弱小錬金術師としてパーティーを追放されたけど、実はトップクラスのパン職人!〜日本のパンで旦那様を支える〜

櫛田こころ

0.まず抜けさせられた

 


 悪い事ばかりじゃなかった。



 いい事も、たくさんあった。



 けど、だけど。



 錬金術師、チャロナ=マンシェリーとして私は。




 パーティーのメンバーには、やはり、『お荷物』だったのだ。









 *・*・*








 二日前のことだった。


 私が、パーティーの雑用をいつものようにこなしているとリーダーのマシュランに呼ばれたのは。




「チャロナ、今少しいいか?」

「なぁに? マシュラン」



 雑用はいつもの事。


 レベルは悪くなくとも、不適正なのかポーションがうまく作れない私にとって、料理や洗濯はいつもの事。


 その日も、野営地で炊事をしてる途中だった。



「…………その、非常に言いにくいのだが」



 労いとは違う、決断に満ちた言葉。


 それだけで、私はある事を理解した。そう思ってから、鍋をかき回してたおたまの手を止める。



「……なんとなく、言いたいことわかるよ」



 私がそう言えば、マシュランから息を飲む音が聞こえる。


 もうほぼ、答えに近かった。


 だから、私は何も言わずに彼の言葉を待つ。



「…………すまない。パーティーのためだ」



 見ずともわかる。


 そよ風よりすこ強い風の流れを受けたことで、マシュランが私に向かって初めて腰を深く折った事を。



「……明日、でもいい? 最低限の身支度はしたいから」



 拒否権がなくとも、それだけはしたかった。


 さすがのマシュランもそれだけは頷いてくれ、私は翌日いくらかの謝礼金のようなのを渡されてから、二年は在籍してたパーティーを抜ける形になったのだ。



「皆、笑ってくれたらよかったのに……」



 だいぶ離れた森の中に着いてから、私は彼らの別れ際を思い返した。


 どのメンバーも、結局はリーダーのマシュランも、皆泣きそうな顔をしていたのだ。


 パーティーとしての連携、同行などを考慮すれば、二年もほぼ雑用係だった弱過ぎる錬金術師など役立たずに等しい。


 それを、家政婦のように身の回りの世話がなんとか出来るから、居させてくれた。


 でも、それも時間が経てば考えは変わってくる。



(他の皆が強くなってるのに、私だけ全然じゃ意味がないもの)



 錬成も、戦闘術も。


 大して成長しないお荷物。


 自覚はしてたから、いつ言われるかなとは片隅に思ってはいた。それが、昨日になっただけ。


 なのに、メンバーの皆は悔やんでくれた。


 せっかく吹っ切って旅立とうとしたのに、彼らの前で笑顔になれたか自信がない。



「さって、次の街でギルド行ってー……適性検査し直さないと」



 謝礼金だって、大した額じゃない。


 でも、あるだけマシだ。


 もっと雑な扱いをするパーティーなら、身包み剥いで追い出すとかも、風の噂で聞いた事があるくらいに。


 あそこが、優しい人達で良かった。それだけが、救いなのだから。



「……っと、うっわ! 真っ黒い雨雲!」



 ひたすら森を歩いていたら、嫌な事に雨雲と遭遇。


 しかも、スコールがすぐそこまでってくらい最悪の色をしていた。


 山中程天気が変わるものはこれまでの冒険者業で培っていたが、油断し過ぎ。


 とにかく、急いで雨宿り出来そうな場所を探すのに走ったが……もう遅い。


 走った途端に降り始め、一瞬でびしょ濡れになった。



「最悪!」



 食料はカバンの奥にしまい込んでても、きっとすぐに雨水が染み込んでしまう。


 同様に服やとりあえず所持してる錬成用の道具なども、水に濡れては大変だ。


 足を止めずに走り続け、洞窟か大木のウロを探すもただでさえスコールなために視界が良好であるわけがない。


 走っても走っても影になるような場所も見えず、靴もどろや水が入ってきて二重の意味で最悪。


 いっそ脱いでしまおうかと思った時。


 私は、足を踏み出しただけなのに体が宙に浮いた。



「じゃな……落ちてっ⁉︎」



 それがわかった時には、メンバーのレイアのように浮遊魔法が使えたらと思った。


 だけど、私は魔力も底辺の錬金術師だったからそんな芸当出来るはずがない。



(ああ、ほんとお荷物だったな……)



 このまま死ぬかと思うと、今までの出来事を振り返るよりも先に、それがすぐ思い浮かんだ。






 ドカッ



 ベシャッ





 もう死ぬかと思ったら、下は案外すぐ近くで。


 でも、ぶつかったに変わりはないので体には衝撃が伝わった。


 特に、頭は受け身を取らなかったので地味に痛い。



「いったたた……」



 生きてはいたが、頭痛が治らない。


 それどころか、なんだか痛みが酷くなっていく一方。


 打ち所が悪かったか、傷が出来たのか。とりあえず痛む箇所を触ったが、さらに痛くなっただけだ。



「い゛っだたたただ⁉︎」



 触るんじゃなかったと思っても遅すぎる。


 あまりの痛さにこっちが原因で死ぬかと思うくらいだったが、痛みに耐えているうちに頭の中に変な光景が浮かんできた。


 パーティーと過ごしてた時期とか、まだ冒険者になる前の生活ではなく、もっと、まったく別の風景。




千里ちさとちゃん、次この成形しよっか?』


あまねさーん、一緒に分割しよ!』


『いただきものの野菜でコロッケ作ったの、まかないに出すね?』



 そんな会話に、見た事もない銀や鉄などの壁や道具に囲まれた、温かな空間。



(……違う、知ってる・・・・)



 見知らぬどころか、今の私よりずっと前に過ごした世界。


 そして、その仕事場。


 私は、『あまね 千里ちさと』と言うパン屋の職員である事を、典型的な事故で思い出せたのだった。



「…………そ、か。だから、料理、出来たんだ」



 最悪な状況に、最悪の展開と思ってた矢先。



 異世界転生を果たしてたと理解出来た途端、私は久しぶりに嬉し涙を流せた。

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