休日のヴァンパイア
カシ介
休日のヴァンパイア
ヴァンパイアであることは案外バレにくい。
人より発達し過ぎた犬歯を見せびらかさなければ、日常生活において存外心配するほどのことは起こらない。
この日も職場の同僚と飲むことになっていた。自宅の最寄り駅から3駅乗った先で降りて8分ほど歩いたところにある居酒屋だった。店に着くとすでに同僚たちは席についていて、「おつかれー」と挨拶をされた。長袖に全身黒色だったため、半袖半ズボンの同僚たちから「暑くない?」と毎度のこと心配される。
「とりあえず生」を全員で頼んで、飯は適当に各自が注文していった。
途中、「ガーリックライス」と一人が言ったら、もう一人も「いいねー」なんて追従していたが、俺は「今日はいいかな」なんて乾いた嘘をついてその場を流した。
顔を赤くしている彼らは、上司と仕事の愚痴三割、異性の話四割、金についてのあれこれ三割という感じで議論を続けた。
会計を済ませると彼らは「女の子のいる店に行く」と言ったので、店の外で別れた。女性を間近にすることは耐え難い吸血衝動との闘いになる。できれば避けたい。エスカレーターを降りている目の前の人間の頭を突然叩くことがないように、いきなり相手の首筋に噛みつくことはもちろんない。それでも痒いところをかけない気持ち悪さを意図的に享受しようとは思わない。
とくに用事があるわけでもなく帰るだけだったので、ぐるりと遠回りして普段通らない道から駅を目指した。駅前に立ち並ぶ飲食店やら古本屋やらCDショップを眺めて楽しむ。髑髏や雷模様が目立つ雑貨屋には一瞬興味を惹かれたが、十字架のアクセサリーもごろごろしていたのであっさりと素通りした。
休日だったので車内は混み合うことなく座ることができた。帰宅したら動画配信サービスのアニメでも見ながら飲み直そうと、電車に揺られながら思った。
休日のヴァンパイア カシ介 @ichinichiissetu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます