第28話 嫁の朝帰り

久しぶりに本を読んだ。

一冊目は嫁に薦められた村田沙耶香著『コンビニ人間』

嫁は本が好きで、しょっちゅう図書館で本を借りて読んでいる。これは各方面に色々な影響を与えていて、主に我が家の家事(掃除)と嫁の体に影響を与えている。

しょっちゅうというのは本当にしょっちゅうで、ほぼ毎日コタツに寝転んで本を読んでいる。

嫁が『太った太った』と言っているが本当に太った。本当に太ったが本当に太ったというと機嫌は悪くなる。


パターンA

嫁『太ったわ~』

俺『そうなん?』

嫁『そうなん?ってなんな。言いたいことがあるなら言うてみい。』

俺『なんもないわ』

嫁『言えやっ(怒)』


パターンB

嫁『太ったわ~』

俺『そうなん?』

嫁『そうなん?ってなんな。言いたいことがあるなら言うてみい。』

俺『まあちょっと太ったかもなぁ』

嫁『なんじゃと(怒)』


逃げ道はない

逃げ道はないのだ。

この話題になった時点で逃げ道はない。

嫁は出産のせいだ、というが最後に出産してから5年以上経っている。この手形はいつまで使えるのか。


嫁は炊事と洗濯はしてくれるが掃除は大の苦手だ。この点は神経質な自分ととても相性が悪い。目が悪いので汚れが見えていないのか、見えているが掃除する気がないのか分からない。ただ専業主婦なので掃除ももう少しして欲しいがこちらの案件も追及すると地雷を踏むので追及しない。

結婚して数年は追及していたがあちらは変わらないし、それで喧嘩をして家の雰囲気が悪くなるのも疲れる。

家も会社も居場所がなければ休むに休めんじゃないか!

そんな嫁の最近の口癖は『フルスイングで』だ。ちょっと前までは『任せろ任せろー』だった。


話を戻して。

動かずに食うのだから痩せるはずがない。只でさえ筋肉が減り代謝が落ちる年頃だ。痩せるはずがない。実に物理的に痩せるはずがない、と思う。

昔の侍の絵の様に下腹ぽっこり。

そんな嫁のオススメが『コンビニ人間』だ。

『久しぶりに本でも読んでみようかなー、何かねえかなー』と言っていると嫁が渡してきたのだ。


これは、物語にあまり関係ないかもしれないが第一印象で装丁が好きだった。

そしてサクサク読んだ。コンビニでしか働けない主人公の主観で話は進んでいく。架空の人物だろうが診断を受けたら何らかの発達障害を言い渡されそうな主人公はいい年でコンビニのアルバイトで生活している。

その話中のエピソードが自分の事のように感じられる。

世の中に溶け込めない何か。そして溶け込む努力も出来ない。やらないのではなく出来ない。そういう人間もいるのだ。

自分のようなしがないサラリーマンが読み進めていくとジワジワとした、そこはかとない不安が滲み出てくる。

今何とか暮らせているレベルでは老後はどうなるのか。とても貯えが出来るように思えない。大きな怪我や病気になったらどうか。

しかし、主人公は自分の居場所を見つけているという一点で小生よりも幸せに思える。

自分の居場所とも思えない職場にかなりの拘束時間を割かれながら辞める勇気もない小生よりは。


そして2冊目は『戦国武将の死亡診断書』だ。これは自分の趣味の世界で前から読んでみたかったものだが思っていた内容とだいぶちがった。

戦国武将と言えども勇猛果敢に戦で亡くなった人達ばかりではない。

もちろん病気で亡くなった武将もいて、残された症状の記録から、西洋医学的見知でもって死亡診断書を書いてある。

というのもその時代は西洋医学がまだ日本にしっかりと入ってきておらず東洋医学だったり民間療法だったりで治療していたようだ。

これに対し本当の死因はこの病気だったのではないか、ということが書かれている。


一冊を通して死亡診断書をテーマとした物語かと思っていたがそうではなかった。

戦国武将の簡単な経歴に死亡診断書が添えてある。

有名どころの武将は網羅してあり、ざっくりとその生涯が読めるのはそれはそれで面白いのだが、目を引いたのはその武将にかかるストレスについてよく言及されている点だ。

話中では確かに、島流しにされて戦や政治的なストレスから解放された人が長生きしていたりするのだ。

自分も何かの講習で聞いたことがある。

人間の病気はそのほとんどがストレスが原因だと。それが自分の弱いところに出ると。


嫌だなストレス。あるなぁストレス。

何がストレスかって、今絶賛ストレスなのが嫁の朝帰りだ。

子供のサッカークラブの親同士の忘年会に行き朝帰りして帰ってきた。しかし、この問題は自分にとって(浮気したんじゃないか?)というだけの問題ではない。

まず彼女には忘年会に行く権利があるだろう。

そして浮気どうこうをさておいて朝帰りする権利もある気がする。

というか日本の憲法からしたら浮気も許されないのかもしれないが、生き物として魅力的な異性がいれば性交渉するのは当然のような気もする。

自分は人との付き合いもなく、彼女への依存度は高いといえると思う。

束縛と言われると辛いがしかし、確かに彼女に自分とだけペアでいて欲しいと思っている。


だが上記の理由から自分が彼女をどうにかすることは出来ないと思える。

浮気は無かったとして日頃家事と子育てに追われ、年に一度か二度朝まで酒を飲んでカラオケをするのがそんなにいけないか?と言われればそれを止める言葉は自分にはないし、もし誰かを好きになったならやめてくれといって説得できるようにも思えぬ。

そして一方では忘年会に行きたいのなら行かしてやりたいとも思っている。

しかし自分が飲みに行き朝まで飲み続けるようなことがないためその場の雰囲気というものが分からない。嫁を信じきれればそれは美しい話なのかもしれないけどそれができる人間ばかりではないですよね。

他所の家も母親だけ参加の家もあるみたいだが、そこのお父さんは遅くなっても何も文句は言わないのか、と自分の器の小ささが余計に嫌になる。

先に寝といて、とラインがきて、いつも寝るのだがたまたま寝時を失って寝れずに起きていたが待てど待てど帰って来ず、とうとう夜が開ける前に自分は会社に出発し、そのまま飛び出してきてしまった。

今までも実は朝方まで帰って来てなかったのか?俺が気づいてないだけだったのか?

頭の中がぐるぐるとして考えがまとまらないし、今帰って嫁と顔をあわせた時にどんな顔をすればいいか全く分からなかった。

そんなこんなで今車で寝ているわけだ。

仕事が終わった足でニトリに行き毛布を買い、ドラッグストアで歯ブラシやタオルを買って大衆浴場へ行き、今その駐車場で車の中に転がっている。


自分が嫌だ。

きっと全く気にしない人もいるだろうし、いつも通り帰れば今まで通りの日常が続くのかもしれない。でも自分はそうはできない。

嫁に対するモヤモヤした気持ち、自分の器の小ささに対する幻滅。

揉めて嫁が忘年会に誘われなくなるのも確かに嫌なのだ。

自分には方法がない。

頭の中が堂々巡りだ。


そうだ明日は寿司を食べよう。

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