一番書きやすい方法で

ヨナヨナ

#01

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 その男は慣れた手付きでバッグから鏡を取り出して自分の顔を見ようとしていた。僕はその人の事を目で追ってその男がデザイン事務所に入ったのを見た。

洗練された見事な鏡の扱い方をする人を見たのは初めてだった。黒いスーツに黒いバッグの男にその鏡が貫くように澄明な青空を映すのを僕は想像した。僕はそれを想像裡に美しく見せようとする動作をより一層、美しいものに変えようという虚しい努力をしたいのだ。

 現実は常に反抗する。ある人はあれはオカマのする手付きだと言う。カラスが光り物を突付いた挙げ句、醜い傷跡をつけて飛び去っていったのだと言う。

 その行動についてより洗練の度合いが増すような説明をしないのを僕は不思議に思って指摘した。

 またしても反抗する。前よりもいっそう騒がしい様子だった。

「あれはあの人が決めてやったことだから私には分からないのは当然だ」

「ふーん。なるほどね。君は目が見えないね。耳が聞こえないね。全く君は何も感じ得ない人間だね。」

「説明の過分と予測の蓋然性は互いにアンチの可能性を持つと推測するが僕が言いたいのは至極当然の定義だ」

 それから声の人達はどこへ行ったのだろう。僕の前からたちまち消えてしまった。僕が完璧に行動を記述した後に気づいたことだった。

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