第3話 2018年7月30日(月)

何とか台風は抜けた様で、朝早く出発し山陰の海へ向かってみる。


水温はどうか。にごりはどうか。


台風12号は変な台風だった。

まず名前が変で進路が変だった。

名前はジョンダリだった。

名前に変もへったくれも無いのかもしれないが、馴染みの無いその音は海辺のゴリラと山間部のゴリラのハーフに生まれた岡山の片田舎の純和風ゴリラの頭には最後まで入らなかった。

ジョンダリは太平洋側から近畿に上陸し、中国地方を抜け、九州へ下ったのだった。

朝6時に起き、嫁の実家辺りの天気が良く、また天気予報で山陰は晴れになっていたため、ダメ元でいそいそと海へ出掛けたのだ。


2時間ほど車内で過ごし、海に着く。

我が家の人間は海が好きだ。ウィンタースポーツをまったくやらない代わりというか、海水温が上がってからクラゲが出だすまでのわずかな期間を楽しみにしている。


少ない海水浴の中でもよく来るこの砂浜は幅が広く、遠浅で沖に飛び込み台のような物があり、また多少魚を捕るのも期待できた。

波がよい場所だそうで向かって左手には平日にもかかわらずサーファーが大勢波と戯れている。

妻もサーファーであり、今は子供がいるので我慢しているそうだが、それでこの場所を知っているわけだ。


サーファーが波を待ちながらサーフボードにうつ伏せになってプカプカ浮いているのは絵になる。

なんというかサーフィンには他のスポーツにない雰囲気がある。スポーツというより俗世間にまみれていない、そういう生き方を選んでます、実行してます、ハイ、というような感じがある。

つい俺の孤独心がくすぐられてしまう。

(ハイエースか?キャラバンか?ハイラックサーフか?ピックアップトラック派かっ!?

朝波に乗って、昼間バイトに行って、夕方また波に乗るんか!?

海の家か?海の家でバイトか?

別れたばかりで『しばらく女はいいかなー』とか言いながら浜で地元の子と知り合い、毎日顔合わすうちに仲良くなり、ボード片付けながら最高の夕陽を見るんか!?

焼けた肌と海がモチベーションか

チャラい見た目とは逆に礼儀正しい仲間とこの夏を楽しむんかっ!?)

青い空と海のもと、アラフォー孤独な俺はどこまでも卑屈だ。


海水浴場として営業はしておらず沖にネットを張ってはいない。

またシャワーやトイレは無いが、割りときれいな川が流れ込み、浮き輪等の海水と砂を軽く落とせることと駐車場代がかからないことを家内は愛しているようだ。

便意は小さい方はこの青い海が包み込んでくれるだろう。大きい方は来る前に済ませてくる方がよさそうだ。


車から荷物をおろし浜に運ぶ。

日除けにワンタッチのテントをはる。

子供は待ちきれずに海に入っている。


どれどれ

足をつけてみる。

むむ

台風のせいか、冷たいな

周辺をパトロールするが濁りもある。見釣りをやるが釣り餌以外の物も舞っていて魚があまり餌を追わない。

バカタレ(息子1)もヤスを持って頑張るが視界が悪く波もあり魚が突けない。


早めに魚捕りに見切りをつけ、飛び込み台へ向かう。

ここでまさか足が着くと思わず飛び込み、足への衝撃がモロに腰にきてぎっくり腰の様になってしまう。

浜まで死ぬ気で泳ぐ。

足は使えない。

人は浮くはずだ、人は浮くはずだ、人は浮くはずだ、と頭の中で繰り返していると念仏のように思えてきた。絶対絶命の状態で藁へもすがる思い。

こうしてお経はできたんじゃないかしら。


遠浅だったので思ったより早く足が海底に着くが腰が痛くて歩けないため、波を利用して仕込まれたアシカのように陸に乗り上げた。

こうして1時間ほどで俺の海は終わった。


今日で家を空けて3日目だ。

亀よ・・・

預ける人もいないこの侘しさよ。





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