僕らは…10

夏休みが終わり、二学期が始まった。

クラスのみんなも元気そうで、一学期と何ら変わらない様子だった。


始業式ということもあり、学校は午前で終わり、俺はいつも通り、生徒会室へと向かった。


「よう、紅蓮。って、教室でもあったよな……」


「冬夜……お疲れ様」


紅蓮も普段通り、クールなままだった。


俺は夏休みの最後の日、紅蓮の秘密を知ってしまった。


本人に直接聞こうとも考えたが、紅蓮が今までに俺に話さなかったところを見ると、聞いてほしくないのだろうと思い、神崎紅が紅蓮だということを聞くことは出来なかった。


昨日の今日で、まだ心の整理がついてない俺に紅蓮は察したのか、


「今日は、教室でも話しかけてこなかったし、何かあったの? 冬夜、悩み事があるなら僕で良かったら聞く」


「悩んでることなんかねぇよ」


……お前のことで悩んでるんだよ! と大声で目の前にいる鈍感な紅蓮に言いたかった。


普段なら、言葉に出さなくても俺の考えてることは大抵わかる。

しかし、自分のことに関することだと、何故か察しが悪い。


都合のいい頭というか、俺が紅蓮のことを考えていないとでも思っているのだろうか?


こっちは、肝試し大会以来、お前のことが頭から離れないってのに……。


俺は紅蓮に初めての隠し事をしつつ、日々を過ごした。


朝から紅蓮の朝コールがあり、眠たそうな顔で、授業を受けては、生徒会室で紅蓮と二人、生徒会業務をする。


それが俺のいつもの日常。今まで通り、何もない。


唯一、変化したのは俺が紅蓮に対する想いが友情から恋愛へと変わったというだけ。

恋愛禁止の学校に居る以上、告白なんて出来ない。


ましてや、俺と紅蓮は男同士。

世間で同性愛が冷たい目線を送られていることくらい、ニュースを見ればすぐにわかる。


紅蓮に対する想いを本人に言わないまま、紅蓮と普段通り過ごして、気が付くと、十月中旬になっていた。

俺は何をしているんだろうか。このままでいいのか?


その日は先生たちの会議があるとかで、授業は午後一時には終了した。


家に帰り、昼寝するのも悪くないが、久々に寄り道でもしようと考えた俺は本屋に向かった。

マンガを買った帰り、突然、雨が降ってきた。


「通り雨か? 傘持ってねえよ」


俺はふと目線にはいってきたシャッターの閉まった店の入り口で雨宿りすることにした。


「雨が止むまで待つか……」


雨のせいであたりは少し暗くなっていたが、通り雨なようで別の方角を見ると、かなりの晴天だった。これなら、すぐに雨も止むだろう。


「冬夜、こんなところで何してるの?」


「……紅蓮」


紅蓮のことを考えていたら、本人に会えた。

それはそうだよな、家は違うとはいっても、帰り道は途中まで一緒だしな。


……ん? でも、待てよ。よくよく考えてみたら、なんで紅蓮がこんなところにいるんだ?


「俺は急に雨が降ってきたから、ここで雨が止むまで雨宿りしてるんだ。紅蓮こそ、どうしたんだ?」


「僕も冬夜と一緒。雨が降ってきたから雨宿り」


「お前でも、傘を忘れることがあるんだな」


俺は紅蓮に学校外で会えたのが嬉しかったのか、つい、紅蓮をからかってしまった。

好きな奴には意地悪をしたくなるという子供心というやつだ。


「冬夜、それはどういう意味?」


「常に完璧な会長様でもって意味だよ」


などという、会話をしていると、ふと、ある一組のカップルが目に入った。


「紅蓮、あれって……」


「……間違いなく、星が丘高校の生徒」


俺たちと同じ制服だったので、すぐに星が丘高校の生徒だとわかったし、腕を組んでいたから、付き合っているということもわかった。


普通の男女が腕を組んで歩くなんてこと、ありえない。

だから、カップルなんだろう。

しかし、俺たちの学校は恋愛禁止。しかも、生徒会長である紅蓮は常に校則に忠実だ。


だから、この光景を見た今、明日には教師に話すだろうと思った。

だが、紅蓮の反応は違った。


「冬夜。あの二人は付き合ってるんだよね?」


「あ、あぁ……」


再確認を俺にしたかったのか、紅蓮はそう聞いた。


「すごく幸せそう……」


「……」


紅蓮はそのカップルを見て、そう呟いた。


自分も恋人が欲しい、恋人が出来たらあんなふうな幸せな日常を恋人と過ごしたいと言っているようにも聞こえた。


「そう、だな」


紅蓮の問いに返事を返したが、俺は違うことを考えていた。紅蓮には好きな人がいる。

その人のことが好きで、その人のことを今度は小説にするつもりだと言っていた。


俺はこのタイミングなら言えると思い、紅蓮に今まで感じていた疑問を聞いた。


「なぁ、紅蓮。お前は好きな人っているのか?」


「…………いる」


「そうか」


かなりの間が空いたが、それでも紅蓮は好きな人が「いる」と答えた。

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