフの誇りにかけて、彼女と対等でありたい。
ならば、ならば。
「ディアさん、良い話しがあるのだけれど。乗ってみないかしら?」
「…………聞きましょう」
「おい、何だか嫌な予感がするんだけど?」
残念ながら、修の声はスルーされた。
獰猛かつ婉然な笑みで、イアはディアに右手を差し出す。
「提案するわ。――――妾とディアさん、二人でオサムとセックスするのはどうでしょう。オサムがどちらを選ぶかは…………」
「…………オサム様次第、という事ですね。了解しました。乗りましょう」
白い手と褐色の手が、がっちりと握手を。
そして二人は、目を爛々と輝かせてオサムの耳元で。
「お、おいっ!? マジで止めろってっ!? おいっ!?」
このまま卒業してしまうのか、初めてはリードしたい派の身の程を弁えない童貞勇者の大切なモノは、無くなってしまうのか。
修が期待と不安と羞恥やら、女性上位という性癖への扉の前に立った瞬間。
「刻みつけてあげる。魂の底まで、妾という存在の事を――――」
「私の体、堪能してくださいねオサム様――――」
そして。
「――――――未成年の男女交際は! 健全にお願いします!」
第三者の声が響いたその瞬間、パリンと結界が破壊され、空から黒髪の巫女が降ってきた。
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